第7話 スライム使いと畑仕事

あのウォータードラゴンの一件から、安全面確保やその他の事項があるため、マリアナさんとの話はまた後日改めてとなった。

そして今日は「暇だなぁ」かなり暇なのである。いつもなら借宿の仕事があるが、ハンスさん曰くお手伝いを雇ってしまったため不要ということ。だから暇になりベットの上に横たわっているのだ。

「何かをしなくてはならないと思うんだが、こう何もないと虚無だ」スライムたちも暇なのか窓辺に集まり光合成をしていた。


「そういや」ウォータードラゴンの一件で活躍したスイセイだが、あれ以降水噴水の如く、事あるごとに水を噴き出すようになり、現在は借宿の貯水槽の中で平穏な時を過ごしている。

ちなみにスライムから水を取っていることはハンスさんと俺だけの秘密である。


「そうだ」俺は前にやってしまった不良品防具たちを押しのけ、一枚の紙を取り出した。故郷からの手紙だ。


アユムや 元気にやっとるかい?

こっちは 現在収穫の真っ最中 人手不足でおばあちゃん 大変です。

手伝いに来てくれると嬉しいです。


「今日、ヒマだし行くかぁ……どーせ明日までお手伝いさんいるっていうし」俺は体を起こし、口笛を吹いた。

たぶん、ばあちゃんの畑はそれほど広くないから5匹くらいで足りるだろ


窓辺にいた3匹と借宿を出たところにいた2匹を連れ、アユムは実家のある村まで歩き始めた。道のりは険しくはなく、ものの2時間ほどでついてしまうような距離にある。


こうして2時間ほどかけた先に村に到着し、知らない間に仲間になっていたスライムだったため、名前をスラ1号、2号……5号と呼ぶことにした。知らない間にスライムが増えているのはよくあることだ。


「あらぁよく来たねぇ。手紙出して次の日に来るとは思わなかったよ」

「俺もばあちゃんちに来るなんて思わなかったよ」あらかたの挨拶を終えると早速仕事だとばあちゃんは村の外れにある畑を紹介し始めた。

荒れ果てているわけではないが、前の作物の種や取り残した苗が成長し、手入れの入っていない畑に見えた。しかし何より気になるところがある。

「なぁばあちゃん。ここって確か、タカヤマの家があったところだよね?どうしちゃったの」

「死んだ。だから余った所を畑にしたんだよ」ああ。もう年だもんな。でもばあちゃんなんかあっさりしすぎじゃない?


「とりあえず草でも食っとけスライムたち」それぞれスライムたちに草抜きを命令したのちに俺は実家の倉庫から鍬と牛で引っ張る唐鋤を持ってきて、手の空いたスライムたちに命令をし畑を耕し始める。

「あれまぁアユム。スライムの扱いうまくなったねぇ。あのもんすたー?ぶりだいこん?とまと?から帰ってきたときは大違い」

「あはは。まぁあの時の比べれば多少なりとも。ばあちゃん。このくらいでいいの?」スライムが土混じりで若干濁ったころには畑は見違えるほど綺麗になった。


「じゃあ。苗植えをやってもらうかな」スライム込みの作業量を想定されてか、畑全部の苗植えをお願いされた。スライムは抜いたり食べたりするのは得意だが、食い物を手放すことはかなり難しい。

こういう草木は一応スライムも日光が悪かったりすると草木を食べ始めるので、こういう草木は植えられない。渡した瞬間から即体の中に入れるであろう。


「仕方ない。さっきまで頼りっきりだったからな」俺は懐かしの苗植え作業を始めた。時間がかかるが、ヒマな日にはもってこいだ。

スライムたちも疲れたのか、井戸の中に飛び込んでは、体の中の泥を吐き出している。こうして苗を植えいるとあの頃のことを思い出す。初めてスライムが使えるようになったころを



その時はまだ、小さくよく母さんの後を歩いていた。ある日、今でも覚えている。母さんとはぐれた日に一匹のスライムが俺を家まで送り届けてくれたこと。あの時はスライムが何者なのか、そもそも魔獣の魔の字も知らなかった。

だから後から知ってびっくりした。スライムが悪い奴で、魔王の手下だったということを。


その後も何度かスライムに助けられたり、時には助けたりもした。そんなある日のこと、特に仲良しになった青いスライムにアオと名付けた日。スライムのことが徐々に分かり始めてきた。

次第に声にも反応を示すようになり、気が付くと俺はスライム使いになっていた。初めて村を出て、志した魔獣使いの試験でスライムは基本的に、いや絶対に使役できないことを知らされびっくりした。

その後、なんかやんやあり、モンスターブリダーズトーナメントに出場することが決まり、1回戦でイオのピューイにぼろくそに負け、実家の村にとんぼ返りをし、なんやかんやで町に戻り、ハンスさんの元でお世話になっている。

ちなみにハンスさんは昔は凄腕の冒険者らしく、お弟子さんもたくさん抱えているのだという。その多くが魔王城付近の探索を命じられている者ばかりで、指南金だけで遊んで暮らせるほどのお金をハンスさんは持っている。


「そういや、冒険者らしいこと何もしてない」そうだ。苗を植えるのではなく、魔獣使いとして冒険者として依頼の一つでもこなせば良かった。何やってんだろうな。

「でもやらないと思いつかなかったことだしな」そう言い、せっかく綺麗になったスライムを土のある畑へ戻し、穴掘りを命令させた。


それからというもの、5匹のスライムが体が汚れると代わる代わりに畑に穴をあけ、日暮れ前には終えることができた。

「ありがとぉね。せっかくだし泊まっていきなさい。料理も作ったから」

久しぶりに実家の温かさを感じたスライム使いであった。


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