No.172:年が明けて


 年が明けて1月2日。

 俺たちはいつものメンバー7人で、初詣に向かった。

 残念ながら、今年も美桜は長野に帰省中につき不参加だった。


 結局俺たちは、クリスマスパーティーで集まることはしなかった。

 全員の予定が調整できなかったのだ。

 それぞれのグループでささやかなパーティーを催したというわけだ。


 それから……ついにというか、クリスマスに誠治と綾音が付き合いはじめた。

 誠治から報告があった。

 俺は心から祝福した。


 結局クリスマスは、それぞれのカップルで楽しんだ結果になった。

 海斗とエリちゃんも、家族で集まってパーティーをやったらしい。

 弥生ちゃんは「いいんですよ、どうせ私は独り身ですから……」と、少しへそを曲げていたが……。


 だからどうしても、初詣は皆と一緒に行きたかった。

 そして初詣の後は、恒例の綾音のマンションで鍋パーティーだ。

 誠治と綾音はもうしっかりと恋人同士で、オレたちの前でバカップルぶりを遺憾なく発揮してくれた。


 バレンタインデーが過ぎ、3月に入ると就職活動が本格化した。

 俺は就活に集中する一方、どうしてもやっておきたいイベントがあった。

 

「日帰りでもいいので、春休みの間に瑛太さんのご両親にご挨拶に伺いたいです」


 明日菜ちゃんがそう言い出した。

 俺が明日菜ちゃんのご両親に挨拶をしたことで、晴香さんから「明日菜も機会を見てご挨拶に伺いなさい」と言われたそうだ。

「俺の実家は遠いし、そんなに気にする必要はないよ」と俺は言ったのだが、明日菜ちゃんの意思は強かった。

「それに……久しぶりに遠出もしたいですし」と言われると、最近は俺のアパートで『お家デート』ばかりしている身としては、返す言葉もない。


 東京駅から長野駅は、新幹線だったら1時間20分ぐらい。

 だから予算のことを考えなければ、日帰りだって余裕だ。

 それに明日菜ちゃんを一泊させるよりは、日帰りのほうがハードルが低いだろう。


 週末に朝8時過ぎの新幹線で長野へ向かった。

 長野駅には、兄貴に迎えに来てもらった。


 実家には俺の家族が全員揃っていて、もちろん明日菜ちゃんのことも覚えている。

 こんな美少女を、忘れるわけがない。


「お伺いするのが遅くなってしまって申し訳ありません。瑛太さんとお付き合いさせていただいてます南野明日菜です。今日はご挨拶に伺いました。」


 目の前で深々と頭を下げる明日菜ちゃんを見て、両親も兄貴も固まっていた。

 なぜかお袋は涙目になっていた。


「もう明日菜ちゃん、本当にきちんとしたお嬢さんね。瑛太、あんないい子絶対離しちゃだめだよ」

 明日菜ちゃんがいないところで、お袋が俺にそう言った。

 

 全員で軽く昼食を食べた後、俺はお袋の軽自動車を借りて明日菜ちゃんと一緒にドライブへ出かけた。

 久しぶりの運転で緊張したが、東京より車が少ないので思ったよりスムーズに運転できた。

 スーパーのカメヤに寄って、明日菜ちゃんは『信州わさびマヨ風』ドレッシングを10本購入していた。

 まあ帰りは俺が荷物持ちになるわけだから、重さは問題ない。


 実家に戻って、全員で一緒に早めの夕食を取った。

 そして兄貴に長野駅へ送ってもらう。

 帰り際、お袋に「こんどはゆっくりいらっしゃいね」と言われて、嬉しそうな明日菜ちゃんだった。

 帰りの新幹線の中で明日菜ちゃんは緊張の糸が途切れたのか、1時間ぐらい俺の肩の上で眠っていた。


 4月に入ると俺はいよいよ4年生となり、会社訪問の頻度も増えていった。

 表向きは情報解禁が3月、採用選考の解禁が6月ということになっている。

 しかし実際は会社訪問や先輩社員との懇親会など、実質次のステップ・面接にあたる活動が水面下で行われる。

 そして6月前後には、内々定という形で企業から約束されるパターンが多い。

 だからこの時期の活動は、学生にとって極めて重要なのだ。


 ただ……俺はなかなか手応えのあるような結果が得られていなかった。

 まだ会社の方で採用自体が本格化していないのか。

 それとも俺自身の就活に問題があるのか。

 いまいちよく分からず、もどかしい毎日が続く。

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