第4話 戦闘、そして悔恨
「やぁぁッ!!」
「どりゃァ!!」
『おっとォ。こわいねェまったく』
こっちを嘗めまくったような声をそのままに軽々と避けていくこいつ。
何度も何度も剣で攻撃相手に繰り出す。それに加えてルーヴェさんのハンマー攻撃もあるから、中々避けることは難しいはずだ。
なのにこいつはそれでも避けてくる。慌てるなんて様子も見せないで簡単に対処してくる。
『おいおいどうしたァ? そんなもんなのかァ?』
「はっ、当然これからさ!」
「おうよ! まだまだだぁ!」
──よし、マルムはこっちに気を取られてる。
避けられてることに正直驚いてるし、焦ってるところもあるんだけど、これは本命じゃない。もう一人の仲間であるリアンが、マルムの後ろに陣を構えて、巨大火炎魔法の準備をしている。
今まで、これで倒れなかった魔物はいなかった。だけど準備にひたすら時間がかかる。陣を構築して、詠唱を正しく読み上げ、さらに放つタイミングも大事なめちゃくちゃ難しい魔法らしいから、当然っちゃ当然なのかもしれない。
わたしたちはその時間稼ぎ。マルムがこっちだけに目をやっている時に全て終わらせて、こいつが気がついた時にはもう遅い状態にしてやるんだ。
目線をルーヴェさんにやりコンタクトを取る。それにニヤリと一瞬笑みを浮かべて応えてくれた。『わかってるさ』とでも言っているような目だった。
それだとしても、このまま雑にやりあっているだけだと、リアンのことに気付かれてしまうかもしれない。緩急を付けて、常にこっちに意識を向けて貰わないと。
だからここで、『技』を出すっ!!
「ルーヴェさん!」
「あいよっ!」
大きな声で呼び掛けて、合図を出す。その瞬間、ルーヴェさんが大振りの一撃を繰り出していく──
『ふっ、甘いねェ』
──が、避けられてしまった。
『想定済み』だ。
「レーナ嬢ちゃん! 決めなっ!」
「紫音流基ノ型───」
ルーヴェさんの攻撃を避けて来る位置を予測し、その場所に向かって───放つ!!
「『斬』ッ!!!」
紫音流。師匠の名前から取ったらしい師匠オリジナルの剣技。シンプルな名前と絶大な威力を誇る、わたしの一番得意な技。
型の美しさはまだ師匠のほうが凄いけど、その威力自体は今はわたしのほうが上だ。
だけど────
「(浅かったっ……)」
『っとォ……今のはヒヤッとしたなァ』
技自体は上手く繰り出せた。でも、本当にギリギリのところで少し避けられてしまった。
でも、これはあくまで時間稼ぎ。急いでルーヴェさんとマルムのいる場所から距離を取って叫ぶ。
「リアンッ!!」
「いきますッ!! 『グレイト・ファイア』ァァ!!!」
『!』
不意打ちのような形で撃たれたリアンの巨大火炎魔法。マルムもこれには怯んだかのような様子を見せている。
着弾。爆発音がなり、その場だけ燃え盛っていて、やつが存在してるとは思えない。
勝った。その場の全員がそれを感じ取っていた。
『──フッハハハ!……やるねェ!』
……平然とやつが出てくるまでは。
「な、なんで……」
『いやァ、いい作戦だったぜェ? 前衛の二人で気を引き付け、後衛の魔法使いが後ろで大型魔法を構えて発射……悪くはないんだが』
びっと指をいきなりこちらに向けら告げられる。
『まず、そこの剣を持ってるやつだァ。動きは悪くねェ。だが練度が低い。普段から鍛練をしてねェ証拠だァ』
「!」
『次にそこの魔法使い。魔力濃度が足りてねェ。もっと練ってれば、もっとダメージを与えられたかもしれねェなァ?』
「っ……」
『最後にそこのじいさん。あんたは今回サポートに徹してたから特に言うことは無ェ。上手くサポートしてたしなァ。次は「本気」でかかってきてくれよォ?』
「……」
謎の上から目線のアドバイスのしていきやがるマルム。……なんで、こんなアドバイスしてくるの?
