第15話
「で、アリシアはどこに向かいたいのだ? そのブレイブという者たちが何処にいるのか、分かっているのか?」
思う存分アメちゃんをもふもふした後で私が離れると、アメちゃんそう聞いてきた。
ブレイブが向かった先はトホクなのは分かっているけれど、肝心のトホクの方向が分からない。
うまく説明できるか分からないけれど、とりあえずアメちゃんに今起きたことをありまま話してみよう。
もしかしたら神獣の力でなんとかしてくれるかもしれない。
「えーとね……あ、話し方は今のままでいいよね? 神獣様に話すにはもっと丁寧な言葉遣いがいいんだろうけど、私そういうの苦手で」
「構わんぞ。アリシアは我が主。気兼ねなく、思った通りの話し方にしてくれ。それで? 迷ったとはどういうことだ?」
「うん。ありがとう! ブレイブたちは受けた討伐依頼を達成するために、トホクっていう街に向かったんだけれど。私もそのトホクに向かう途中で、気づいたらここにいたのよね」
「トホク? すまんが、人間の作った街の名前は記憶していないのでな。その方角が何処にあるのかは我にも分からん。しかし、案ずるな。アリシアよ。ブレイブという者のことを頭の中でできるだけ明確に思い浮かべてみよ」
ブレイブのことを思い浮かべる?
私はつい最近別れたばかりのパーティのリーダーのことを頭の中に描いてみた。
頭の中には、純白の武具を身にまとった、金髪碧眼の美男子が笑顔でこちらを向いている。
すると、私の頭、額のあたりから一本の細い光の線が真っ直ぐに伸びた。
私は驚いて声をあげる。
「わ、わ⁉︎ 何これ⁉︎」
「それは我の神力、【導きの灯火】だ。我が認めた者が望む方角を違わず指し示す。その光の線の方向に、アリシアの言うブレイブという者がいるぞ」
アメちゃんはなんともない風に、そう言い放った。
だけど、この力の凄さに私は後々気づくことになる。
「わぁ! じゃあ、こっちの方角にブレイブたちがいるトホクがあるんだね! あれ? ちょっと線が動いているように見えるけど……」
「おそらく、ブレイブというものがそれなりの速さで移動しているのだろうな。その光はトホクの街を指し示すのではなく、ブレイブそのものの位置をしめしている。移動すれば、当然方角も変わる。しかし……これだけはっきりと方角が変化しているということは、よほど速く移動しているか、もしくは距離が近いということになるな」
どうやら、迷ったと思っていたけれど、そんなに変なところに来ていたわけではないらしい。
私は少しだけ安心した。
「それじゃあ、すぐにでもブレイブのところへ向かいましょう。あ! そうだ。近づいて欲しいんだけど、遭遇しちゃダメだからね。私がブレイブの後を追っていたり、手助けしようとしていたりするのは秘密なんだから」
「なんだと? 本当に訳が分からないことが多いな。アリシアとブレイブというものの関係は。しかし、アリシアがそういうなら、気づかれない距離までで近づくのをやめるは問題ない」
「あ……でもアメちゃん凄く大きいじゃない? 結構離れないと、すぐにバレちゃうんじゃないかな?」
「うん? 大きさなど、どうとでもなる。ほれ。これなら問題はあるまい?」
アメちゃんがそう言うと、突然目の前からアメちゃんが姿を消した。
「どこを見ている。こっちだ、こっち」
「え? ……きゃー‼︎ 何これ⁉︎ 凄く可愛いー‼︎」
声のした方、地面に目線を下げると、そこには子犬の大きさに縮んだアメちゃんがいた。
あまりの可愛さに、私は抱きかかえ、温かい腹部に向かって顔を埋める。
もふもふもふもふ……
「こ、こら! それはさっき、もう気が済んだのではなかったのか⁉︎」
「むー! もーきさあいがうからえつあらー‼︎(大きさが違うから別腹)」
あー気持ちよかった。
再びアメちゃんでもふもふしてご満悦の私は、さっきなんの話をしていたか思い出すのに、ちょっとだけ時間がかかってしまった。
その様子を見ていたアメちゃんが、何故か胡乱げな視線を私に投げかけてきていたけど、気にしないことにしよう。
「とにかく! ブレイブのいる場所が分かるなら問題ないね! あ、そういえば。聞くの忘れていたけど、アメちゃんはなんで怪我してたの?」
「おい……さっきから話が一向に進まんが、大丈夫か……? まぁいい。我の傷はな、この一帯に突如現れた、アダマンビートルという魔獣に付けられたのだ」
「アダマンビートル? 神獣様を瀕死にしちゃうような強い魔獣なの?」
「相性が悪くてな。我の持ち味は素早い動きと、鋭い牙や爪なのだが。アダマンビートルは動きが極端に遅い割に非常に硬いのだ。何度か攻撃を仕掛けてみたが、その硬い甲殻に阻まれて、致命傷を与えることができなかった」
アメちゃんがどの程度の神格を持つ神獣なのかは分からないけれど、少なくともそこらへんの魔獣や聖獣よりもずっと強いはずだ。
そんなアメちゃんが敵わなかったというのだから、アダマンビートルというのは、下手な群れの主よりもずっと厄介に違いない。
「それって、近くに居るの?」
「そうだな。運悪く、頭の先に付いた角の一撃で致命傷を受けてしまったため、避難したのだが……ちょうど、方角的には【導きの灯火】が指し示す辺りだな……」
「え⁉︎ 大変‼︎ もしかしたら、ブレイブたちがそんな危険な魔獣と遭遇しちゃうかもしれないじゃない! アメちゃん! 急ごう! ブレイブたちが
「ほう……口では興味がないと言っていたが……では、我の背に乗れ! 瞬きをする間に、アダマンビートルの元へと連れていこうぞ‼︎」
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