第1章02

『イェソド鉱石、それはこの世界の基幹エネルギーであるイェソドエネルギーの原料。鉱石が無ければ皆の生活が成り立たない。』


護は周囲の鉱石を見て(思ったより量が無いな…)と思いつつ、ため息ついて大きな鉱石の塊を持ち上げると、後ろから「軽そうに持っちゃって…」という誰かの声が。振り向くとマゼンタがいる。

マゼンタ「それ突然、落とさないで下さいよ!」

護「大丈夫だ。」

マゼンタ「怪力メンバーの近くにいると怖い…。いつデカイ石が落ちて来るか」

すると通りすがりの悠斗が「バリア石を着けてるから大丈夫」

マゼンタ、上腕に付けた腕輪を指差し「コレ、重量物は無理!」と言うと「いいよなぁ怪力とか風使いとか…俺は何の能力も無い普通の人工種…。」

悠斗「それがマゼンタ君の能力だよ!」

マゼンタ「ええー!」

そんな会話をよそに、護は大きな鉱石をコンテナに入れる。


暫し後。

護は皆が鉱石をコンテナに詰め終わったのを確認すると「ここは採り終わったな…」と言い、探知人工種のマリアに「マリアさん、次の採掘場所を探知…」と言いかけるが

透「さっきから探知してるよ」とマリアを指差す

マリア、探知をかけながら「…すみません、なかなか見つからなくて…。」

護「なるべく急いで」

悠斗「…最近この辺りの鉱石、減ったよなぁ」

透「全体的に、減ってきてるよね」

すると穣が「外地がいちなら沢山あるぜー!」

護「ダメです!」

穣「ちょっと出る位なら」

護「外地は危険な所、何が起こるかわからないんですよ!そもそも航空管理の管理波が届かないので船が遭難する危険があるし」

穣「んでもな」と言いつつスコップで地面に線を引き「こっちが航空管理の管理区域内、こっちが管理外、つまり外地って事で。」と言い、線をまたいで「こんな感じではみ出す位ならダイジョブだ!」

悠斗、ニコニコしつつ「1年前はこうやったんだ」

護「それで航空管理と人工種管理に叱られたんでしょう!」

穣「うん」

悠斗「すんごい怒られたけど、楽しかった」

護「え」

マゼンタ「外地って、どんなトコなのかなぁって」

悠斗「冒険は楽しい」

護「しかし規則は守らねばなりません!」

マリア「でも外地には、鉱石が沢山ある場所が」

護「それでもダメです!」

マリア「…船長も協力してくれたのに」

護、ため息ついて「剣菱船長って少し甘いよね…。これがもしブルーだったら」

穣「だってブルーは船長より採掘監督の方が実権を握ってるだろ。あのクソッタレの満がよ」

護「長兄に対してその言い方は!」

穣「人工種は船長になれないっていう決まりがある世界で良かったなー」

護「とにかく外地はダメです!前科があるんですから。今度何か起こしたら、…『廃棄処分』にされるかもしれない」

穣「…それな」

マゼンタ「それ具体的にどうなるんだろ」

悠斗「皆、知らないんだよな。誰に聞いてもさぁ」

穣「…人工種管理に聞いても教えてくれねーし。分からないってのが恐いよな。」

護、マリアに「マリアさん、鉱石の探知は」

マリア「あっ、ごめんなさい、まだ見つからなくて…。私も黒船のカルロスさん並に探知が出来たら」

穣「カルロスの探知能力は異常だから気にすんな。マリアさんが正常なの。」

マリア「そ、そうかな」

悠斗「…おや。」と何かに気づいて「なんかエンジン音が」

マリア「黒船が近づいてます。この上を通って行くみたい」

マゼンタ「噂をしてたら来た!」

悠斗「来なくていいのに」

アンバーメンバーの遥か上空を、黒い航空船が通り過ぎてゆく。

透「わざわざ俺達の上を通って行かなくても」

マリア「黒船の貨物室…、スゴイ量の鉱石を積んでます。どこでこんなに採ったのかな…」

悠斗「さすが。採掘量第一位を独走するだけあるねぇ」

マリア「あ!突然、探知できなくなった!」というと「探知妨害するなら最初からすればいいのに!」

マゼンタ「へ?」

マリア、マゼンタに「私に貨物室を探知させといて、途中から妨害するってアリ?」

穣「積荷の自慢してぇんだろ。カルロス性格悪いから」

護「…とにかく、黒船を抜いて採掘量第一位にならないと」

穣「第二位でもええやんけ」

護「ダメです!」

穣「クソッタレの満に第一位になれって言われたから?」

護「それに製造師せいぞうしが!」

穣「んもーー!!! お前、人間の言葉に『親離れ』ってのがあるの知っとるか?! 人工種で言うなら『製造師離れ』だ、お前そろそろ製造師離れしろや」

護「人間の言葉に『親に迷惑かけるな』というものがあります」

穣「迷惑って、…それなら子供にタグリング着けるなや!」と自分の首に付いている首輪を掴んで「これウザいよなぁ!人工種には必ずつけられる。製造師しか外せない。年一回メンテして、管理機能が正常かどうか確かめる。何でこんなのに管理されなきゃ」

護「でも人間が管理してくれているお蔭で、人工種は安全に生きられるんだ」

穣「アホか!人間は人間の子供にこんなモン着けねぇベー何で人工種には着けるぅぅ!」

護「それは、人間には人工種が必要だから」

穣「だって人間は、イェソド鉱石に長時間触れると死んじまうからなー!」

護「鉱石が無ければ人間も人工種も生活できない!だから採らねば」

穣「ああもぅこの石頭ぁぁ!いつも同じ事言いやがって」

護「何回言っても貴方が理解しないからです!」

穣「満に洗脳されたテメェの言葉なんか理解したくねー!」

護「洗脳なんて!」

そこへ、護の耳に付けた通信用のインカムからピピーと呼び出し音が聞こえる。

護、インカムに「はい、護です。」と言うと「えっ。…分かりました、すぐブリッジに行きます」と言い「マリアさん、ブリッジに行こう。皆は撤収作業だ、ここは引き揚げる!」と言い船の方に走って行く。

それを見送りつつ、透「…また長兄からの電話かな。」

穣「…また護の洗脳が酷くなる…」溜息



ブリッジの前でドアをノックし「失礼します!」と護が中に入ると

船長の剣菱、辟易したように「いつものお電話。ブルーの満さんから。」と護に受話器を差し出す

護「…はい。」と言い、恐る恐る受話器を受け取って「お待たせしました長兄、護です…。」

満『護。何やらアンバーの採掘量が芳しくないと聞いたが』

護「え、ええまぁ…」

満『製造師が私に連絡をよこしたぞ。護がこの間メンテに来た時に元気が無かったからキチンと仕事が出来ているのか心配だと』

護「えっ」

満『まぁアンバーには困った次男がいるからな…。お前、あいつのワガママに悩んでるんじゃないのか』

護「い、いえ…。」

満『お前がブルーからアンバーに移動して、そろそろ1年か…。護、剣菱船長にご迷惑をかけていないだろうな。』

護「…な、なんとか。」

満『人工種は人間の為に作られた存在、役に立たねば存在価値が無くなる』

護「はい…。」

満『ともかく製造師も高齢だ、困った次男と、末子の透を頼む。何かあったら私に相談するように』

護「はい」

満『お前は五人兄弟の中で一番のしっかり者だ、お前なら黒船のカルロスに勝てる。期待してるぞ』

護「はい!」と言うと「通信、終わりました」と言い剣菱に受話器を渡す。

剣菱「…また長兄に余計な事を吹き込まれたか」

護「え。」

そこへ操縦席のネイビーが「どうせ人工種は人間に逆らっちゃイカンとか、そんな感じでしょ」

護「それはそうです。」

剣菱、ネイビーを指差し「そこのネイビーさんは人工種の癖に人間の俺に逆らうぞ」

ネイビー「だって一等操縦士ですもん。副長としての意見を述べてるだけでーす。」

護「意見は良いと思います。」

剣菱、ため息ついて「お前も大変だな…。しかし満さん、採掘監督とはいえ個人的な連絡は食堂の一般用電話にかけてきてほしい」

ネイビー「一般だと穣さんが電話に出る可能性があるから」

剣菱「あぁ…。」

護「ところで船長、次の採掘場所について」

すると入り口近くに居たマリアが「あ、ごめんなさい、まだ見つかりません」

剣菱「船の鉱石探知機にも反応が無いから、まぁノンビリ移動しながら探そうや」

護「…あまりノンビリしてると、黒船が」

剣菱「ウチはウチ、黒船は黒船」

護「しかし」

剣菱「焦って見つかるモンでもない」

護「…。」不服そうに剣菱を見る

剣菱「ところで撤収作業は終わったんか?」

護「あっ!すみません!」と言ってブリッジから走り出る

剣菱、ため息ついて「全く…あの青い髪の石頭は…。満さんにガッツリ管理されて」

ネイビー「せめて電話が来なかったらねぇ」

剣菱、困り顔で「…電話するなと何回か満さんに伝えてるんだが…」

ネイビーも困り顔で「…ねぇ…。」



夕方。

周囲は殆ど暗くなっている。草が生い茂る野原に着陸しているアンバー。

疲れた顔で船内の階段を上がる護、ため息ついて(結局、今日はあんまり採れなかった…。明日もっと頑張らないと)と思いつつ立ち止まり(…ここで成果を挙げれば長兄に認めてもらえる。三男の歩にも勝てる。…歩なんて大嫌いだ。一歳年上なだけなのに、俺の事を見下しやがって…)と悔し気な顔で拳を握りしめると、再び階段を上がりながら(…勝ちたい。…兄弟全員に認められたい。…お前は凄いって言われたい…。)



階段を上がり切った護は食堂へ。

食堂に入ると奥のキッチンで調理師のアキが黙々と食事の準備をしている。他には誰も居ない。

護(あれ。一番乗りしてしまった。)と思いつつ、食器を乗せるトレーとお茶用のカップを取り、ポットのお茶をカップに注ぎながら、はぁ、とため息をつく

アキ「監督、お疲れ?」

護「うん。今日は、あんまり採れなくて」

すると背後から「採っただろうが」という声が。振り向くと穣がいる。

穣「あんまガツガツすんなや。探知のマリアさんが可哀想だろ」

護、ちとムッとして「そんな甘い事言ってると、ブルーや他船に抜かれますよ」

穣「いいやん別に」

護「これ以上、失態を重ねたいんですか?」

穣「外地に出た事の何が失態なんだよ!別に逃亡しようとした訳じゃねぇし、むしろ鉱石採って戻ろうと」

護「外地に出なくても鉱石は採れます!他の船は皆、外地に出ずに採掘量を」と言いかけた所で

穣「テメェが頑張るのは長男の満に叱られるからだろ?それアンバーと全然関係ねぇし!」

護「え。」と驚くと「…関係あります!俺はアンバーの採掘監督であり、十六夜五人兄弟の四男で、だから俺達が成果を挙げる事は、製造師の十六夜先生の成果に」

穣「くっだらね!」

護「くだらない?!」そんな会話をしている間に食堂には続々とメンバーが入って来る。

穣「何で十六夜VS周防っていう製造師同士のプライドバトルに俺らが参戦しなきゃならんのさ?」

護「当然です!だって俺達五人兄弟は」

穣「カルロスに対抗する為に作られた存在だよ!…全く、どこぞのご立派な製造師、周防先生がハイスペックな人工種を作りやがったお蔭でウチの十六夜先生が対抗心を燃やして俺ら五人兄弟を…って、お蔭で俺らが存在する訳だがぁぁ」

護「貴方は人工種の中でも珍しいバリアラー、五人の中でも特別なんです、貴方が頑張れば製造師も」

穣、護を指差しつつ配膳カウンターの向こう側に居るアキに「なぁアキさん!この人工種、おかしくね?」

アキ「え。」と焦る。

護、アキに「アキさんは人間だから、親の大切さが分かりますよね!」

アキ「…うー…ん…」困る

護「人間は親の為に、人工種は製造師の為に、頑張る」と言いかけた所で

穣、自分のやや斜め後ろで話を聞いていた透に向かって「なぁ透、この可愛くねぇ四男を何とかしようぜ」と言い護を指差す。

護「!」カチンと来て怒り顔

透「…。」

穣、既にカウンターに出されていたカツカレーとサラダの器をトレーに乗せると「俺、船室で食うから、お前来るなよ」と護に背を向け食堂の出口へと去っていく。

護「…行きませんよ」と言うと自分もカツカレーの器をトレーに乗せて近くのテーブルの席に着く。

そんな状況を見ていた透、はぁと小さく溜息をついて(どうしようかなぁ…)と考える。

護は食事を食べ始めながら(何が可愛くねえ四男だよ。…どうせ俺は末子の透より可愛くねぇよ!)

そこへ透がやってきて、護と同じテーブルに自分の食事のトレーを置くと、護の正面の席に着き「…護、もうちょっとリラックスしたら?」

護「…こんな四男で申し訳ない」

透「いや俺もこんな末子で」

護「…お前、昔から穣さんと仲がいいよな。穣って呼び捨てにするし」

透「…俺、護の事も呼び捨てにしますけど」と微笑する

すると護、食事の手を止めて暫し黙ると「透。…お前、どっちの味方なんだ」と透を睨みつける。

透、ギクッとして「ん?…うん。…前から言ってるけど、俺は」

護「兄弟仲良くしたいんだろ。でも今こういう状況で、お前はどっちの味方なんだよ。」

透「どっち、って…。まぁ、…うん…。」

暫しの沈黙。

すると護がぽつりと呟く「…俺、甘いのかな」

透「え」

護「黒船が、ずっと採掘量第一位をキープしていられるのは、先代の船長が厳しかったからだろ。…だって今の船長、まだ28歳だぞ。ブルーの武藤船長と同い年」

透「ああ…。でもそれはさ、黒船の採掘監督のカルロスがベテランだからでは?」

護「つまり先代の厳しい船長に鍛えられたメンバーがそのまま残ってるからだよな?…だからどんな船長に代わっても、安定した成果を挙げられる」

透「う、…うん。」

護「俺がもっと厳しくならないと…穣さんを黙らせる事が出来る位に」

透「………。」ちょっと唖然として護を見つつ、内心(…護、それは、何か違うと思う…!)

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