『フッフッフ……いやァ、お前らは伸び代がある。それに免じて今日のところは退散してやるよ。んじゃ、また会おうかァ。スィーユー』
「っ! 待て──」
急いでマルムを捕まえようと駆け寄るけど、いきなり粉みたいになって散って消えてしまった。
「……消えちゃいましたね……」
「………」
戦闘は終わった。そのはずなのに、剣を握る手の力は強くなっていく。
「……おい! レーナ嬢ちゃん、リアン嬢ちゃん、見な!」
「…?」
「なんですか…?」
言われた方を見ると、物陰からご老人……いや、町長さんがこっちを覗いていた。
「あー! 町長さん生きてるー!」
「失礼じゃなレーナ。ピンピンしとるわい」
「あの、町長さん。町の皆さんは……」
「おぉリアン、よくぞ無事で戻ったのぉ。安心せい、皆避難しててここにはおらんが、ちゃんと生き残ってるぞ」
「町長さんわたしとリアンとで態度違くない??」
「普段の行いを見直してから言うんじゃなぁ」
ここでオホンと咳払いを入れ、町長さんは真剣な目になって言った。その目に飲まれてわたしたちも切り替える。
「さて……レーナ、リアン、そしてルーヴェ。お前さんたちのお陰でこの町はこれ以上の被害は出ずに済んだ。本当にありがとう」
「おいおい止してくれよ。当たり前のことをしただけだ」
「ルーヴェさんの言うとおりだよ。……勝てなかったし、また会おうってことは、またここに来るってことだろうし」
「全然、歯が立ちませんでした……」
「いいや、お前さんたちは確かにこの町を救ったんだ。感謝の一つくらい送らせてくれんかのぉ?」
「でも…………いや、ありがとうございます」
「うむうむ、素直に受け止めるのが一番じゃぞ。ほっほっほ」
にこやかな笑顔だ。本当に感謝してるんだってことが伝わってくる。
でも……もっとわたしが早く帰ってこられたら、もっとわたしの足が速かったら、もっと危険を察知できる能力があったら……未然に防げたかもしれない。
そしてもっと普段から鍛えておけば、マルムに勝てたかもしれない。……師匠を超えて喜んでる場合じゃなかった。
「リアン、ルーヴェさん……わたし、頑張るから」
「レーナちゃん……うん、わたしも一から頑張ります。レーナちゃんと並べるように」
「……こっちも一から鍛え直すかねぇ。あの嘗めくさった野郎に負けてるのは癪だからな」
それぞれが自分の家へと向かう。
さぁ今日から真面目にやろう、と考えている最中……何故か、妙に師匠に会いたくなった。最初は歩いていたのが、段々と足が走り始めていく。
家につくと、乱暴に扉をこじ開けていた。
「おかえ───どうやら、ただ事じゃなさそうだな」
いつものような朗らかな顔をしていたが、わたしを見ると少し真面目な顔になった。
「ハァ、ハァ……ねぇ師匠、実はさっきさ──」
わたしは今日帰ってきてからあったことを話す。マルムの存在、そしてそいつがめちゃくちゃ余裕そうに自分等の相手をしてたこと。歯が全然立たなかったこと。……正直、めちゃくちゃ悔しかったこと。
ふざけること無く師匠はちゃんと聞いてくれていた。
「……そうか、そんなことが……」
「だからさ師匠。もっかいわたしに型を教えてくれないかな」
「……お前、俺をもう超えてるだろ」
「まだ型の形は師匠のほうがキレイ。そのキレイさを身につければ、さらに強くなれると思うんだ」
「……そうか。じゃあ今から見せてやる。見て盗めよ」
「わかった」
こうしてわたしは、師匠と夜遅くになるまで修行に励むのだった。
──────────
「いやぁ、今日は災難だったな」
「本当だよなぁ。レーナちゃん一行が来てくれなきゃ、本当に俺たち死んでたかもしれないからなぁ」
「しかしなぁあのマルムってやつ、妙な格好だったよなぁ。まるで黒い鎧が意思を持って動いてるみたいだったし」
「それにわざわざなんのためにやってきたのかも不明だよなぁ……」
「その話、少し詳しく聞かせてもらってもいいでしょうか?」
悪役演じる魔王様 エンゼ @enze
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