幼馴染と恋の方程式

水天使かくと

幼馴染と恋の方程式

「あー、まってよー。」

「うっせーよ。早くしろ。おいてくぞ。」


玄関を出るなり走り出す。


私は柚木 芽衣。今日から高校生だ。

で、この口の悪いやつ。

幼馴染の柿本 春樹。幼稚園からの腐れ縁。


「もう!ちょっとくらい待ってくれてもいいのにー。」といいってるそばからどんどん先にいっておいて行かれてしまう。


家も隣で学校もずーっと一緒だから、いつもこーんな感じだ。

そばにいるのが当たり前…に思ってた。今日までは…。



キーンコーンカーンコーン…学校のチャイムが鳴り終わる前


「はぁー、ギリギリ間に合った―。」


「おまえ、もっと早く走れないのかよー。」


「なによ!そりゃ春樹はサッカー部でいつも走り回ってるんだし、はやくていいよね。ふん。」


私たちはいつもこんな調子だ。


安心したと同時に、かばんから教科書をだそうとしたとき


「んっ!あれ?ない!」


「おい。何がないんだ?」


「えっ、いや、あの、なんでもない…。」


私はとっさに何事もないかのようにごまかした。


「なんだよ。変なやつだなぁ。」と春樹はあきれていた。


ほんとはかばんにつけていた犬のマスコット人形がいつの間にかなくなっていたのだ。

たぶん、朝、走ってくるときにどこかに落としてしまったんだと思う…。


この犬のマスコット、じつは春樹が昔作って私にくれたものだっだのだ。


私が小学生のとき、飼ってた柴犬が死んでしまって、ずっと落ち込んでいたとき、春樹が元気だせよって、このマスコットをくれた。


一見、茶色のくまさんのようにも見えるんだけど、手作りしてくれたのがよくわかる。左手の指には絆創膏のあとが…。


そのときの春樹の優しさがすごくありがたかったしうれしかった。

それ以来、ずっと大切にもっている。


もちろん、春樹はたぶん、そんな昔のこと覚えてはいないだろうし、いえば恥ずかしがって、それこそ取り上げられてしまう。


だから、内緒…。


なのに…こんなことってー。

とりあえず放課後、はしってきたところをさがしてみよう…。




放課後、走ってきた場所をさがしてるけどなかなかみつからない。


「はぁ…ないなぁ…どこいっちゃったんだろう…。」


もう一度、階段を探しながら登っていると上から声がした。



「どうしたの?何かさがしもの?」


声の方を見上げると、そこには王子様…が立っていた。私のイメージだけど。


茶色のサラサラなびく髪、色白でおちついた顔立ち、背丈も180㎝くらいあるであろうすらりとした体つき。


これで白馬にでもまたがっていれば、まさに白馬の王子様だ。


そんな王子様が今、私に微笑みかけてくれている。


「なんて綺麗な人…。」


思わず口から漏れ出た言葉をさえぎり


「きみ?大丈夫?」と階段の踊場までかけおりてくれる。


「はっ!」と私はわれにかえった。

「すみません…いきなり声かけられたんでびっくりしちゃって…大丈夫です。」


「そう。それならよかった。ところでさっきもいったけど、何かさがしもの?」


あっそうだった。

「はい…えっと…実はマスコット人形をさがしてて…。朝、急いできたときにどこかにおとしちゃったみたいで…。」


「ふーん、そうなんだ。どんなやつ?」


「茶色の犬のマスコットなんですけど…ちょっとそうはみえないかも…くまさん?に近いかも…。」と下をむく。

私には大切なものだけど、人にゆうのはちょっと照れるかも…。


「そんなに大事なもの?」


「えっ、はい…。昔、幼馴染にもらった大事なものなんです。私の宝物で…。」


「そっか。じゃあ、ぼくも探しておくよ。早く見つかればいいね。」


「ほんとですかぁ!ありがとうございます!」格好いいうえになんて優しい人なんだろう。


「ところできみ、何年生?名前は?」


「えっ、あっ、1年の柚木 芽衣っていいます。」


「へぇ、芽衣ちゃんかぁ…かわいいね。ぼくは3年の高梨 蓮。よろしく。」


「3年生…はい…高梨先輩よろしくお願いします。」

かわいいだなんていわれたことないし、恥ずかしい…。


うつむいてると、高梨先輩が歩み寄ってくる。「えっ!」後ずさりしても、後ろには壁が…



いきなり先輩の腕が真横に!

「芽衣ちゃんさぁ、僕とつきあわない?芽衣ちゃんみたいな子タイプなんだよね。」


これっていわゆる壁ドンってやつー?


「えっ、そんな…あの…私…。」

ど、ど、どうしよう…。胸きゅんがすごくてだめー。



そんなとき上から声が…



「もう、そのへんでやめたら?彼女困ってるじゃない。」


「桃瀬先輩!」


桃瀬 美桜先輩は茶道部の部長だ。私はその茶道部に入ったばかりだ。


「なんだ、またおまえか…。いつもじゃまばかりしてくんなよ。」


「なにいってんの。私にはその権利あるでしょ?柚木さん、早く茶室の準備してくれるかしら?」


「あっ、はい。桃瀬先輩。遅くなってすみません…今すぐいきます。では高梨先輩失礼します。」


私は急いで茶室へむかった。



「蓮、あんまり私の後輩を誘惑しないでくれる?ってゆうか、その前にあなたは私の婚約者なんだから…。」


「親どうしが勝手に決めたことだろ。俺には関係ない。じゃまするな。」


「まあ、そうね。でもこれが私たちに決められた運命…なのよ。じゃあね。」



「なんだよ。勝手なこといいやがって…。それより、このマスコットそんなに大事かね。犬…?どうみても熊だろ?」とポケットから出して眺めてみる。



「それより柚木 芽衣…。初めて興味がわいた女。きみを俺の彼女にしてやるよ。まってろ。」




部活が終わり帰るとき、グランドでまだサッカー部が練習をやっていた。

ボールが転がってきて、追いかけてきたのが春樹だった。


「よう。今帰りか?」


「うん。春樹…ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど…。」というのと同時に、グランドから春樹を呼ぶ声が…




「おーい。春樹、なにやってるんだ。ミーティングだぞ。早く戻ってこい。」


その声のほうをみると、まさかのた、た、高梨先輩が…えっ、なんで!サッカー部だったの?


