第14話
「な、なん!? そういうのはいいとはどういうことだ!? ブレイブとはなんだ!? 世界平定の役目よりも重要なことなどあるまい!?」
私の言い分に、明らかにうろたえる神獣。
あ、ちょっと可愛いかも。
来た時は脚を折り地面に伏せるように横たわっていたけれど、私のおかげで傷も癒え、元気も出たのか今は四本足で立ち上がっている。
正直見上げるほど大きい。
見た目は細面の純白の狼に近いだろうか。
毛は長く、よく見ると、光が反射して輝いている。
口先は長く、ズラリと生え揃っている鋭い牙が肉食獣を示す。
先ほどから喋る度に開かれ、今の私なら一噛みで口の中にすっぽり収まりそうだ。
そんな見た目の神獣が、口をパクパクさせ、必死の形相。
なんというか、おーよしよし! ってしたくなる。
「えーっと、ブレイブたちっていうのは私の仲間よ。その仲間を助けに行かなきゃならないの。だから、そのせかいへいてい? っていうのはできないわ!」
「仲間だと? 見たところ、汝はハノーファーを扱えるはずだ。ならばその肉体は強靭! さらに女神マーネスの申し子とも言えるその神聖力。これ以上何が必要だというのだ!」
神獣……っと、いつまでも神獣だと、めんどくさいわね。
名前はないのかしら。
「ところで神獣様。御名を教えてもらえるかしら?」
「なに? 我が真名を知りたいと申すか。よかろう! 我が名はアメトリフ!! 神を乗せる舟だ!」
さっきからなんなんだろう。
どう見ても舟なんかじゃない。
私も話にしか聞いたことがないけれど、舟っていうのは、海の上に浮かぶ大きな乗り物のはずだ。
一方アメトリフ……うーん、言いづらいからアメちゃんでいいかな?
アメちゃんは、どっからどう見ても獣。
生き物が舟ってどういうことなんだろう?
「ねぇねぇアメちゃん。さっきから言ってる、その神の乗る舟ってなんなの?」
「な!? なんだそのアメちゃんというのは! まさか我の名前じゃあるまいな?」
「そうだよー。アメトリフって長いし、可愛くないから、アメちゃん。ね! なんか、甘そうだし、良い呼び方でしょ?」
「ぐぬぬ……まぁ、真名を軽々しく呼ばれるよりマシだが、よりによってアメちゃん……」
なんだか釈然としていないみたいだけど、いい名前だと思うんだけどなぁ。
あ、そうだ。せっかくだからお近づきの印にカンロアメを一個あげちゃおう。
とっておきだからね!
「はい。アメちゃん。これあげる」
「なんだこれは?」
「カンロアメって言うんだよ。アメちゃんにはちょーっと小さすぎる気もするけど、甘くて美味しいんだから!」
「なるほど……食べ物か……ちょうどしばらく何も食べていなかったところだ。ありがたくいただこう……‼︎⁉︎」
アメちゃんは私の小さな手のひらから一粒のカンロアメを、器用に口先で受け取ると、そのまま口を空に向かって上げてから開き、口の中にカンロアメを落とした。
その瞬間、驚いた顔をしたのを私は見逃さなかったね。
「なんだこれは⁉︎ 大変美味だ! 口の中に甘さが広がって‼︎」
「そうでしょう、そうでしょう。なんてったって、とっておきだからね。貴重な一粒を印としてあげたんだから」
「なるほど……よほど貴重なものなのだな……今まで多くの供物を受け取ってきたが、これより美味いものはなかった。ならば、我もそれ相応の行動で報いろう。ブレイブという者の手助けをするのが汝の目的だと言ったな! 我はそれに同行しようぞ!」
「え? ほんと⁉︎ ありがとう! 正直、一人だと話し相手がいないから、独り言ばっかりでつまらなかったのよね」
なんと神獣であるアメちゃんが、私の旅に着いて来てくれるらしい。
話も問題なくできるみたいだし、とっても嬉しい。
あ……今更気づいたけど、勢いで神獣に無礼な言動とっちゃったな……
ま、いっか!
アメちゃんも気にしてないみたいだし。
「そうと決まれば、汝は今から我の主だ。我も名乗ったのだ。主の名を教えてくれ」
「あ、そういえば名前を聞いたのに、名乗ってなかったね。しっぱい、しっぱい。私の名前はアリシアだよ!」
「そうか。アリシア。今後は我が主を如何なる所へでも運ぼう。まさに大船に乗ったつもりでいてくれ!」
「うん! ありがとう! 早速なんだけど、私迷ってるんだけど‼︎」
私の言葉にアメちゃんは目を文字通り点にした。
なんだよう……道に迷ってたって、そんな顔することないでしょ。
「そ、そうか……だが、安心しろ。我がいるからにはもう迷うことなどない。行き先は分かっているのか?」
「ほんと⁉︎ やったね! アメちゃん大好き‼︎」
私はアメちゃんの前足に駆け寄り、毛並みの良い脚に身体ごと擦り寄せた。
お? 柔らかくて滑らかで……すっごく気持ちいい‼︎
すりすりすりすり……
「こ、こら‼︎ 何をしている⁉︎」
「え? アメちゃんの毛がすっごく気持ちいいなぁっと思って」
首を反らし顔だけ上を向けてアメちゃんの顔を見ると、なんだか知らないけれど、ずいぶん照れているような表情に見える。
私は、一度だけ首を傾げて、しばらくの間、温かく手触りのいいアメちゃんの毛の感触を堪能することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます