第1章03
一方、船室では。
壁際に据えられた小さな簡易テーブルに夕飯のトレーを置き、背もたれの無い小さな丸椅子に腰掛けて、一人黙々と穣が夕飯を食べている
穣(…ウゼェよなあいつ。まぁ護がウザくなったのは満のせいなんだが…)と思いつつ、(俺が護に突っかかるから船内がギスギスすんのはわかってる。…しかし…)そこで深い溜息をつくと「外地、出たいよな…」とポツリと呟き、昔の事を思い返す。
穣(あれの発端は、船長の言葉からだった。)
≪回想シーン≫
とある日、アンバーの食堂にて
剣菱『…そもそも外地ってのはさ。航空管理の管理波が届かないから、外地なんだよ。』
マゼンタ『どゆこと?』
剣菱『管理が管理できない土地だから外地。管理波が届けば同じ場所でも内地なの。』
マゼンタ『…どゆこと?』
穣『同じ場所でも内地…!?』
剣菱『うん。』
マゼンタ『どーゆーことー!』
剣菱、マゼンタを無視して話を切り替え『それにしても年々採掘量が落ちてきて…このままだといつかイェソド鉱石は』
マゼンタ『枯渇しちまう!』
剣菱『ってか枯渇させたいんだけども』
マゼンタ『え。そうなの?』
穣『人間はイェソド鉱石の無い所に都市を作って来ただろ。人工種が採り尽くして無くなった所に』
マゼンタ『そっか。鉱石あったら人間住めないし!』
剣菱『鉱脈が残ってると鉱石が成長するから人工種が探知してキチンと採り尽くしてやらんと。』
悠斗『だからこうして採掘船でアチコチ移動しつつ採掘する訳だ!』
マゼンタ『分かってるよそんなの。マリアさんの探知大活躍』
剣菱『んで採った鉱石は、人間も使えるように人工種が加工し、人間はそのイェソドエネルギーを使って暮らす。しかしこのままでいいのかねぇ』
マゼンタ『いつか全部枯渇しちゃった時に困るよね!』
悠斗『でも人間の住める地域は広くなるぞ』
マゼンタ『エネルギー無かったら暮らせないじゃん』
悠斗『発電があるだろ』
すると剣菱が突然『…遥か昔、この辺は外地だったらしいぞ』
一同『え』
穣『…というと?』
剣菱『俺がまだ子供の頃に近所の物知りジジイから聞いた話だが、…人は人工種を使って外地を開拓していくと』
一同『…。』ポカンとした顔をする。
マゼンタ『開拓って…、外地って危険な所じゃ』
剣菱『迷う危険はあるわな。道しるべが無いから。んでもそれ以外は普通の山や森と同じだと思う。』
マゼンタ『そうなの?』
剣菱『その物知りジジイは、子供の頃に外地の山に山菜取りに行ったらしい』
一同『えええ』
剣菱『だって人間には首輪が付いてないからな、誰がどこに行こうと全くワカランから』
悠斗『人工種の移動はメッチャ制限されてるのに』
剣菱『ただ外地は出ちゃイカン所だから、勝手に外地に出て迷っても誰も助けに来ないけど。』
穣『でも航空管理が捜索を』
剣菱『誰かが管理に捜索願を出してくれた場合はな。』
穣『あー…。』
マゼンタ『人間にもこの首輪つけよう!』と自分のタグリングを指差す。
剣菱『話は戻るが最近、イェソド鉱石減ってるやん。いつか新規開拓するなら今やってもいいんじゃないかなぁと』
一同、ポカンとする
悠斗『新規開拓?』
すると穣が突然バッと剣菱の方に身を乗り出して『そうか!!つまり外地には鉱石がある?!』
剣菱『って事になるだろ、多分!』
穣、テーブルをバンと叩いて『やりましょう!』
悠斗『でででも、人工種は外地に出ちゃ』
穣『怒られたら引き返せばええやんけ!チョコッと出て、怒られたら止める!』
悠斗『…まぁ、ちょっと手を突っ込む位なら…』
穣『ってかもしそこに鉱石が沢山あるって分かったら管理も大喜びやんけ!新規開拓!未知の土地を開拓するんよ、やってみるべ!』
悠斗『はぁ』
マゼンタ『ほへー!』
再び船室の穣に戻る。
穣、過去を振り返ると、はぁ、と溜息をついて(…新しい事に挑戦する、やりたい事をやってみる…単にそれだけの事だったのに、管理に理不尽に怒られて、そして、あのウザイ奴がアンバーに来た。)
穣、悔し気な顔で俯くと(あれから一年…。吐き出せない鬱屈が溜まりに溜まって、…苦しい…。)
数日後。
川の近くの岩場で鉱石採掘作業をしているアンバーの一同
穣は浮かない顔でダラダラと仕事をしている。
穣(疲れたなー。…なーんか最近ホントにヤル気がでねぇ。だって頑張って稼いだ所で俺の夢は叶いそうにねぇし。アンバーが成果を挙げても褒められるのは護だし。何の為に仕事すんのか…)
と、そこへマリアがスッと穣の横にやってきて「あの…」
穣「ん」
マリア「ちょっと、気になるものを探知しちゃって…。イェソド鉱石なんだけど、なんか凄く特殊なの」
穣「特殊?」
マリア「うん。こんなの初めて。物凄いエネルギー…。でも、一本だけなの。それに、ここから少し遠いし、そこまでの道中がちょっと大変で」
穣「行ってみるべ」
その言葉に、マリアの顔がパッと明るくなる「でも一本だけだし、こんな変わったイェソド鉱石、使えるのかな…」
穣「変なモンだから行くんだよ。どんなモンか確かめたいやん」
マリア、嬉しそうに「うん!」と言い「でも、採掘監督が許可してくれるかな」
穣「護には適当に嘘つけばええんよ」
暫し後、穣とマリアを先頭に、作業道具を持って深い森の中を歩いている護達。
護、イライラしたように「本当に行くのか?時間の無駄では」
穣「行く!何度も言わせんな。だって珍しいイェソド鉱石があるんだぞ!」
護「とはいえ」
マリア、探知しつつ「もう少しです、あっち!」と指差し「こんな不思議な感じがするイェソド鉱石、初めて!」
穣「どんな鉱石なのか実際に見てみたいだろ?それに珍しい鉱石は高く売れる。」
護、渋々「…それはまぁ、…そうだけど…。時間が」
穣「時間の無駄かどうかは行ってみないとワカラン!」
護「…そうかなぁ」
その時マリアがやや崖下の洞窟の穴を指差すと「あの洞窟の中です!」と叫ぶ
一同、直径1メートルほどの穴の入り口から中を覗く。サワサワとかすかに水音がする。
穴は下の方へ向かって続いていて奥に何やら光が見える
マリア「あの光!…ここ、思ったよりイェソドエネルギーが強い」
穣「行こう」
作業用ライトを点けて採掘道具を準備し、中に入る一同
穣「この狭い入り口だけ、鉱石弾でブッ飛ばしたいな」
オーキッド「鉱石弾って、船の前方に付いてる奴?」
穣「うん。かなり昔は、あれをぶっ放して鉱石層を派手に崩して採掘した事もあったらしいが、今はもうただの飾りと化してる。」
悠斗「いつか撃ってるとこ見てみたいねぇ」
穣「でもアレな、一発撃つのに相当なイェソド鉱石を使うらしいぜ」
悠斗「え。鉱石消費して鉱石採るって、おかしくないか?」
穣「まぁそんだけ鉱石が有り余る時代があったんじゃねぇの?しかし凄いな、光がどんどん強くなる」
透「もうライト要らないよね」
一同は鉱石の場所に辿り着く。
物凄いエネルギーの柱がある。皆、唖然としつつ
悠斗「凄い…。」
マゼンタ「超絶凄いイェソド鉱石だ…。」
穣「…しかも中に、何か別の石が混ざってる。こんな混合鉱石、初めて見た。」
透、マリアに「やったねマリアさん、大手柄!」
マリア「はい!」
その時、洞窟上方の岩場に一同を密かに見つめる何かの影が。しかし誰もそれには気づかない。
穣、柱を見上げながら「さて…これをどうやって採るか…。護、中の黒っぽい石、どうする?」
護はボーッと石を見つめている(…美しい…)。
穣、そんな護に「おい、採掘監督!」
護「え。あ、…ええと」と言って穣を見た瞬間、穣の後方を何かがサッと通ったのが視界に入る。
護「あ!」
穣「どした?」
護「今、何か動物がいたような」
マリア「動物?…あ、そういえば何か小さい生き物の感じがする。何だろ」
穣「コウモリとかじゃねぇの。とにかくコレどうすんだよ!」
護「と、とりあえず、怪力メンバーで叩き折ろう。斧をだして」
護と悠斗が斧でガンガンと鉱石柱の根元を叩き切り、皆で倒して柱を地面に寝かせる。
護「…これ、後で粉々に破砕されるよなあ…」
悠斗「ですね。そうでないと使えないし」
護「中の黒い石、どうしよう」
穣「今、取り出しちまえ」
護「うん。」
護、小さな斧とノミでカンカンと黒い石の周囲のイェソド鉱石を砕き落とし始める。
オーキッド、マリアに「黒い石もイェソド鉱石なの?」
マリア「んー」と悩んで「このエネルギーの感じ、よくわかんない…。」
護、作業をしながら石を見て(本当に美しい黒…。そういえば俺、幼少期は石が好きで、色んな石を集めてたな。…採掘船に入ってからは、仕事の事ばかりで石集めなんてどうでもよくなったけど…。)
護は一旦、作業の手を止めると「これ以上やると、中の黒い石まで割れる…」と言いかけたその時。
突然、上から何かが降って来た。
一同「!」
護「え」と驚いた瞬間、上から落ちて来た数匹の耳の長い生き物達の中の一匹が、護の顔にキック。
思わず鉱石から手を離す護。長い耳の妙な生き物達は、その長い耳で黒い石の鉱石を持ち上げトコトコと洞窟の奥へ進んでいく
マリア「な」
透「な」
穣「なんだあれ」
護、ふと我に返って「持って行かれる!」と慌てて立ち上がると変な生き物を追うが、護に気づいた彼らはサササと狭い割れ目に入ってしまう。
護「く…逃がすか!」と言うと自分もその狭い岩の間に身体をねじ込む。
穣も慌てて護の所へ来て「お、おい、護…」
護は狭い岩の間を抜けて、その先の通路に出る。「くっ…、ぬけ、た!」前方にはあの変な生き物達。追って来た護にビックリして逃げようとする。
護「待て!」と言って走り出そうとした瞬間、手前の出っ張った石に躓く「あっ!」そしてよろける「!」
そこへ穣が岩場の間から出て来ると(水音がする…下に川が)と思った瞬間、前方の護の状態に気づいて「ま、護!」と驚く。その声に、変な生き物達も足を止めて護の方を向く。
護の左側には巨大な空間があり、その天井から釣り下がった鍾乳石に必死に掴まっている護の姿が。
護、穣に「来るな、危険…」と叫んだ瞬間。護が掴まっていた鍾乳石が折れる。
変な奴ら&穣「!」
護は下へ落下し、やや光を放つ水が流れる川にドボンと落ちる。
穣「まもるーーー!」絶叫
変な生き物達は驚き焦って困ってそれからキッとした表情で何かを決意すると、黒い石と共に下へジャンプ、ドボンと川の中に落ちる。
穣、焦って「ど、どうすりゃ、…とにかく位置を!マリアさん!護を探知してくれ!護を!」と叫びつつ、皆の方へ戻る。
穣「絶対助けるからな、生きろ護!!」
護が落ちた川は、光る水を湛えながら何事も無かったかのように静かに流れ続ける。
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