第3話 スライム使いと変態とドラゴン


「と、こんな感じか?」俺は書き留めた日誌を流し見し、辺りを見渡した。万が一スライムが人を襲っていたら俺のせいにされる。それが野生でもだ。

「だがスライムに襲われるとか子供でもないぞ?いやスライムを見たことなくて感触が無理でパニックなったらあり得るのか?」

いやそんな世間知らずが居たら見てみたい……。だが気になった。今日はなぜか胸の奥が騒いでいた。


その予感は当たっていた。帰りの途中にスライムが妙に集まっていた。

「お前たち!止まれ!」その中に人影が見え叫んだ。大抵のスライムはこれに従う。従わない奴はもれなく野生種となる。幸いなことに野生種は1匹も居なかったようだ。


「ちっよ!?」だがスライムが居なくなると目を覆うような光景がそこへ広がっていた。

「な、何してんの?えーとイオさん?」赤く頬を染める美少女。白銀のショートヘヤーがほどよくスライムの体液で汚れ、妙に色っぽい。

体の衣服は少し溶けており、スライムの消化液で火傷していると思われる肌はどこまでも白く透き通るほど綺麗であった。


「ん?……せっかく楽しんでたのに興醒め」

すぐに立ち上がる。同じ魔獣使いのイオさん。その目は綺麗な青い眼をしており、別名サファイヤ使いとも呼ばれている。

「戻ってきていいよ」サファイヤ使いと呼ばれる理由は瞳だけでなく、イオさんの使役する魔獣に関わっている。


風が体を包み込む。空に影がかかるとそいつは現れた。白銀というよりは白金。その姿は美しいと言いようがない。いやそれでも余る。

空が反射し青色に写り、どこまでも美しい。


そのドラゴンの名は

「よく戻ってきたねピューイ」

ピューイ。プラチナドラゴンの最後の生き残りでモンスターブリダーズトーナメントで優勝の美を飾った。最強の魔獣とその使いである。


いや、そのことは今はいい。

スライムに悶えるイオさん?それとも戯れて?いた?どちらにせよ眼福ものであったが1番気になるのは


「怪我とかない?嫌だからな後から傷ができた責任とか言われても」

「スライムの消化液如きで、溶ける皮膚(うろこ)じゃない」

「え?鱗?ききまち---」

「わすれて、じゃなきゃ殺す」

俺は無言でうなづきイオさんの言葉を待った。やがてピューイを数回撫でた後にピューイを何処かへやった


「まだ足りないみたい」そう言うと近くにいたスライムを持ち上げると体へと張り付けた

「ちょっと?!?!何やっての?それ俺の仲間なんだけど??」

「ん?だから?こうするとひんやりして気持ちいいそれに、体も」そう言うととてもじゃないが言葉で言い表せない妙なムードのある、そのなんと言うか、お昼タイムには考えられないそれも野外それも、お、俺の前でイオさんはな、何かをし始めた。思わず顔を背ける


「気持ちいい」

「ちょっと?!?前にスライム貸してって言った時あったけど、そう言うこと?そう言うことなんだろ!!」

「うるさい。黙って」

「なにいっ!?!?」空に影が通ったと思った瞬間、俺の体は宙に浮き、白金の尾に巻かれ空を飛んでいた。


「この御無礼、お許しください」

空なのに声がした。


「あの聞こえていますよね?」

「まさかピューイか?」

「はいそうです。イオ様のペットのピューイです」

ペットだとかなんで喋っているのか聞きたかったが、それを聞く前にピューイは喋り始める

「姫様……じゃなかったイオ様のお遊びに貴方様のスライムを使ってしまい申し訳ありません」

なんだかもう一つ気になる単語が聞こえたが聞こえないフリをしておこう。きっとロクな目に合わない、さっきのイオさんだって皮膚を鱗って言ってたような気が

「どうかしましたか?」

「い、いや!何でもないが……ひとまず降ろしてもらえるか?」

「あ、はい!」空からぽっかり空いた森の草原に降り立つと尾をほどき地上へと返し、再度話を始めた。

「いや、別にスライムは沢山いるから少しはいいけど、何か起きても姫様?イオさんの責任は取らないから」

「はい。ドラゴニア王国の名にかけて……じゃなかったチャンピオンとしてスライムの消化液如きで文句は言いません」

なんかこのドラゴン、知らない情報ばかり話すのだが?しかし消化液如きって、仲間の俺ですら消化液浴びたら火傷して数日痛むと言うのに……如きってか


だがいい機会かもしれない。数ヶ月前にやってきてモンスターブリダーズトーナメントで最小年齢でチャンピオンを取ったイオのことでも聞いてみるか、イオの情報なんてスライムを借りにくる変人か変態か謎多い美少女くらい


「なんでイオさんはスライムなんかに?」

「そ、それはですね。ひ…イオ様の趣味というか被虐体質というか……あ、ごめんなさい。今さっき言ったこと忘れてください」

「で?未だにスライム数匹返してもらって無いのだけど」

「あ、それはわたくしが……ごめんさい」

なんで謝った?!まさか食べた?

「食べたのか?」

「い、いえとんでもない。返してこいって言われてその……まま」なんだこのドラゴン?


いらん情報ばかり話してメンドくさがりときたもんだ。ドラゴンと初めて会話したがみんなこんな感じなのか


「あはは、ダメですよね同族にもよく言われます。ドラゴン族としてなってないだとか」

おい、今度は泣き始めたぞ?!やばい面倒臭いというかやばい感じがしてきた。

「じゃあ、スライムだけ返してもらえれば、まだ仕事中だし」俺はゆっくり後退りしていく、このドラゴンなにかやばい。俺の危険信号が何倍も逃げろと色濃く宣告してる。


「そ、そんな。はい。久しぶりに姫様以外と話せたので……もう少し話しませんか」

おっと……俺は腐っても魔獣使い。ある程度の知識は持っている。ドラゴンの背鱗が立っているということは、明らかに不機嫌ってこと。それも逆鱗に触れたのだと怒るようなもの


「いやー予定は明日までだし、イオさんが終わるまで話してようかなー」

「そうなんですかぁ!!」満面の笑みを浮かべ背鱗が下がっていく、この後、夜まで続いたイオに関する情報とドラゴニア国と呼ばれる情報が隅なく脳裏に叩き込まれた。

簡単に言うとイオとピューイはドラゴニア王国を追い出された姫様とその近衛兵らしい。


なんだかそのことも納得したスライム使いなのであった。

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