ヒナギの家に行こう
カフェを出た2人は急いでヒヅキの家に向かった。
家に到着すると、ヒヅキはヒナギにちょっと待ってて、と言って家の中に入っていった。ヒヅキの家は、少し大きめの一軒家だった。数分後、荷物を持ったヒヅキがため息をつきながら出てきた。
「ちっ、……あっ、おまたせ」
「もしかして、遅かった?」
「いや、ギリセーフ?だったんだけど、僕が帰ってきたことが分かるようにちゃんと音を立てて階段を上ったんだ。一応、僕がいることが分からないと何するかわからないからな。まあ、それで、最初は平穏だったんだよ。何事もなく、宿題を部屋から持ち出すことはできた。そこまでは良かったんだけどね。はぁ、問題は部屋を出た後。僕が部屋を出たのに気づいたお兄ちゃんが、部屋から出てきた。で、帰る時間とか軽く話してたら、恋人のほうもなぜか出てきて、いちゃつきだした、目の前で。2人の雰囲気がものすごく甘々で砂糖吐きそうだった。いや、マジで意味が分からねえんだよな。なんで、出てきたんだよ。出てくる必要あったか?いや、ないだろ、本当になんなの。ねぇ王子、そう思わないか」
ヒナギは、だんだん語気が強まっていったヒヅキを、まあまあ、となだめた。
「落ち着いた?まあ、一応目的は達成できたんだからさ、よかったじゃん。ほら、俺の家行こう?はやく行かなきゃ宿題やる時間無くなるよ。ところで、今日何時まで家にいられるの?」
「お兄ちゃんには6時までに帰るって言っといた。だから、何時までいられるかはここから王子の家までどのくらいかかるかによるな」
「そうだな……5時30分に家出れば余裕で6時までに帰れると思うよ。送ってく?」
「うん、よろしく。僕、道覚えるの苦手だから助かるわ」
他愛もない話をしながら歩くこと15分、ヒナギの家に着いた。ヒナギの家はそこ前まで大きくはないが、一軒家であった。
「ただいま」
「おじゃまします」
「……あれ?母さんも、姉貴もいないみたい。まあ、いいか。なんか飲む?」
「お茶飲みたい。喉乾いた」
「りょうかい。準備して持ってくから、先に部屋行っててくれない?俺の部屋は二階の階段のすぐ近くだから。机で勉強してていいよ」
ヒヅキはわかったと言って、2階へ向かった。
ヒナギはお茶と、お菓子を準備してから部屋に向かった。
「姫、開けてくれない?……ありがとう」
2人は机をはさんで向かい合って座った。
「いや、こちらこそありがと。助かった。おかげであの空間から逃げ出せたし、宿題も終わらせられそうだ」
「いいよ、いつでも家来なよ。俺は基本的に家から出ないから、だいたい家にいるし。そういえば、あんた、いつもどうしてんの?お兄さんの恋人が家に来た時」
「なんだ、僕のことが気になるのか?」
ヒヅキはニヤリと笑いながら言った。
「そうだな。さっきの面白い姿を見せられたら気になるな」
ヒナギは、荒ぶるヒヅキの姿を思い出して軽く笑った。
ヒヅキは、笑うんじゃない、と言って、口をとがらせた。
「笑っていられるのは君が、あいつらのことを知らないからだ」
「ごめんね。でも、さっきの姫面白すぎるんだもん」
「悪いって思ってないだろ。まあいいけど、あとであの2人のこと愚痴らせろ」
「それは別にいいけど、宿題大丈夫?まあまあな量あるけど」
「まあ、この量ならそんなに時間はかからないから大丈夫だ……あと3時間ちょいあるし。でも、そうだな、一応、先に宿題終わらせてからにするか。終わらなかったら嫌だし。ちゃっちゃと終わらせるから後で愚痴らせろよ」
「わかった。終わったら声かけて。俺は本でも読んで待ってるから」
「わかった」
そう言うとヒヅキは宿題をやり始め、ヒナギは本を読み始めた。
集中することおよそ2時間弱、ヒヅキが宿題をトートバッグの中に片付け始めた。動き出したヒヅキに気付いて、ヒナギは本を閉じて机の上に置いた。
