第18話
「ふぅ……なんとかなったねぇ!」
私は笑顔でアメちゃんに言う。
ブレイブたちが遭遇する前に、アダマンビートルを倒せることができた。
それなのに、何故だかアメちゃんは浮かない顔だ。
目線は私を通り過ぎ、アダマンビートルの死骸を通り過ぎ、さらに向こうを見つめている。
「アメちゃん? 何を見てるの……⁉︎」
私も気になってアメちゃんの目線の方に目を向けると、なんとブレイブたちが姿を現した。
三人はまだ私たちにきづいていないようだけれど、その顔には驚きと困惑の表情が見える。
「わ、わ! アメちゃん! 隠れて‼︎」
「アリシアよ。ブレイブというのはあの者であろう? 【導きの灯火】繋がっておる。言葉が悪いが……あんな者のために我の誘いを断ったのか?」
よく見れば、私とブレイブの額に光が一直線に繋がっていた。
ブレイブたちは気にした様子がないから、どうやら見えるのは私たちだけみたいだ。
「あんな者ってどういうこと⁉︎ ブレイブたちは凄いんだからね!」
「まぁ、まぁ。そう叫ぶな。それにしても、何をしているのだ? せっかく会えたのだから、早く向こうへ行こうではないか」
「違うの! 私は、ブレイブたちを助けないといけないんだけど、でも、バレちゃダメなの‼︎」
「……よく分からんが、とにかくバレてはいかんのだな? それならば、この惨状をどう説明するつもりだ?」
アメちゃんはそう言いながら周囲を鼻先で示す。
もともとアダマンビートルの周囲は荒地になっていたけれど、今は私の攻撃やアダマンビートルの甲殻の石つぶてのせいでひどい有り様になっていた。
「とにかく! どこかに隠れましょう! このままじゃ、ブレイブたちに見つかっちゃう‼︎」
私はもう一度叫んで、隠れられる場所を探した。
しかし、近くには身体を隠せるような木々など生えてない。
「そうだ! これの後ろに隠れればいいじゃない! アメちゃんはさっきみたいに小さくなってね! さ! 早く‼︎」
私はアダマンビートルから少し離れた場所に移動して、そこの地面に破城槌を突き刺した。
ちょうどゲッティンゲンの広場にあったように、柱が一本生えたように見える。
私は、その後ろに身を隠し、ブレイブたちの行動を覗くことにした。
そうこうしているうちにブレイブたちは死骸となったアダマンビートルのところまでやってきた。
何か三人で話しているようだけれど、残念ながらここからは遠くて聞こえない。
だけど、久しぶりな気がする三人の顔を見て、私は自然と笑みをこぼしていた。
☆
一方、その頃ブレイブたちは――
「おいおい。まじでどうなってんだ? 今回の討伐対象ってこいつだろ?」
戦士ファイが驚いた顔をして、仲間である勇者ブレイブと魔導士ザートにそう言った。
言われた二人も回答に困ったのか、すぐには返事が出ない様子だ。
「甲殻がかなり剥がれているが、それよりも背中から腹にかけて空いてる大穴が恐ろしいな。どうやったらこんな穴開けられるんだ?」
アダマンビートルの上に登ったブレイブが、アダマンビートルの体を貫いた大穴を見ながらそう言う。
それに呼応するようにザードもアダマンビートルの死骸に手を触れながら、まるでも物珍しそうな物を見るような顔で声を出した。
「この雷系の攻撃も相当なものですね……一般的な魔導士なら、一体何人で多重詠唱すればこんな威力になるのか想像もつきません。僕でも一人じゃ絶対に無理でしょうね」
ブレイブとザードの話を聞いたファイが大袈裟な身振りをする。
「ブレイブでも不可解な物理攻撃、ザードでも不可能な魔法攻撃。この魔獣を倒した奴は、その両方をやったってわけか?」
「奴って言い方は正しくないでしょうね。これを一人でやったとは到底思えません。少なくとも……十人くらいはいたんだと思います」
自分の持つ知識を総動員して、ザードはこれだけの戦果を作るに必要な人員の数を口にした。
実際には一人と一匹、ほぼアリシア一人の戦果なのだが、この時の三人には知る由もなかった。
「それで? その十人とやらはどこにいっちまったんだ? さっきの音は聞いてただろ? 間違いなくついさっきまでここで戦ってたはずだぞ?」
「ファイの言う通りだな。どう言う目的で倒したにしろ、倒した魔獣を置き去りにして、全員が姿を隠すとは考えにくい」
三人は目の前にある不可思議な出来事に、首を捻るばかりだった。
この時、三人の少し離れたところには、その場に似つかわしくない、巨大な金属の柱が一本立っていた。
しかし、誰のその存在に気づくものはいない。
アメちゃんことアメトリフが、アリシアのバレてはいけないと言う言葉を受けて、幻影を作り上げてたのがその理由だ。
アメトリフは説明しても仕方がないと思っていたので、アリシアに詳細を説明しなかった。
