ヨルとアサの初お家デート

アサの家に着くと、さっそくアサはオムライスを作り始めた。ヨルは、アサの許可を取って近くで見ていることにした。

ヨルは、慣れた手つきで食材を切っているアサに羨望の眼差しを向けた。

「料理できるなんてすごいな。好きなのか?」

「うん、料理はわたしの趣味なんだ。ヨルは料理しないの?」

「しない、というか、させてもらえない。お兄ちゃんと幼馴染に、料理中はキッチン出禁って言われてるからな」

「いったいどんな事したら出禁になるのよ」

「ちょっと切った野菜がつながってたり、ちょっと焦がしたりしただけだ。そうしたら、お兄ちゃんが、危ないからもう料理はしなくていいよ、って俺に言ったんだ。で、その話が幼馴染にも伝わって、幼馴染には、キッチン出禁を言い渡された感じ。俺的にはそこまでひどくはなかったと思ってるんだけどな」

ヨルはキッチンを出禁にされたことをあんまり納得していない様子だ。

アサは「きっと“ちょっと”じゃないんだろうな」と思ったが口には出さなかった。

「ちなみに、包丁持つの禁止みたいなこと言われなかった?」

「ああ、そういえば言われたな。よくわかったな」

「いや、なんとなくそうかなって思っただけだよ」

アサは無自覚ほど恐ろしいものはないと思った。


話している間も、アサの手は止まることなく、着々と料理が進んでいった。

「手際いいな。アサはいつから料理してるんだ?」

「えーっと、小学校低学年の時からかな。食べたいものを食べるために始めたの」

「ん?どういうことだ?」

「いや、家の母親があんまり料理得意じゃなくて、ほぼ毎日野菜炒めだったんだ。お姉ちゃんは全然気にしてない様子だったけど、わたしはもっといろんなものが食べたいって思ってたの。で、それをお姉ちゃんに相談したら、自分で作ればいいじゃんって言われて、それで、料理を始めたの。で、料理って面白いって思って、趣味になったって感じ」

「へえ、そうなんだ。スイーツとかも作れるのか?」

「作れるよ。でも、わたし飾り付けが苦手だから、シンプルな感じのしか作れないけどね」

「でも、味は美味しいんだろ?」

「もちろん。味は保証するわよ」

アサは自信ありげに言った。アサは自分の料理の腕は人に誇れるものだと考えている。

「じゃあ、今度作ってよ。チーズケーキとか」

「いいわよ。チーズケーキなら何回か作ったことあるからうまくできると思う。どんな感じのチーズケーキがいいか考えといてね」

「わかった、考えとく」


ついに、オムライスが完成した。

机にオムライスを並べ、二人は向かい合って座った。

ヨルはクールに振舞ってはいるが、わくわくしているのを隠しきれていない。

「「いただきます」」

ヨルはチキンライスの上の卵をゆっくりと開いた。中からとろっとした卵があふれ出してきた。その様子をキラキラした目で眺めるヨルを見て、アサは嬉しそうに微笑んだ。

ヨルは一口パクリと食べて「おいしい」とアサの方を見て言った。

「よかった。家族以外に食べてもらうの初めてだから、自信あるとはいえ、ちょっと緊張した。でも、安心した」

アサはほっとしたように笑った。

パクパクと美味しそうに食べ進めているヨルを眺めつつ、アサもオムライスを食べた。


「「ごちそうさまでした」」

「おいしかった。また食べたい」

「うれしい。ヨルのためならいつでも作るよ。リクエストあったら言ってね」

「ありがと。でも、俺にはアサに返せるもの何もない。アサみたいに特技無いし。俺ばっかり作ってもらうのは悪い、って思う」

ヨルは悲しそうな表情を浮かべている。

「そんなことないよ。なんていうか、そもそも、見返りなんて求めてない、というか、わたしの料理をヨルに食べてもらえるだけでうれしい。今日、ヨルが食べてるの見て、好きな人がおいしそうに自分の手料理を食べてるの見るの好きだなって思った」

アサは照れたように、はにかんでヨルを見つめた。

「そうか。でも、俺もアサに何かしてあげたい、って思う。だから、アサが俺にしてほしいこと教えてくれないか?」

アサは少し考えてから口を開いた。

「わたしがヨルにしてほしいことは、一番は一緒にいてほしい。もちろん、頻繁には会えないけど、できるだけ一緒にいたい。それが、わたしが一番してほしいことよ」

「それでいいのか?」

「うん、もちろん、それがいいの。だって、わたし、友達と遊んだりしたことがあんまりないからいろんなことたくさんしたいし、それに、好きな人とは一緒にいたいの。これは、ヨルにしかできないことだよ。だって、わたしが好きなのはただ一人で、それがヨルだからね。わかった?」

アサはヨルを見つめながら言った。

好意を隠さずに伝えてくるアサに耐え切れなくなったヨルは目をそらした。

「……わかった。けど、なんで、そんなに、ド直球に、好き、とか言えるんだよ」

ヨルは照れてしまってアサとうまく目を合わせることが出来ない。

「いや、初対面の時、ヨルも言ってたよ」

「あれは、アサを逃したくなくて必死だったからだ。家帰ってから、自分の言動思い出して少し恥ずかしかった」

アサにあった日、ヨルは(正確に言えばヒヅキだが)寝る前に我に返って、恥ずかしくなって寝付くのに時間がかかったのだった。

「わたしはうれしかったけどな。もっと“好き”とか言ってほしいな。言ってくれないの?」

アサはヨルをじっと見つめて、ヨルの言葉を待っている。しかし、ヨルは視線を感じているがアサの顔を上手く見ることが出来ない。

少しして、ようやく腹をくくったのか、ヨルはアサの方を見つめて、ゆっくりと口を開いた。

「……アサ、俺も、アサのことが、好きだ。……俺も、たくさんアサとの時間を過ごしたい。……今日はもうむり」

恥ずかしそうに目をそらすヨルを見て、アサはうれしそうに微笑んで「ありがと」と言った。

「あー、アサの前ではかっこよくいたいんだけどな。うまくできねえ。というか、アサのがかっこよく見える」

ヨルは今までの出来事を思い出していた。女たちに絡まれていたときに助けてくれたアサはとってもかっこよかったし、さらっとヨルに対して思っていることを伝えてくるアサもかっこいい。自分ももっとかっこよくなりたい、とヨルは思った。

「そう?わたしはヨルのことをかっこいいって、出会った時からずっと思ってるよ。あっ、でも、もっとわたしにたくさん“好き”とか言ってくれたら、もっとかっこいいかもね」

アサは笑顔でいたずらっぽく言った。

「……わかった。頑張るけど、すぐには無理だ」

「いいよ、いつまででも待つよ。ヨルの分までわたしが言葉にして伝えるからね」

アサはヨルを見つめて微笑んだ。

「やっぱり、アサはかっこいいな」













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