No.189:新たな販路


 年が明けても、多忙ながら充実した日々が続いた。

 アジアからの輸入品は、ほぼ当初計画していた通りの売上を計上していた。

 ただ俺としては……今ひとつ満足できていなかった。

 

 売上がそこそこなのは、どちらかというと営業2課が頑張って営業をかけてくれているおかげである部分が大きい。

 なにか大ヒット商品が出て、売り切れ続出という状況では全然ないのだ。

 一つでも二つでもネットやSNSでバズって、そういった人気商品は出ないものか。

 俺はそう願っていたが、そうは上手くはいかなかった。

 社長は「初年度にしては、上出来だ」と言ってはくれたが……。


 3月に入り、会社の決算月を迎えた。

 社内はにわかに、忙しくなる。

 そんな中で、俺は会議である提案をした。


「Azomanのマーケットプレイスを利用した、通信販売を考えてみてはいかがでしょうか」


 Azomanは言わずとしれた国内最大のネットショッピングサイトだ。

 その販売力は、他を圧倒していると言っていい。


 以前からうちの会社も自社でネット通販のチャネルを作ろうかという話は出ていたらしい。

 ところがそれは今のところ実現していない。

 理由はひとえに人材不足である。


 注文管理から顧客管理、入金確認から発送手配まで考えると膨大な手間と人員が必要となる。

 それに見合う売上と利益が、確保できるか確証がない。

 それであれば、いままで通り商品を卸して流通させたほうが効率がいいという発想だった。


 ところがAzomanにはフルフィルメント・バイ・アゾマン、通称「FBA」というサービスがある。

 これは在庫をAzomanが指定する倉庫に送付しておいて、Azomanのサイトで出品販売をするシステムだ。

 商品が売れたらAzomanの方で販売後の入金管理、梱包、発送から返品まで、Azomanが代行してくれるのだ。

 もちろんその分Azomanに手数料を支払う必要があるが、うちの会社で必要なのはAzomanのサイトへ出品する手間だけだ。


「仮にAzomanルートで利益が出なくても、それこそ顧客層は全国に広がります。そしてそれが話題となったら、現状の卸売の方にもプラスに働くと思うんです。検討してみる価値はあると思うのですが」


 俺は会議でそう発言したが、反応はイマイチだった。

 雰囲気としては「何も知らない新人が、なに言ってんだ?」という感じだ。


 ところが社長の一言が、流れを変えた。


「うん、面白いね。とりあえず赤字垂れ流しにならなければ、話題性もあるしやってみる価値はあるんじゃないかな。ちょっと営業2課の方で、そのFBAを利用した場合の採算分析をやってみてもらえるかな?」


 営業2課長はあまり気乗りがしない表情だったが、承諾してくれた。


 翌日、このFBAの採算分析に岡山が任命された。

 どうやら「海外営業部の新人が頑張っているんだから、お前も頑張ってみろ」と背中を叩かれたようだ。

 ただ、「面倒くさいものを新人に投げた」という側面もあるような気がした。

 そして俺は岡山と情報交換して協力するように、増田部長から指示された。


「仲代、Azoman通販なんとか実現できるといいよな」

「ああ。とりあえず採算がとれるかどうか、調べてみよう」


 俺も岡山も、任された仕事に張り切っていた。


 そうして採算分析は始まった。

 俺は各商品の重さや大きさ、購入原価などのデータを岡山に伝える。

 そのデータを元に、岡山は販売価格とコストのバランスを考える。


 しかし10日ほど過ぎたある日。

 岡山の表情は曇っていた。


「いま一般で売られている価格をベースに考えると、採算はギリギリだ。物によっては赤字のものも多くある。特に重量のある商品はその傾向が強い」


「うーん……これは思ったより厳しいな」 


 岡山がプリントしてくれたデータを二人で眺めながら、俺たちは小さく嘆息する。

 Azomanへ支払う手数料も大きいが、一番大きいのは運送コストだ。

 それはAzomanから顧客へ発送する時のコストと、うちの会社の倉庫からAzomanの倉庫へ在庫を送る際のコスト、その両方がかかるからだ。


「どう見たって、削減できそうな部分ってないよな……仲代、どう思う?」


「ああ、この分だと難しいな。確かに採算が赤字にならない商品だけ取り扱うっていうやり方もあるが……」


「それだと取り扱い品目が大幅に落ちるだろ? それじゃああんまり魅力がないんじゃないか?」


 俺たちは二人で意見をぶつけ合う。

 残念なことに、なかなか良い解決策を見つけることはできなかった。

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