第16話

 私はアメちゃんの背中に跨ってみた。

 短い脚がちょっとだけ浮かんでいるけれど、乗り物というには心もとない。


 ちょっと見た目にもシュールなんだけど、この格好でいいのかな?

 そう思ってたら、私の乗っている乗り物、つまりアメちゃんの身体が徐々に大きくなっていった。


「わー! 高ーい‼︎ 凄ーい‼︎」


 大きさはさっきの大きさと元の大きさのちょうど中間くらい。

 それでも視界がずいぶん高くなり、私は興奮する。


「移動中は結界を我の周りに作るから、適当に毛に掴まっているだけで良いぞ。では……いくぞ!」

「わ、わ! 速い! 速い‼︎」


 ビュンビュン景色が流れていく。

 馬に乗ったこともあるけれど――ブレイブと一緒にだけど――それよりももっと速い。


 しかもアメちゃんが作ってくれた結界のおかげか、一切の風圧も揺れも感じず、乗り心地も格別だ。

 馬車や馬は歩くよりも速いけれど、お尻が痛くなっちゃうからね。


「もうすぐ着くぞ」

「え⁉︎ もう?」


 走り始めてからそんなに経った気がしない。

 ちょっとだけ忘れてしまっていたけれど、やっぱりアメちゃんは神獣なんだな。


「あ! あの黒くてでっかい虫みたいなのがアダマンビートル⁉︎」


 私の目線の先には、六本足の黒い甲殻を背負った巨大な昆虫がいた。

 頭の先には先端が二つに枝分かれした、立派な角がある。


 大きさは小さな家くらいあるだろうか。

 確かにこんな大きさな虫の甲殻なんて、相当丈夫に違いない。


「そうだ。動きは遅いが、とにかく甲殻が硬い。あの角も厄介だ。甲殻と同等の硬さを持ち、首を振る速度だけは素早いからな」

「うーん。あんなのブレイブたちだけじゃ、倒すの難しそう! えっと、まだ距離があるのかな?」


 私の額からは未だにブレイブたちがいる方角を指し示す光の線が出ている。

 その光は、アダマンビートルを貫き、さらに向こう側へと伸びていた。


「光の太さと強さで大体の距離も分かるぞ。その光だと、戦いの激しさによるが、気付かれる近さにはいそうだな」

「え⁉︎ それはまずい! さっさと倒して、隠れないと‼︎」


 そこで私は重要な問題に気がついた。

 重くて大きくて邪魔だという理由で、破城槌を小さくしてしまったのだけれど、戻し方が分からない。


 バイソーの時以上に、相手は大きいので、破城槌がなければ、攻撃が届かない。

 困っていると、アメちゃんが救いの手を差し伸べてくれた。


「どうしたのだ? 戦うならハノーファーがひつようであろう? まさかを元に戻さずに素手のまま戦う気か? その小さな身体で?」

「それがね……小さくしたのはいいんだけど、戻し方が分からないのよねぇ……」


「何? 小さくした時はどうやったのだ?」

「えーっと、うーんと。確か……小さくなれ! って言ってみたんだけど、何も起こらなくて……あ! その後、慈母神様にお祈りしたら突然小さくなった!」


 アメちゃんの言葉でさっきの出来事を思い出す。

 人に言われて話しながらだと、忘れちゃったことを思い出せること、あるよね!


 そうと分かれば、私は髪飾りを外し、右手に持つと、元の大きさに戻れと願いながら、慈母神マーネスに祈りを捧げた。

 すると、みるみるうちに手に重さを感じ、髪飾りが破城槌の大きさに戻った。


「やった! アメちゃんありがとう! これで戦えるよ! アメちゃん、私を降ろして‼︎」

「一人で行くというのか? 無謀だぞ! 如何なハノーファーといえど、アダマンビートルの甲殻を破るのは容易ではない‼︎」


「そんなのやってみないと分からないでしょ! それに、アメちゃんの上から破城槌で攻撃できるほど、私器用じゃないもの。それなら、自分の身体だけの方が信頼できる!」

「そうか……分かった。降りやすいように小さくなろう」


 アメちゃんがさっきの子犬の大きさまで小さくなってくれたので、私は地面に足を下ろし、破城槌をアダマンビートルに向かって突きつけた。

 それに呼応するように、アダマンビートルが、身体ごと私の方へと向きを変えた。


 かなりの重量があるのか、アダマンビートルが動くたびに、大きな音とともに土埃が舞う。

 私はバイソーのように、破城槌を突き出したまま、アダマンビートルに突進した。


 ガ、キーン‼︎


 硬い金属がぶつかり合うような音がして、私の小さな身体は弾き飛ばされてしまった。

 慌てて体制を整えアダマンビートルの方を見ると、傷がついているものの、アダマンビートルは平気そうな顔をしている。


「それは無謀だ。アリシアよ。重さが違いすぎる。もっと速度があればなんとかなるだろうが……」

「速度か……うーん」


「昆虫は甲殻は硬いが、腹部は柔らかいと聞く。どうにかしてひっくり返すことができれば、なんとかなるかもしれんな」


 アメちゃんがなんだかごちゃごちゃ言っているけど、ひとまず置いておいて。

 私は速度を今より出す方法を考えていた。


 確か、ザードが昔なんか言ってた気がするんだけど……

 そうだ‼︎


「ねぇ! アメちゃん! アメちゃんって、どのくらい高く飛べる⁉︎」

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