第8話事件の後始末
遂に魔法の国へ向けて出発する日の朝を迎えた。
エヴァリーナの旅立ちの準備は事前に済ませてあるので、今日は身支度だけを整えれば済む。
鏡の中の自分を見つめエヴァリーナは数日前の出来事を思いだしていた。
ベルザリオの一件が有ってから、エヴァリーナは自宅静養の形を取っていた。
あれだけの貴族の子供たちが集まるなかでの婚約破棄だった為、噂はあっという間に国中に広がった。
勿論王子であるベルザリオの愚行を噂するものが概ねだったのだが、中にはウイステリア侯爵家を良く思わない貴族もいて、エヴァリーナの事を悪く言うものもいた。
その為ウイステリア侯爵がエヴァリーナの悪い噂を消すまでは屋敷から外へは出さなかったのだ。
街へ出る許可が中々下りなかったのもその理由もあったからだった。
噂の火消しになったのはベルザリオの罪状が決まったからだった。
あの事件後すぐに自室で謹慎処分を受けていたベルザリオだったのだが、今は王子ではなく公爵の地位に就いている。
本来エヴァリーナとの結婚後はそのまま王太子の地位に就く予定だったのだが、今回の件で先送りになった。
つまり従弟である王弟大公の息子と今後王太子の地位を競う事になる。
今現在、次期王は王の弟である王弟大公が継承権第一位になり、ベルザリオは第二位に落とされた。第三位が従弟になり、今後の活躍次第で王太子の地位を授けるらしい。
学園内の出来事であったため軽罰で済んだのだとエヴァリーナの父親であるウイステリア侯爵は言って居たが、あのプライドの高いベルザリオにとってこれ以上ない重い罰となった事はエヴァリーナには良く分かっていた。
もしこのままベルザリオがレーナとの結婚を選ぶ様ならば、将来王太子の地位には就けない事だろう。
従弟の婚約者はウイステリア侯爵家に次ぐ侯爵家の娘だ。
妻の地位が低ければそれだけベルザリオを後押ししてくれる貴族の数は減る事だろう。
そう考えるとベルザリオは最低でも伯爵家の、その中でも地位の高い令嬢を娶らなければならない。
確実に王太子の地位に就きたいのなら、侯爵家かもしくは王弟大公家の娘である従妹との結婚しか無いだろう。
けれど長年婚約者であったエヴァリーナにあれだけの酷い仕打ちをしたベルザリオとの婚姻を望む貴族は今や少ない。そう考えるとベルザリオが王太子の地位に就くのはかなり低い確率と言える。
レーナを娶り王太子の地位にも就きたいのだとしたら、ベルザリオは国中の誰もが認めるほどの功績を上げるしか無いだろう。
果たしてそれがベルザリオに出来るのか……それはエヴァリーナには分からない事であった。
そしてもう一人の婚約破棄事件の首謀者であるレーナは、今は修道院に送られている。
そこはそれ程厳しい修道院ではなく、貴族のご令嬢が行儀見習いを兼ねて行くような、比較的学校に近いような場所だ。
レーナとベルザリオは現在お互いが婚約者候補の状態で留められているため、今後ベルザリオの本当の妻にレーナがなるのだとしたら、下手な場所へ送り傷を付ける訳にはいかない。
かといって侯爵令嬢であるエヴァリーナに嘘の罪を着せようとしたのだ、何の処罰もしないという訳には行かなかった。
その為レーナは三年間、その修道院で行儀見習いをする事になった。
貴族の女性の18歳から20歳と言えば結婚適齢期でもある。
その時期に社交界に出ることが出来ないレーナの嫁ぎ先は、もうベルザリオの元しか残っていないともいえる。
それもあれだけの事をしでかしたのだ。妻にと望む者自体少ないだろう。
良いところ貴族の後家になるか、商家に嫁ぐしかない。
そう考えるとこれはとても厳しい処罰に思えるのだが、ウイステリア侯爵はこれでも納得できていない様だった。
「殿下は廃嫡の上嫡男の居ない貴族家へ養子に、男爵令嬢の方は貴族位返上し、庶民に落とすべき」
というのが父親であるウイステリア侯爵の意見だった。
けれどエヴァリーナがそれを止めた。
あの二人は真実の愛で結ばれたのだ。
その奇跡を、その愛を、守り抜くチャンスを与えて上げて欲しいとエヴァリーナは父親にお願いをした。
それが聞き届けられての今回の処分だ。
二人の愛が真実なのならば、ベルザリオは三年後、レーナの行儀見習いが終われば王太子の地位を諦めてでも彼女を妻に娶る事だろう。
そうすれば世間のベルザリオに対する目は変わる。
愛の為に王太子の地位を捨てた王子と温かく迎え入れて貰えるだろう。
二人がそれを選ぶことをエヴァリーナは願っていた。
そしてそんなエヴァリーナの元に先日王がお忍びで訪ねて来た。
エヴァリーナが出発する前にベルザリオの父親として、謝罪とお礼を述べたいとの事だった。
王はエヴァリーナの顔を見ると周りが止めるのも聞かずすぐに頭を下げた。
そして今回の事はこれ迄のベルザリオの数々の我儘を許してきた親としての自分の責任だと言って謝って来た。
元々エヴァリーナにはベルザリオを責める気持ちは無かった。
ベルザリオと婚約者として上手に付き合えなかった自分にも罪はあると思っていたからだ。
だからこそ何度も婚約解消を願い入れて居たのだが、それが通ることがなかった事で今回の事件が起きてしまった。
相性が悪い。
それは仕方がなかった事だとエヴァリーナは思っていた。
「陛下どうか顔を上げて下さいませ、私は魔国に嫁げることを嬉しく思っております。ですから何もお気になさらないでくださいませ」
エヴァリーナのこの言葉に王は涙を堪え城へと戻っていった。
王もまた人の子、ベルザリオを愛していたからこそ甘やかしてしまったのだろう。
それを痛いほど感じたエヴァリーナだった。
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