「終わった?」
「うん、全部終わった。さて、王子、僕の話を聞いてもらおうか」
ヒヅキはにやにやとしながらそう言った。
「なんか、楽しそうだな」
「そりゃ、あのバカップルのことを愚痴れる人なんて今までいなかったからな」
「そうなの?幼馴染くんに話したりしないの?」
「あー、あいつに言っても無駄だからな。あいつに話しても、ストレス発散になるどころかむしろストレスが溜まる未来しか見えない。今まで誰にも話せなかった分言いたいことが溜まってて、何から話そうか迷うけど、とりあえず、ついさっき起きたことを話そうかな」
「ああ、さっき姫が面白いことになったやつね」
「それ。お兄ちゃんと話してたらなぜか恋人の方も出てきて目の前でいちゃつかれたことは話したよな。なんで恋人の方まで出てきたかわかるか?」
「えーっと、あんたたちの話が長かったからかな。でも、姫が戻ってくるまでにそんなに時間かかってなかった気がするんだよね」
「簡潔に言うと、嫉妬」
ヒヅキはあきれたように言った。
「嫉妬?お兄さんの恋人が姫に?」
「そう」
「うわ、恋人のきょうだいに嫉妬するとか、めんどくさ」
ヒナギは若干引いたようだった。そして、ヒヅキに憐みの目を向けた。
「僕の苦労が分かっただろ?」
「ああ、今の話だけでも伝わったよ」
「まだこれだけじゃないぞ。僕がお兄ちゃんの恋人くんと仲良くしてるとお兄ちゃんにも嫉妬される」
「うわ、あんたも大変だな」
「だろ?両方から嫉妬されるからうざい。恋人が絡むと心底めんどくさい。いや、きょうだいなんだから、そりゃ一緒にいる時間長くなるだろ。同じ学校通ってるんだから一緒にいる時間長くなるだろ。僕にはどうしようもないことで文句言われても困るんだよ。なんで普通に会話してて急に嫉妬し始めるんだよ。怖いわ。ねえ、わかる?普通に会話してたと思ったら、突然恋人の話になったときの気持ち」
ヒヅキはだんだん早口になっていった。ヒナギは質問に答えようとしたが、ヒヅキがさらに話し続けたため、口をはさむことが出来なかった。
「しかも、なにかあったときは僕に相談してくるんだよ。まあ、僕も今まで2人にはいろいろと助けられてきたから相談に乗るぐらいは全然いいんだ。でも、その相談の内容のほとんどがノロケだったときの気持ちわかるか?ちゃんと相談に乗ってあげてる僕を褒めてほしいくらいだわ、ほんと。すれ違わないように二人の間を取り持ってあげた僕にもっと感謝してほしい」
「姫が2人をくっつけたの?」
「すこし手伝ったくらいだよ。主にお兄ちゃんがうだうだ悩んでたから背中蹴とばしただけ。最初は恋人くんの方がお兄ちゃんにアタックしまくってて、なんやかんやあって今ではお互いに愛し合ってる、重すぎるくらいにな。こんなに面倒なことになるなんて思わなかった。さて、まだまだ話したいことがあるから、付き合えよ」
「もちろんいいよ」
ヒヅキは帰らないといけない時間になるまでずっと話し続けた。ヒナギが時間になったことを伝えると、ヒヅキは少し残念そうな顔をしながら話をやめた。
「時間が経つの早いな。話せてスッキリした。聞いてくれてありがとな」
「全然いいよ。俺でよければ、いつでも聞くよ。さて、そろそろ帰る?」
「そうだな。家まで送って、道わかんない」
「もちろん、約束したからな」
ヒナギはヒヅキを家まで送っていった。
「今日はありがと、急に王子の家行って悪かったな」
ヒヅキは少し申し訳なさそうに言った。
「いいよ、遠慮せずにいつでもおいで。じゃあね、また明日、駅前で」
「ああ、また明日な」
そう言って、ヒヅキは家に入って行った。ヒナギはそれを見届けてから、来た道を戻り始めた。
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