「わかった。もう終わりだからちょっとそこでまってろ。」


「うん…。」

向こうで高梨先輩が私に気づいたのか優しく微笑みかける。



ミーティングが終わり、春樹をまっていると、後ろから声が…


「芽衣ちゃん。さっきはどうも。」


「い、いえ。こちらこそすみません…。

先輩、サッカー部だったんですね。びっくりしちゃった。」

なんかさっきのドキドキでうつむいてしまう。


「うん。一応、キャプテンやってる。それより誰かまってるの?もしかして春樹?春樹と知り合い?」


「はい。ゆってた幼馴染が春樹なんです。だから同じサッカー部で驚きました。」


「ふーん、彼がね…。ところでさっきの返事まだなんだけど…。」



後ろから走ってくる音が…。春樹だ。


「おーい。遅くなった。あれ、高梨先輩どうしたんですか?」


「いや、芽衣ちゃんにちょっとね…。また返事まってるね。じゃ。」


先輩が帰っていく。


私たちも帰り道歩きながら話する。


「芽衣、どした?先輩になんかいわれたのか?」


春樹が不思議そうに、ちよっと心配そうに見つめてくる。


「春樹…私、高梨先輩のこと好きになっちゃったかも…。」

私はぼーとしながら、春樹に伝えた。


私の言葉に春樹はかなりびっくりしていたようだったけど


「そっか。まぁ、高梨先輩はかっこいいもんな!おまえもやっと男のことを考えるようになったか。いやー、よかったよかったー!」


「なによ、その言い方。ばかにして。」


「ところでおまえなんで高梨先輩しってんの?」と不思議そうに聞いてくる。


「えっ、あー、ちょっとね…。いいじゃん、そんなの。それより春樹、先輩と同じ部活なんて聞いてない。」


「そもそもおまえが先輩と知り合いになったなんて俺はきいてないし、知るかよ。」


あー、そうだった。つい…。


「ねぇ、春樹…。私、先輩と付き合ってもいいのかなぁ?どう思う?」


「おまっ、なんでいきなりそうなるんだよ。つき合うって…。まさか先輩にいわれたのか?」


春樹がめずらしく焦ってるようだった。


「うん。じつは先輩から付き合わないかっていわれてる…。さっきも先輩からその答えを…。」


春樹が足をとめる。握った拳に力をこめる。


「くそ!なんだよ!芽衣、先輩はやめとけ。お前が傷つくだけだ。」


「なんで?さっきはよかったって喜んでくれたじゃない…なんでだめなの?」


私は春樹の腕をつかんで問いただす。


春樹は少し戸惑いつつも…


「高梨先輩には彼女がいるんだぞ。正式には婚約者がな…。」


「・・・」


私は目の前が真っ白になった…声がでない。ほんとにショックなときって、こんな感じになるんだ…


「お前もよく知ってる桃瀬 美桜先輩だ。」


あー、桃瀬先輩…。美人で頭もよくって優しくて教養もある本当のお嬢様…。

私のあこがれ…


桃瀬先輩なら高梨先輩とお似合いだし納得…


「そっそうなんだ…。なーんだ。じゃあ私、からかわれたんだね…。はは…そうなんだ…。」


そのあとも何か言おうとしたけど、言葉につまり、目に涙があふれてきた…


「お前がだれかを好きになるのは止められない。けど、お前が傷つけられるのだけは許せない。」


「春樹…。」


「だから先輩はやめとけ。わかったか?」


「…うん…。春樹…ほんとのこと教えてくれて…ありがとう。」


「おう!次好きになったやつがいたら、また俺に言えよ。品定めしてやる!お前、男見る目ないしな。」


「もう!またそんないじわるいってー。」


春樹といるとなぜかほっとする。

安心する。


「あっそうだ!俺、次のサッカーの試合でれることになったんだ!その試合で活躍してもっと実力を認めてもらいたいんだ。」


春樹の目が輝いている。

いつも努力してがんばってきたんだもんね。


「おめでとう!よかったね!春樹。」


家の前で春樹とわかれた。


1日いろんなことがありすぎて、疲れたのかその日は早めに寝てしまった…。




次の日の放課後…


「あー、早くいかなきゃまた桃瀬先輩にしかられちゃう。」

準備しているとき、教室の外から…


「芽衣ちゃん、昨日はどうも。」

爽やかな笑顔で高梨先輩が私に近づいてくる。


昨日、春樹から聞いたことが頭をめぐって

すごく動揺しちゃってる私。


「高梨先輩…。」


「昨日の返事聞かせてくれる?」


「あの…私…高梨先輩とはお付き合いできません…すみません。」


「どうして?あー、幼馴染からなんか聞いちゃったかな?婚約者がいるとかなんと…か。」


私は動揺して言葉がでなかった。


「やっぱり…。俺と美桜は幼馴染で、親が勝手に決めた婚約者なんだ。だから俺の意思じゃない。」


「でも桃瀬先輩は違いますよね?高梨先輩のことずっと思ってるかもしれないじゃないですか…。そんな人を裏切るんですか?だめですよ。私はなおさら、先輩とお付き合いはできません…失礼します。」


と教室からでていこうとした時…


「これ…いらないの?」


それは昨日、どこかでなくしちゃった犬のマスコット。


「どこに?なんで先輩がもってるんですか?」


安堵感と先輩への疑問が交錯するなか、先輩がさらに…


「芽衣ちゃんさぁ…俺と付き合ってよ。好きになったんだ。」


「でも私は…。」


「それでも付き合えないってゆうなら、このマスコット…」といいながら、ハサミを取り出す。


「やめてください。」

私は焦った。先輩の目が怖い…


「どうするの?俺は本気だよ。あっ、それと幼馴染の春樹だけど…今度の試合またメンバー決めなおさないとなぁ…。俺、キャプテンだから。」


と笑顔で言い寄る。


私は血の気がひくのを感じた。

これって脅しだよね…

なんでこんなことするの…ねぇ…先輩。


春樹のマスコット…壊れるのは嫌だ…。

春樹が試合に出られなくなるのも嫌だ…。


じゃあ、どうするの?

