ヒヅキの日常 2
全ての授業が終わり、ヒヅキは稟と一緒に学校を出た。
「今日は稟の話してるやつら多かったな」
「そうだね。これで俺に告白しようとするやつ減るといいんだけど」
「根絶するのは難しいとは思う。けど、数は減るとは思う。恋人いるって知ってて告白するやつの気がしれない」
「あー、諦めの悪いやついるもんね」
心当たりがいくつか浮かんできた稟は顔をしかめた。稟は昔から面倒な女子に悩まされてきたのだ。
「そういえば、今日、体育の授業の時、僕に稟の恋人について質問してきた女子が数人いた」
「大丈夫だった?」
稟は少し心配そうに言った。
「まあまあ。質問されるだろうな、とは思ってたから心の準備は出来てた。だから、なんとか普通に話せた、はず。女子に囲まれたり、質問攻めにはされたりはしなかったし、そんなに気にしなくていいからな」
ヒヅキは稟のことを安心させるように明るく言った。
「わかった。けど、なんかあったら言えよ」
「言うに決まってるでしょ。僕1人じゃどうにもならないのわかってるし、稟との約束だからな」
ヒヅキは“何かあったら我慢せず、すぐに稟には必ず伝える”という約束を稟としている。
「ならいいよ」
「心配しすぎ」
「そりゃ、昔っからひーちゃんのことを知ってるから心配にもなるよ。それにひーちゃんは俺の妹みたいなもん、というか、妹だからな」
「言い切るな」
「いいじゃん。だって、将来的にはそうなる予定じゃん」
「は?」
「みなまで言わせんなよ。怜にプロポーズしたら、俺はひーちゃんのお
稟はさも当たり前のことのように言った。
「そうだ、今から俺のこと“稟お兄ちゃん”って呼んでもいいよ」
口調は冗談めかしているが、実際に“稟お兄ちゃん”呼ばれることを期待しているのが隠しきれていない。
「無理」
ヒヅキは稟の要望をバッサリと速攻で一切考えることもなく切り捨てた。
「だよな」
稟は少し残念そうだ。
「なんで、お兄ちゃんのことになると、あほになるのかね……。あほな稟を見れば学校の女子たちも幻滅するかな」
「いや、残念ながら世の中にはギャップ萌えというものが存在してるんだよね」
稟は困ったように言った。
「あー、そんなのもあったな。やっぱり告白撲滅は難しそうだな……」
他愛のない話をしていると、ヒヅキの家の前に着いた。ちなみに、その隣が稟の家である。
「今日は家来るのか」
「いや、今日は行かない。だから、また明日ね」
「わかった、また明日」
軽く手を振ってからヒヅキは家に入り、稟も自分の家に帰った。
まだ怜は帰ってきていない。
ヒヅキは洗濯機を回してから、自分の部屋に戻って部屋着に着替えた。
洗濯が終わるまでの間に、お風呂掃除と部屋の掃除を終わらせた。
洗濯が終わり、洗濯物を二階の空き部屋に干していると、玄関のドアが開く音がした。怜が帰ってきたようだ。
洗濯物をすべて干し終えて、部屋の窓を開けると、ヒヅキは怜のところに向かった。
怜はキッチンで料理をしている。
「おかえり、お兄ちゃん」
「ただいま。今、ご飯作ってるから、ちょっと待っててな」
「わかった」
ヒヅキは席に着いた。
「ヒヅキ、今日ちゃんと起きられたか?」
「うん、大丈夫。稟が来たから」
「ヒヅキは稟が来たときはすぐに起きるよな」
「それは、稟がうるさいからに決まってるだろ。よく朝から大声出せるよな」
「じゃあ、今度から僕も大声で起こそうかな」
いいことを思いついた、というような様子の怜に、ヒヅキはすぐさま「やめろ」と言った。お兄ちゃんまでうるさくなるのは勘弁してほしいのだ。
「えー、いい案だと思ったのにな。じゃあ、毎朝稟に来てもらおうかな。でも、それはさすがに申し訳ないな」
「いや、喜んで来ると思うぞ」
「そうかな、でも、稟は朝苦手だから、あんまり頼みすぎるのもな」
「ちょっと待ってお兄ちゃん。今、稟が週に何回朝から家に来てると思ってるの」
「えっと、朝早くから来てるのは四回くらい、かな」
「結構来てると思うんだけど……。毎日来てほしいって思ってるのか?」
「うん、もちろん」
さも当然のように怜は即答した。
「じゃあ、遠慮しないで頼めば。稟は絶対に喜ぶから」
「でも……」
「でもじゃない。絶対に喜ぶから」
稟と怜が毎日会えれば“今日会えなかったから寂しい”というような内容の話を二人から聞くことが減るのではないか、とヒヅキは考えた。
「ヒヅキがそこまで言うんなら、あとで頼んでみるわ」
「うん、そうして」
「毎日会えるなんて楽しみだな、ヒヅキ」
ヒヅキは、満面の笑みで同意を求めてこないで欲しいと思いつつ適当に返事を返した。怜が嬉しそうにしているのは嬉しいが、毎朝バカップルを見なければならないので何とも言えない気持ちになった。
「お兄ちゃん、朝早くからバイト大変じゃない?大丈夫?」
「大丈夫、心配しないでいいよ」
「ならいいけど、なんでバイトしてんの、しかも朝早くから。あいつ、お金だけはちゃんと毎月振り込んでくるだろ」
あいつとはヒヅキと怜の父親のことである。両親はヒヅキが小学校を卒業するころに離婚していて、父親は現在再婚して海外に住んでいる。母親は出て行ったきり連絡が取れない。
「そうだけど、でも、お金を貯めておきたくてね」
「やっぱりこの家出たいのか?」
「……まあな。ずっとはここにはいたくないからな」
「そっか、まあ、そうだよな」
「安心しろ、ヒヅキを一人にはしないから」
「そっか。……なあ、なんか手伝う?」
「じゃあ、お箸並べるのと、お茶入れるのお願いするわ」
「りょーかい」
ヒヅキは立ち上がって、キッチンに向かった。
恋人だけど恋人じゃない ネオン @neon_
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