第4話 団地跡
休日に友達と一緒にショッピングモールへ買い物に来たときのことだ。
モールの向かいに建っている団地に女の人が一人入って行くのが見えた。
女の人はなんだかとても疲れた様子で暗い表情をしている。
私はしばらくの間、その人が階段を登って行くのを眺めていた。
その人は最上階まで来ても止まろうとしない。
どうやら屋上へ向かっているらしい。
「モモッチー。なにやってんの?」
声をかけられて振り向くと、明菜が両手にアイスクリームを持って立っている。
「車見てたの?」
そう言われてもう一度後ろを見ると、そこには団地なんか建っていなくて代わりにモールの駐車場が広がっていた。
「別に、なんとなく見てただけよ」
私は明菜からアイスクリームを受け取りながら言った。
「ふうん。あ、向こうのベンチ空いてるよ。座って食べよ」
明菜は特に気にも留めなかったようだ。
私は頷いて、二人並んでベンチに座った。
「そういえばさ。ここって昔、団地だったよね」
アイスクリームを食べ終わった明菜が不意にそう言った。
明菜の言う通り、ショッピングモールができる前のこの場所は団地が建っていた。
私たちが中学に上がる前のことだ。
卒業する前の年に団地の解体工事が始まって、私たちが中学校に入学するのと同時期にこのショッピングモールがオープンしたのである。
かつて建っていたその団地は飛び降り自殺の名所であった。
屋上は封鎖され、通路や階段にも隙間なく柵が設置されていたが、それでも利用客は減らなかったそうである。
「団地だった頃はあそこに近寄っちゃいけないって言われてたっけ」
「そうそう! お化けが出るとか言われててさ。超怖かったもん。モールになってくれてほんと良かったよ」
そんな噂があったというのは初耳だ。
しかし、あっても不思議ではない。
「そろそろ行こっか」
私がベンチから立ち上がったそのとき、駐車場の方からドサッと大きな音がして、続いて男の声で「うわぁ!」という悲鳴が響いた。
私たちが反射的に声をした方を見ると、私と同じ歳くらいの男の子が駐車場の前で尻もちをついて倒れている。
だが、さっきの音は人が転んだ程度のものではなかった。
男の子が青い顔をして逃げるように走り去って行く。
「どうしたんだろ?」
明菜がポカンとした顔で訊いた。
たぶん彼も、私と同じで視える
普通の人には視えないが、駐車場にはたくさんの飛び降り死体が転がっている。
団地の利用客は今でも後を絶たないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます