第8話 スライム使いとカジノ会場


煌びやか装飾の中にスライム使い。アユムは居た。

「うるせぇな、ここ」

何より目を引くのが、長い列状に陳列された遊技機と呼ばれる存在。


煌びやか装飾に着飾れた四角い箱の中に魔法映像で数字の羅列を描くというしごく簡単なもの。

さまざまな遊戯機と呼ばれる魔法家具が所狭しと陳列されている。

その一本道を数匹のスライムを連れ歩いていると、目の前に黒色がよぎった。どの遊戯機には無い色をした黒色の影がアユムの前で止まった。


「ようこそ。当店にお越しいただきありがとうございます。スライム使い様」

そんな店内の中で迎えた1人の男。名前はネカと呼ばれる。カジノキングダムの運営者でありここにアユムを呼んだ張本人。

「その、ここに呼んだ理由って?」

「我々は新たな試みを行おうとしているのです。カジノ界に新たな風を吹かせるために」


新しい風というものを聞いてみると、スライムを使ったレースをしたいということだった。


「金銭的なのは、我々は出すことが出来ません。この世界で決められた決まりですので」

カジノ界には疎いため、何故ダメなのかを聞くと「世界が決めたこと。カジノ界は金銭が全てを支配しかねませんから」と笑って教えてくれたがなんだかその笑いが笑っていなかった。


「指定したスライムの育成と管理。それに貴方様のスライムをとびきり早いのを貸して欲しいのです」

「ちょっと待ってくれ。スライムの育成?俺自身スライムが何処にいるのか、正直言って分からない。数も」

「だからこそです。この前に貴方様のスライムがカジノ会場に侵入した時に、私たちは捕まえるのに苦労しました。なんせあのスライムは早かった。そのでピンと来たんです。小さな会場でレースを出来ればと」

早いスライム?覚えがない。スライムが危機的状態になったとしても……いやスライム自体危機を感じない生き物だ。それが人に追いかけられて逃げた?


気になった。俺の仲間のスライムにそういう奴はいたであろうかと


「わかりました。指定されたスライムは飼育小屋などを用意してくれれば出来ます。足の速いスライムは覚えがないですが探してみます。きっとアイツらが勝手に増えた時に出てきたタイプだと思います」

そう言いネカさんに別れを告げ、カジノ会場を出ると少しだけ肌寒い風が身を引き締める。

「嫌な季節がくるな」


それからアユムは森や街を練り歩き足の速いスライムを探したが人に捕まえられないほどに速いスライムは見つからなかった。


「はぁ……何処にいんだよ。てゆうかお前たち勝手に増えるな。なんか街中に多くなかったかお前ら」

スライムに聞いても答えもしないが大体予想ができる。街中にゴミが一つも落ちていない、それが理由。きっと冬越えに対して数を増やし、体を大きくして冬を越そうとしているのだ。

「また暖炉の中で煤まみれになるなよ?」こいつ1匹に言っても仕方ないか。


アユムが立ち上がろうとした時に、茂みが揺れ1匹のスライムが飛び出してきた。

?!と声にならない声が出た。出てきたスライムはスライムに決められた決まりのようなものを全て逸脱しているからだ。


透明な体ではなく、不透明でメッキがある。

光の加減で金にも見えれば銀にも見え、何より足の速さが尋常ならざる。あの速さは目にも止まらぬ韋駄天のようであった。


「ちょっと待て!」逃げようとしたメッキスライムを呼び止めると止まった。やはり俺の仲間の中で出来た変異種のようであった。


アユムはそれを抱き上げると驚いた。

「こいつ、硬い?弾力もない、しかし手をすり抜けるような流動性がある。一体何を食って?!」

この色、思い当たる節があった。この独特な色。光の加減で金から銀にも変わる物をひとつだけ知っている。


「お前まさか、コインを食ったのか?」

この世界で使われている金銭ジュゾー。魔法によって作られた特殊な金属のジュゾー。この色になるまでどれほどのジュゾーを食べたのであろうか


俺は納得の理解よりも先に、寒気と想像もしたくないほどの後悔が足元から冷や汗と共に溢れ出てくる。


「あははー」俺はカジノ会場へと急ぐとネカさんにメッキスライムを渡した。

「ありがとうございます。その様子を見るとこのスライムが何をやったのかご存知になったのですね」

「あは…は」

「ですが大丈夫です。きっと我々が考えている以上にこのスライムは儲けさせてくれますから」

その笑いにアユムは合わせるように笑うしかなかった。


それからというもの、一度だけカジノ会場に寄って見てみたが、メッキスライムがお互いのスピードを競うレース場が出来ていた。

メッキの種類も増え、時にはエメラルドのような輝きがあるものや白金のような神々しい光を持つスライムが居たりした。

それよりびっくりしたのがそのレースに賭けられていた金額であった。1人の仕事人が毎日汗水たらしてでも足りない金額の横行である。


「しかし、俺より良いもの食ってんな」カジノの地下で育成する中で毎日のように思うスライム使いであった。

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