本題に入ろう

2人はお昼を食べつつ、話し始めた。

「ヨルとアサの関係は恋人でいいのか?僕的にはそれでいいんだけど。王子はどう思う?」

ヒヅキは、単刀直入に一番話したいことを話し始めた。

「俺もそれがいいと思う」

「それじゃあ、決まりだな。意外とあっさり決まったな」

「ヨルとアサの関係は決まったけど、もう1つ、俺と姫の関係はどうするかも決めないといけないよ。ちなみに俺は姫のことは何とも思ってないよ」

「僕も王子のことは別に好きじゃない。ていうか、そもそも君の名前すら知らなかった」

それを聞いて王子は、俺も姫の名前知らなかったよ、と言った。同じ高校に1年と少し通っていたが、2人に接点がほとんどなかったため、顔と王子や姫と呼ばれていること以外ほとんど何も知らなかった。

「今日が初対面みたいなもんだよな。でも、結構話しやすいから、僕は君と一緒にいるのは別に嫌じゃない」

「俺もあんたは意外と話しやすいと思った。だから、おれもあんたと一緒にいるのは嫌じゃない。でも、恋じゃない。たぶん、姫もそうだよね?だってお互いに、お互いの顔好みじゃないし」

「そうだな。そもそも、僕らが恋に落ちることなんてありえないことだし。だって、僕はアサが、君はヨルが好きじゃん。ある意味、君に恋してるってことになるのか?いや、でも、君が好きとか、君と付き合いたいとか無いしな。君に恋してるけどしてないってことか?いや、それだと僕が王子に恋してることになるのか?ん?よくわからなくなってきた……」

ヒヅキは少し考えたが、よくわからなくなったので、ヒナギに問題を丸投げした。ヒナギは、正直どうでもよかったが、ヒヅキがじっと自分を見て答えを待っているので適当に答えることにした。少し考えた後、ヒナギは口を開いた。

「えっと、たぶん、きみの今の状況を上手く言い表したいってことだよね。……じゃあ、あんたは俺の半分に恋してるって感じかな。これでいい?」

「僕は君の半分に恋してる、ね。まあ、それでいいんじゃないか。で、えっと、どうする?僕たちの関係はなんて言い表せばいい?僕たちは友達ってことでいいのか?」

「うん、それでいいよ」

「じゃあ、今日から僕たちは友達だな」

そう言って、ヒヅキは嬉しそうに笑った。

「そんなに嬉しいのか?俺と友達になれたのが」

「うん、だって、友達が出来るのは久しぶりだからな」

「友達少ないの?」

「王子とは比べ物にならないくらい少ないな。どうやったらそんなに友達がたくさんできるのか知りたいぐらいだよ」

ヒヅキには高校に入ってから少しは友達が出来たが、彼らは全員、幼馴染経由で知り合った人たちだ。幼馴染がいなければ友達が1人も出来なかったと言っても過言ではない。

「みんなが俺に話しかけてきてくれるからだよ。俺から話しかけることは無いけど、拒むこともないからね。去る者は追わず来る者は拒まず、みたいな感じ。まあ、ほとんど女友達しかいないけどな」

ヒナギは、自分と友達になろうとする人を一切拒まない。自分に好意があると伝えてきた人には、友達にはなれるが付き合うことはできないと伝える。その結果、たくさんの友達(ただし9割女性)が出来るのだ。

「僕には女友達がまったくいなくて、男友達しかいないから、僕と真逆だな。そんな簡単に人と友達になれないんだ。どうしても他人を信用できなくて」

「でも、俺とはすぐに友達になったよね」

「不思議なことに君はすぐに信用できたんだよな。たぶん、言葉があってるかわかんないけど、アサに惚れた弱みってやつか?アサに会った時、この人を信用したいって思えたんだ。信用できるかできないか考えるんじゃなくて、信じたいって思えたのが初めてだったんだ。で、君は、そのアサと同一人物だから、友達になれる、というか、なりたいって、思えたんだと思う、たぶん。……伝わったか?」

ヒナギが、ちゃんと伝わったよ、というとヒヅキは安心したような表情を浮かべた。

「さて、今日話したいことは大体話せたな。アサとヨルは恋人、僕と君は友達に慣れたし。ほかに何か話すことはあるか?」

「話すことね……。ねえ、デートしたくない?明日でゴールデンウィーク終わりだから、ヨルとアサでデートしない?」

「お、それはいいな。でも、あんまり長時間は無理なんだよな」

「なんで?」

「いや、トイレ行きたくなったとき、ヨルの姿で女子トイレに入るのは嫌だからな。せっかく完璧なイケメンになってるのに現実に戻される感じで嫌だし、入りづらいし。だから、いつも短時間しかヨルで出かけられないんだよな。君はいつもどうしてるんだ?」

「俺は、いつもここの2階のトイレ使わせてもらってるんだよ。ここの二階ね、ノアさんと店長さんの居住スペースになってて、ノアさんと知り合ってから使わせてもらってるんだ。俺もアサの姿だと、男子トイレ入れなくてね。ノアさんたちに助けてもらってるんだ。けど、1日に何回もここに来るのはさすがに憚られるから、もし、姫が朝から暇なら、午前中は駅前に行ってどっか行きたいところ行って、昼からは家に来る?」

「僕は明日ずっと暇だからそれでいいよ。でも、王子の家行っていいのか?ヨルが行っても親とか大丈夫?」

ヒヅキは、ヨルの姿が男装であることがばれたら王子の家族に何か言われるのではないかと不安になった。

「心配しなくても大丈夫だよ。俺の家族みんなアサのこと知ってるから、ヨルが来たぐらいじゃ驚かないよ。いや、むしろ、歓迎ムードかもね。特に姉貴が」

「なんで?」

ヒヅキは不思議そうに首を傾げた。

「たぶん、姉貴は、ヨルを見て、写真に撮らせてほしいっていうと思うよ。姫を見ても同じことを言うかもだけど。俺は、普段もアサの時もよく写真撮らせろって言われるんだよ。特にアサの時言われる」

「写真撮らせてあげるのか?」

「うん、たまにね。姉貴は写真撮るのが仕事で、その練習させてほしいみたいなんだ。さすがに毎回付き合うのは嫌だから、アサの姿に限っては撮らせてやってるよ。まあ、いろんな服用意してくれるのはうれしいんだけど、一日つぶれるのがちょっとね」

「いろんな服着れるのいいな。……ごめん、ちょっと確認する」

ヒヅキのスマホがなった。ヒヅキがメッセージを確認すると、まじかよ、と言って顔をゆがめた。どうしたのかヒナギが聞くと、少しためらった後、ヒヅキは口を開いた。

「いや、ほぼ初対面でこんなこと急に頼むのはあれなんだけど、今日、いまから王子のうちに行ってもいいか?」

「別にいいよ。なんかあったの?」

「いや、いま、連絡があって、その、あの、お兄ちゃんの恋人が今から家に来るらしい。本当は明日の予定だったらしいんだけど、今日も会いたいから来るらしい」

「ああ、お兄さんの恋人と一緒にいるのは気まずそうだね」

「いや、それは別にいいんだ。むしろ、お兄ちゃんとその恋人と僕と3人で同じ空間にいた方がいい。今日は僕は自分の部屋にこもって残りの宿題をやろうと思ってたんだ。つまり、お兄ちゃんたちは2人きりになってしまう。たぶん、お兄ちゃんの部屋で。しかも、お兄ちゃんの部屋は僕の部屋の隣。まあ、あとは察してほしい」

ヒナギはしっかりとヒヅキの言いたいことを理解したようで、あんたも大変だな、としみじみといった。

「さて、こんなこと話してる場合じゃない。あのバカップルがいちゃつき始める前に、いったん家に帰って宿題を持ってこなくちゃいけない。もう食べ終わったし、はやくお会計して、はやく僕の家に行こう!」

ヒヅキはそう言うと、今から帰るから少し待てというメッセージを素早く送ると、さっさと立ち上がって個室を出た。ヒナギはさっと忘れ物がないかを確認するとヒヅキを追いかけた。そして、手早く会計を済ませた。

「またくるね」

ヒナギはそうノアに伝えて、ヒヅキとともにカフェを後にした。

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