決まってるじゃない…


「私は…先輩と…付き合いま………」


バタン!ドアが開く音。


そこには春樹が…。

無言のまま早足でこっちに近づいてくる。


そして先輩に告げる。


「そのマスコット…いいですよ!切ってもらって。これからはこいつの側には俺がいますんで。あっ、それとこれ、退部届です。」


といい先輩になげつける。


とっさに春樹は私の手首をつかんで…

小さく「いくぞ。」といい強くひっぱって教室を後にする。


しばらく呆然としている高梨先輩にふと現れた桃瀬先輩が話しかける。


「幼馴染の彼のほうが1枚も2枚も上手だったようね。お遊びはこれぐらいにして、ちゃんとそのマスコット返しなさいよ。もちろん部活のほうもね。」


「余計なお世話だ。はぁー、つまんねぇ。」


と教室を出ようとした時…


「蓮…。婚約…解消しましょう!両親には私からゆっとくわ。」


「お前、急になんで?」

と目を丸くしている。


クスッと笑いながら


「同じ幼馴染でもあの2人と私達とは違うって感じたの。私達は親の決めた婚約っていう言葉に、ずっと縛られていたのかもしれない。」


「ほんとだな…。俺達もスタートラインにたっていいんだよな。美桜、なんか…ありがとな。」






「ちょっと…まって…春樹…手…痛い。」


「・・・」


春樹は無言だ。


図書室に連れ込まれ壁におしつけられた。

すぐさま、腕が顔のすぐ横に…壁ドン!


春樹のこんな真剣な顔みたことない。

怖い…


「お前…自分が何しようとしてたかわかってんのか?あのまま先輩の言いなりになってたらお前が傷つくだけだ。昨日言ったよな。」


「ごめん…だって、大事にしてるマスコット切られちゃうし、春樹が試合にでられなくなるのは絶対いやだから…だから…。」


といいながら涙が溢れた。


春樹が優しく指で涙を拭ってくれた。


「あのマスコットまだもってたんだな…いつの話だよ…捨てろよ。」


「捨てられないよ。春樹からもらった大切なものだから…これがあったからいつも元気出せてた。」


ふっと、春樹が優しい目で見つめてくる。


思わず下を向いてしまった。


なにこれ?なんか胸がドキドキ…する。

春樹だよ?なんで?

まさか私…春樹が…好き…?


「芽衣…俺…もう、お前の心配だけするのは嫌なんだ…。」


「えっ!」


反射的に顔を上げた瞬間、春樹の顔が目の前にあり、強く唇を重ねてきた。


私は驚きのあまり、体が固まっていた。

唇が離れると同時に春樹がいった。


「ごめん…でもこれが俺の気持ちなんだ。始めはわからなかった。でも、先輩がお前に近づくにつれやっとわかったんだ…。」


といいながら春樹の大きな手が私の頬をおおう。


「芽衣…俺はお前が好きだ!俺とつきあってほしい。だめか?」


春樹の気持ちが痛いほど伝わってくる。


「私も春樹は側にいて当たり前だと思ってた…でも、今やっと気づいたの…。私も春樹が好きなんだって!」


「芽衣…好きだ!」


春樹はそういって、さっきより強く優しく私にキスをした…。




その後…


高梨先輩は…といえば…


「芽衣ちゃん、春樹、あの時はほんと申し訳ない…。これからは君たちを応援するし、俺もたくさん恋をするぞー!」


となんだか気持ちがふっきれたように明るい。今までのことは、反省したようで犬のマスコットもちゃんと返してくれ、春樹の退部もなくなりすべて一件落着!


めでたし…めでたし!




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