そのため、アリシアは一人、自分が姿を隠すのに便利な物を見つけたと、内心ほくそ笑んでいたりする。
☆
「あ! 三人が離れていくよ! 良かったぁ。もう少し遅かったら、ブレイブたちが怪我しちゃうところだったね! まぁ、怪我しても私が治しちゃうんだけど」
色々とアダマンビートルのことを調べていたみたいだけど、ようやく三人は元来た道の方角へと戻っていった。
私はバレずに済んだことと、ブレイブたちの役に立てたことを一人喜んでいた。
そんな中、アメちゃんが聞くまでもない質問を言ってきた。
「それで? ブレイブとやらは行ってしまったが、これからどうするのだ?」
「決まってるじゃない。このまま、三人の後をつけて、バレないようにこっそりと、今回みたいに手伝いをするのよ! それと! どこかで私に巻物を売りつけた商人を見つけたら、幼女から元の姿に戻る方法を聞いてやるんだから!」
「元の姿にだと? どう言うことだ?」
「だから! 素敵な大人だった私の身体を、こんなちっちゃな身体にされちゃったのよ! まぁ、小さくても私は可愛んだけどね」
とびっきりのウィンクを投げるが、何故かアメちゃんはそれを無視した。
「ちょっと待て……分かったぞ。元はもう少し歳を取っていたと言うのは本当のようだな。精神年齢は変わらぬはずなのだが……」
「え⁉︎ 何なに? アメちゃんなんか知ってるの⁉︎」
アメちゃんはなんだか含みのある言い方をしたけれど、今はもっと気になることを知っているみたいなので、置いておこう。
「おそらくだが……アリシアをその身体にしたのは、主神様の化身だろうな。強靭な肉体を与え、そのものに最も相応しいとされる年齢にする秘法だと思うのだが……」
「だが……?」
「我が知っている限り、過去に同じような秘法を使った者は何人かいた。人だけでなく、神も含めてな。だが、全員が最も
「つまり?」
「つまり……アリシアは大人だった姿よりも、その幼女のような姿が
「ちょっと! どう言うこと⁉︎」
誰に憤ればいいのか分からないけれど、なんだかバカにされたような気がして私は叫んだ。
ただ、この身体になった原因の糸口が分かったのなら、直す方法も分かるかもしれない!
「ねぇねぇ、アメちゃん。元の身体に戻る方法ってないのかな?」
「うーむ。確実なのは主神様もしくはそれに相当する者に願うことだが、簡単にはいかぬだろうな」
「なんで?」
「主神様も何か目的があってアリシアにその秘法を与えたのであろう。ならば、その目的を達成するまでは、戻れないかもしれぬ」
つまり、どういうことを望まれているか分からないけれど、主神セルシウスの御心に沿わなければ、戻れないということらしい。
どうすればいいのか分からない以上、それを目的にして旅をするわけにはいかない。
ということは、ひとまず予定通りブレイブたちの手助けをしつつ、その行動の何かが運よく目的達成に至ることを祈るしかない。
あとは、毎日慈母神マーネスに祈りを捧げる際に、元の姿に戻れるよう願ってみることにしよう。
「よーし! 少し分かったこともあったし! 私の当面の目的は変わらず‼︎ バレないように、ブレイブたちの手助けをする旅を続けるよ! アメちゃんもついてきてくれるんだよね?」
「ああ。我はアリシアを主と誓った。汝の生が潰えるまで、我はアリシアと共にゆこう」
こうして、私たちは、バレないようにブレイブたちの後をこっそり追うことにした。
この後、ブレイブたちの危機を何度も救ったり、ブレイブたちとは関係ない人たちを助けたり、実はブレイブたちに私のことがバレてたり、とにかくたくさんの出来事があった。
だけど、それは今はまだ先の話だ。
この時の私は、間接的にだけれど、またブレイブたちと旅を続けることができることの嬉しさに満ち溢れていた。
☆☆☆
「さぁ、この話はお終いよ。もう寝なさい」
「えー。ママー。この後、アリシアたちはどうなったの?」
私はベッドに横になった娘の頭を優しく撫でる。
「さぁ……どうなったのかしら。それにしても、マリーはこのお話本当に好きねぇ」
「うん! だって、お話に出てくる人、みーんな知ってる人と同じ名前なんだもん! パパやママ。あと、おじさんたちも‼︎ あ! アメちゃんも‼︎」
「ふふ……そうねぇ。さ、良い子だから。今日はもうお休み」
「うん! おやすみなさい。ママ。今日も楽しいお話聞かせてくれてありがとう……」
私は娘のおでこにキスをして、灯を消してから部屋を出た。
最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜 黄舞@9/5新作発売 @koubu
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