第11話
さてと!!
これでブレイブたちの怪我も無事に綺麗さっぱりなくなったことだし、これからどうしようかな。
というのも、やはりブレイブたちには私が必要なのは間違いない。
回復師がいないパーティは万が一の時危険だし、私より優秀な回復師、もとい聖者や聖女なんて簡単には見つからないからね。
えっへん。
ということで、ブレイブたちの手助けをするのは変更なし。
ただし、見つからないようにひっそりこっそり影から助けることにしよう。
うん。そうしよう。
「ふわぁ……なんだか色々やったからか、眠たくなってきちゃったなぁ……ぐぅ……」
身体をいっぱい動かしたことと、最後に町全体に及ぶちょっと規格外の大規模回復魔法を使ったせいで、私はちょっと休むつもりで目を閉じた……
☆
「はっ⁉︎」
「おや……戦神様。お目覚めになられましたか。失礼とは思いましたが、あのままでは椅子から転げ落ちそうでしたので、来賓用の寝室へと運ばせていただきました」
私は横になっていた身体をガバッと起こし、辺りを見渡す。
簡素だが、上品な作りの部屋の中にある、ベッドの上にいるようだ。
部屋には私の他に、テーブルの横に置かれた一対の椅子に座った女の子が一人。
女の子と言っても、今の私の見た目に比べれば十分に上。
机に置かれた毛糸と、女の子の手に持つ針棒や編みかけの生地を見れば、私が起きるのをここでずっと待っていたらしい。
「えーと、ここは……そういえば、町の名前も知らないわね……私を戦神って呼ぶってことは、まだ同じ町にいるってことよね?」
「はい。町の名前はゲッティンゲンと申します。戦神様が破城槌ハノーファーを引き抜かれた町でございます。気持ちよさそうに眠っていられましたが、ご機嫌はいかがですか?」
町の名前を聞いても、そもそも知らないのだから元いた町かは分からないけれど、ひとまず女の子の言うことを信用して良さそうだ。
「うん。スッキリ。どのくらい寝てたのかしら?」
「それは良かったです。戦神様が寝てらしたのを私が見つけたのは、夕方ですが、今は早朝ですね。時期に日が昇ります」
「え!? そんなにぐっすり寝ちゃってたの? ということはその間、あなた……えーと、名前はなんだっけ?」
「名乗り遅れて失礼しました。町長のモーブの娘、リリィと申します」
リリィと名乗った女の子を、私はもう一度まじまじと見つめた。
赤毛の少し癖にある髪は横で二つに束ねられている。
まだあどけなさを残す愛らしい茶色の瞳は、ひたすらに私に向けられていた。
町長のモーブと同じように、簡素だが、質の良さそうな乳白色のドレスを身にまとっていて、その佇まいかた育ちは良さそうだと分かる。
「リリィがずっとここで私が起きるまで待ってたの?」
「え? あ、何度か別の人に代わってもらいましたけど、基本は私が」
そういうリリィは何故か嬉しそうな顔をする。
交代したとは言っても、ほぼ徹夜なのだろうが、あまり疲れているようには見えない。
「戦神様の魔法なんですってね!? 昨日あの光を受けてから、身体に活力がみなぎってきて。一回の徹夜なんてどうってことありませんでした。それに……」
嬉しそうに話すメルは、何故かそこで言い淀んだ。
私は続きが気になって話を促す。
「それに?」
「え? あ、その……可愛らしい戦神様の寝顔をずっと見ていることができて、眼福でした!!」
なんだかリリィから、とてつもない圧力を感じる。
顔の紅潮もどんどん強くなっている気もする。
そういえば、ザードが前に、世の中には女性を好きになる女性というのもいるというような話をしていた。
なんか花の名前だった気がする……
私はリリィがそうじゃないことを祈りながら、思い出したブレイブたちのことを聞くことにした。
「そういえば、ブレイブたち……勇者たちはどうしたか知ってる?」
「勇者様ですか? 確か、昨日のうちに北へ向かったと思いますよ。なんでも、次の討伐依頼をすでに受けているのだとか」
「ええ⁉︎ もう出ちゃったの⁉︎ しかも次の討伐依頼って! 私知らない‼︎ どうしよう⁉︎」
「ど、どうしたんですか? 落ち着いてください。向かった先なら分かりますよ。北にある都市、トホクに向かう乗合馬車に乗っていましたから」
リリィできる子‼︎
それならば、私もすぐにトホクに向かわなければ。
「ありがとうリリィ。トホクに向かう乗合馬車に乗ればいいのね? って、ああ⁉︎ 私、手持ちが全くない!」
「え? 戦神様、何処かでお金を落とされてたんですか? それなら、父に言えば、少しくらいは融通できると思いますけど……」
「ほんと⁉︎ やった! じゃあ、ついでで悪いんだけど、トホク行きの馬車乗り場を教えてちょうだい!」
「いえ、それが……勇者様たちが昨日のうちに出発したのもそれが理由ですが、この町経由のトホク行きの馬車は祭り開催の時だけでして……」
なんてこと⁉︎
路銀は手に入れられそうだけど、まさかの歩き⁉︎
うぅ……やってやろうじゃないの。
超々強化された私の健脚を見せてやるわ!
私はリリィにお願いして、恥ずかしながら路銀をモーブに工面してもらい、トホクに繋がる道を教えてもらった。
どうやらゲッティンゲンに来る時みたいに一本道をただ進めばいいというわけではないらしい。
簡単な地図を描いてもらい、なくさないように大切に懐にしまう。
最後にリリィとモーブに挨拶をしてから、私はトホクに向かって歩き始めた。
「うん! リリィもモーブもとても良い人たちだったわ。この旅が終わったら、お礼をしにまた来なくちゃね!」
私は行きがけにモーブにもらったカンロアメの入った袋から、一粒取り出し口に放り込む。
甘い味が口いっぱいに広がり、笑顔の私は、これまでよりさらに短くなってしまった脚を、えっちらおっちら動かし、ブレイブたちの後を追った。
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