第17話
「どのくらい飛べるだと? どういう意味だ?」
「だから、どのくらい高く飛べる? ちょっとお願いしたいことがあるの」
「よく分からんが、逃げ出すなら、別に地を駆けても問題ないぞ。言ったであろう? アダマンビートルは動きが遅いと。我の速さに到底追いつくことなどできん」
「だーかーらー! そうじゃなくて‼︎ どれだけ高く飛べるか知りたいの‼︎」
私はその場で地団駄を踏む。
アメちゃんはおろおろとしている。
「わ、わ! すまん! どれだけ高く飛べるか知りたいんだな! 鳥が飛ぶ高さくらいなら、訳ないぞ‼︎」
「ほんと⁉︎ じゃあ、ちょっと乗せてね。いいよ‼︎ アメちゃん、思いっきり飛んで‼︎」
私はさっきのようにアメちゃんに跨り叫ぶ。
その瞬間、アメちゃんの身体が元の大きさに戻り、一度低く屈んでから、弾けるような速さで空へと飛んだ。
「わぁ! 凄い、凄い! 高いねぇ! 気持ちいいねぇ‼︎」
「アリシアよ! 飛んだはいいが、なんのために飛んだのだ?」
「え? そりゃもちろん……あ! いっけない! アダマンビートルの真上に飛ばないと意味ないのに‼︎ アメちゃん! ごめん‼︎」
「ぐふぇ⁉︎」
私はアメちゃんの背中から、頭、そして鼻先まで移動すると、思いっきり鼻先からアダマンビートルに向かって飛んだ。
反動でアメちゃんの呻き声が聞こえた気もするけど、アメちゃんきっと許してくれるよね!
「てぇーい‼︎」
目指すはアダマンビートルの上空。
そこから直線に落下していく私。
ザードが言うには、落ちるものは落ちる高さが高いほど、地面に着く時に速くなるらしい。
いつ聞いたかも覚えてないけど、ちゃんと覚えてた私偉い‼︎
背の高い木々の遥か上、アメちゃんの言う通り、鳥と同じ高さまで飛び上がった私は、アダマンビートルに向かって勢いよく落ちていく。
速度が増したせいか、身体に受ける風が強くなってきた。
「気持ちいー! あ! こうやるともっと速くなるみたい‼︎」
破城槌の先端を落ちる方向に向けると、途中からなかなか上がらなかった速度がもっと速くなるように感じた。
ちょうどこのままアダマンビートルに攻撃できるしちょうどいい。
「いっけー‼︎」
さっきのアメちゃんの走る速さとどっちが速いか分からないくらい速度をつけた私の身体は、アダマンビートルの背中に破城槌ごと突き刺さる。
衝撃にびっくりして、思わず破城槌から手を離しそうになったけれど、ちゃんと握っていた。
「アリシア‼︎ 危険だ! すぐにそこから離れろ‼︎」
アメちゃんの叫び声に私は、考えるより先に、アダマンビートルの体を貫き、地面に突き刺さった破城槌を引き抜く。
アダマンビートルの腹と地面の隙間を駆け抜け、アダマンビートルの体の外へと飛び出した。
私が再び暗いアダマンビートルの体の下から、日の下へと出た瞬間。
アダマンビートルは地響きと大量の土埃を出しながら、地面に落ちた。
「やったぁ! やっつけたね‼︎ これでもう、ブレイブが来ても安心だよね! ね、アメちゃん!」
私がアメちゃんの方に身体を向け、笑顔でそう言った矢先、アメちゃんが真剣な顔で私に叫んだ。
「まだだ! アリシア‼︎ 構えろ‼︎ 来るぞ‼︎」
「え?」
アメちゃんの目線は私を通り過ぎ、後に向いていた。
私は何事かと、再び後を振り向いた。
その瞬間。
アダマンビートルの体が細かく振動し、耳障りな高音が耳を叩いた。
私は思わず両手で耳を塞いだ。
すると、アダマンビートルの甲殻に無数の亀裂が走り、一斉に弾け飛ぶ。
もともとびっくりするくらい硬い甲殻が、投石機で打ち出したような速度で飛んでくる。
私は慌てて手放してしまっていた破城槌を拾い上げ、身体の前に起き、それを防ぐ。
「きゃあああ! なによこれぇ‼︎ 死んだんじゃないのぉ⁉︎」
「グゥゥ! 分からん! これではアリシアを救いに近づくことができん!」
アメちゃんも自分の身体を守るのが精一杯で、その場から動けなさそうだ。
いつまで続くか分からない巨大な石つぶてに、私はこうしているのが面倒になった。
「えーい! いつまで飛ばしてるつもりよ! この死に損ない‼︎ あんまりチンタラやってたら、ブレイブたちが来ちゃうでしょ‼︎」
私は破城槌を両手に抱えると、そのまま突進した。
飛んでくるアダマンビートルの欠片の多くは、破城槌に弾かれていく。
それでもいくつもの欠片が私の身体に小さな傷を作っていくけれど、この際そんなのは無視だ。
そもそも怪我なんて、後で治せるしね!
私はアダマンビートルの甲殻が所々なくなった部分を狙って、破城槌を突きつける。
「喰らえー‼︎」
私が叫ぶと、破城槌に刻まれていた文字が輝き、突然巨大な雷にうたれたような閃光が起きた。
「わ! 何これ⁉︎」
さっきとは違った痙攣のような動きをした後、アダマンビートルは今度こそ動くのを止めた。
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