2度目の初対面
ヨルとアサが出会った翌日、駅から少し離れたカフェ『プロミス』の前に1人の男性がいた。さわやかで王子様のようなイケメン、彼はシルバーのネックレスをかけていた。顔だけでなくスタイルもいい彼は、近くを通る人の目を引いていた。しかし、慣れているのか、彼は人々の視線をまったく気にすることなく、ずっとスマホばかり気にしていた。どうやら彼は人を待っているようだ。
駅の近くで1人の女性が歩いていた。彼女はゴールドのネックレスをかけていて、彼女のために美少女という言葉があるのではないかと思うほどかわいらしい見た目をしている。人々の目を引いていたが、彼女はそれらを一切気にもとめずに、カフェ『プロミス』に一直線に向かって歩いていた。
彼女が目的地に到着して見覚えがあるシルバーのネックレスをかけた男を目にしたとき、思わず、は?と驚いたような声を上げた。彼女の声が聞こえたようで、彼はスマホから目を離して彼女の方に顔を向けた。彼女を見た途端、彼も、は?と声を上げた。見つめあうこと数秒、女性はスマホを取り出して、どこかに電話をかけ始めた。すると、男性の手にあるスマホが鳴り出した。数秒スマホを見つめた後、電話に出た。
「……君がアサ?」
女性は、目の前にいる男性を見ながら電話越しに問いかけた。
「そうだけど……あんたがヨル?」
「そうだ。まさか君がアサだとは思わなかったよ、王子」
「まったくだよ。俺もあんたがヨルだとは思わなかったよ、姫。まさかあんたと初めて話すのがこんな状況だとは思わなかった」
「それは僕も同じだ。言いたいことはいろいろとあるけど、とりあえず電話切るか」
「そうだな」
姫と呼ばれた女性と王子と呼ばれた男性は、電話を切り、お互いの顔をまじまじと見つめること数秒、はあ、と同時にため息をついた。
「人の顔を見てため息をつくんじゃねえよ。失礼だな、君は」
「それはあんたも同じだよ」
「で、なんでため息ついたんだよ」
「俺は、何度見ても姫の顔は好みじゃないなって思ったんだよ。学校で“姫”って呼ばれるだけあって、あんたはかわいい顔してるんだけどね。俺の好みとはかけ離れてるんだよね。あんたは?」
「僕も同じだ。君の顔はまったく僕の好みじゃない。別に君の顔が悪いわけじゃない。君は“王子”って呼ばれるだけあって、確かにかっこいいんだけど、残念ながら僕の好みとはほど遠いんだ。でも、そんなことは関係ない、僕らが付き合うわけじゃないし。だって僕が好きなのはアサで、君が好きなのはヨルだろ?」
「うん、そうだよ。……さて、立ち話はこれくらいにして、そろそろお店の中に入らない?」
王子の提案に、姫もそうだなと同意して、ようやくお店の中に入ることにした。
カフェの中は明るく、カウンター席とテーブル席の両方がすでに埋まっていた。扉が開いたことに気づいた店員と思しき男性が、いらっしゃいと2人に声をかけてきた。
「おっ、ヒナギくん、やっと入ってきたね。奥の個室空いてるよ」
店員さんは、王子――ヒナギに対して親しげに話しかけてきた。ヒナギは事前に、個室を1つを開けておいてほしいと、ノアにお願いしておいたのだ。個室は2つしかないため、頼んでおかないと空いていないことがあるからだ。
「ありがとう、ノアさん。遅くなってごめんね」
「全然大丈夫だよ。隣にいる子はヒナギくんのお友達かな?初めまして、ノアっていいます。よろしくね」
ノアは姫の方を向いて笑顔で言った。
「ヒヅキです。よろしくおねがいします」
姫――ヒヅキは、普段より若干硬い表情でそう言った。
「ヒヅキちゃん、よろしくね。そんなにかしこまらなくていいよ。本当はもう1人、お客さんには店長さんって呼ばれてる人がいるんだけど、今日は他の用事でいないんだ。また今度紹介するね。そうだ、ヒナギくん、もしなんか頼むなら、今注文しちゃう?今ならまだランチセットやってるよ」
そう言って、ノアはヒナギにメニュー表を手渡した。
「じゃあ、そうしようかな。俺は、ランチセットでサンドウィッチとフルーツタルトと紅茶をお願いします。姫はどうする?」
ヒナギはヒヅキにメニュー表を見せた。ヒヅキはそれを見て少し考えた。
「えっと、僕もおうじ……じゃなくて、ヒナギと同じのをおねがいします。」
「わかった。できたら持ってくね」
ごゆっくりどうぞ、と言ってノアは料理を作る準備をし始めた。ヒナギはヒヅキを連れて、店の奥の方にある個室へと連れて行った。
あまり広くはないが、明るい店内とは違い、落ち着いた雰囲気の個室に入ると、2人は向かい合って座った。そして、ヒナギは先ほどから気になっていたことをヒヅキに聞いた。
「姫ってもしかして人見知り?」
「なんで?」
「いや、さっきノアさんに挨拶したとき、すこし硬くなってたから」
「そうだよ。昔よりは良くなってるんだ。まあ、コミュ力はいつも女の子に囲まれてる王子の足元には及ばないけどな」
ヒヅキはからかうように言った。
「あぁ、あれね。あれは自由に動けないからいいもんじゃないよ。姫も一度囲まれてみる?」
「絶対ヤダ」
ヒヅキは心底嫌だったので即座に拒否した。
「だろうね。姫はいいよね、遠くから見られてるだけだから」
「いいだろ、自由で。まあ、それは僕の幼馴染のおかげだけどね」
「ああ、いつも姫と一緒にいるイケメンね」
「そう、あいつが僕を一人にしないでいてくれるおかげで君みたいな最悪の状態にならなくてすんでる」
「へえ、いいやつだね。そいつ結構モテるでしょ?」
「たまに告られてるよ。たぶん僕らよりも告られてる」
「すごいね、大変そう。俺はめんどくさすぎて、まわりの女の子たちに『自分以上に顔がいい子としか付き合う気ないよ』って宣言した。そしたら、告白されることが減ったよ。姫はどうしてるの?」
「僕はね、告られそうだなって思ったらそいつに話しかけられないように逃げてる。逃げられなくて告られちゃったら、即座に『ごめん、無理。僕は幼馴染よりも顔がいい奴じゃないと無理』って言う。それでも、あきらめずになんか言ってきたら、近くで待ってる幼馴染を呼んで撃退してもらう」
2人が告白してくる人の撃退法について話していると、個室の扉をノックする音が聞こえた。そして、扉が開くと、注文したランチを持ってきてくれたノアがいた。ノアは、2人分のランチを置くと、ごゆっくり、と言って出て行った。
「おいしそうだな。ていうか、これだけ頼んで500円って安くないか?」
サンドウィッチはちゃんとボリュームがあり、フルーツタルトはたくさんのフルーツがのっていて非常においしそうだ。ちなみに、普通に頼めば1000円だが、学生だと半額になるのだ。
「俺も最初は驚いた。さて、そろそろ本題に入ろうよ」
「そうだな」
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