No.169:南野真一郎
そして12月22日。
約束の夕方6時きっかりに、俺は明日菜ちゃんの家に到着した。
「こんばんは、瑛太さん」
明日菜ちゃんは笑顔で玄関から出てきて、俺の腕を取った。
やばい、抱きしめたい。
俺はヴィチーノで買ってきたケーキの箱を片手に、玄関からお邪魔する。
するとすぐに小春ちゃんも降りてきた。
「あーもう、いちゃいちゃしちゃってさー。小春も彼氏ほしくなっちゃうなー」
そういう小春ちゃんは、もう高校2年生。
俺が初めて会ったときからと比べると、背も少し伸びてスタイルもいい。
お姉さん譲りの綺麗さも兼ね備えて、本当に可愛いのだ。
「小春ちゃんだってそれだけ可愛いんだから、その気になればすぐに彼氏とかできるでしょ?」
「えー? やっぱり瑛太さん、ロリコンなんですね」
「だから違うって」
この辺は全然変わらない小春ちゃんだった。
「うーん、やっぱりそういうのはまだいいです。なんかよくわかんないし」
「とりあえず小春は勉強優先ね。明青大に上がれなくなっちゃうかもだよ」
「あーもう、せっかくのクリスマスなんだから! 現実逃避させてよ!」
やいのやいのと賑やかな玄関先から、階段を上がってリビングへ向かった。
すると……
「やあ、いらっしゃい。瑛太君だね。はじめまして、明日菜の父親です。話はいろいろと伺ってるよ」
いきなりイケメンの中年男性から握手を求められた。
俺は少したじろぎながら、右手を差し出す。
「はじめまして、仲代瑛太です。えっと……明日菜さんとお付き合いさせていただいてます」
俺は一息に、そう言い切った。
「ああ、聞いてるよ。明日菜がいろいろとお世話になってるようだね。僕も早く会いたいと思ってたんだけど、なかなか仕事の都合がつかなくてね」
「あ、はい。自分も早くご挨拶をしたいと思っていました」
明日菜ちゃんのお父さん、
綺麗な二重まぶたの目元、シュッとした鼻筋、口元が明日菜ちゃんそっくりだ。
俺は案内されて、ダイニングの方へ向かう。
料理中の晴香さんがいたので、挨拶をする。
手土産のケーキを手渡すと、「ありがとう。後でいただこうね」と言って冷蔵庫へ入れた。
「うわぁ……」
テーブルの上の所狭しと並べられている料理を見て、俺は声を上げる。
ローストビーフ、サーモン、テリーヌ、フライドチキン、サラダ、それに卵焼きとか蟹爪のフライとかも並んでいて、まさに豪華絢爛だ。
「あとからビーフシチューと七面鳥が来るからね。先に少し食べてもらって置くスペースを作って欲しいんだけど」
晴香さんもそう言って、テーブルの方へやってきた。
5人揃って、ご馳走の前に座る。
俺の隣には明日菜ちゃん、向かい側に真一郎さんが座った。
真一郎さんがビール瓶を俺の方に差し出した。
「瑛太君は飲めるんだろう?」
「あ、はい……そんなに強くはないんですけど……では1杯だけ頂きます」
彼女のお父さんにビールを注いでもらう。
よくドラマとかであるシーンだが、結構緊張する。
俺は真一郎さんから瓶をもらって、お返しに真一郎さんのグラスに注いだ。
俺たちは乾杯した。
晴香さんはビール、明日菜ちゃんと小春ちゃんはオレンジジュースだ。
明日菜ちゃんはもう二十歳だからアルコールはOKだが、俺と一緒のときにまだ一度もアルコールを飲んだことがない。
「家でも飲まないの?」
俺は隣の明日菜ちゃんに聞いた。
「飲まないですね。誕生日を迎えて一度だけビールを飲んだんですけど、一口飲んで苦くて……それから飲んでないです」
「ああ、俺も最初はそうだったよ」
まあ女の子の『ビールあるある』かもしれない。
俺はオードブルをいくつかつまみながら、ビールを頂いていた。
どれも見た目鮮やかで、味もいい。
「本当に晴香さんは、料理がお上手ですね」
「ああ、でもこれ全部作ったわけじゃないのよ。蟹爪のフライとテリーヌはスーパーで買ってきたやつだからね」
「小春がお姉ちゃんと、さっき買ってきたんですよ」
サラダを取り分けながら、小春ちゃんがそう言った。
「そうそう。だって七面鳥がねぇ……時間かかって面倒くさいのよ」
晴香さんの話では、下ごしらえから含めると4時間以上は時間がかかるものらしい。
俺も少しだけ料理をするが、時間をかけて料理をしても食べるのは一瞬だったりする。
そのモチベーションを考えても、晴香さんには頭が下がる思いだ。
「でも親子だね。僕は晴香の一つ上なんだけど……僕たちが付き合い始めたのは、ちょうど瑛太君と明日菜と同じ歳のときだったんだよ」
「え? そうなんですか?」
「そうそう。私が大学2年、真一郎さんが3年のときね。真一郎さんはその前に、別の子と付き合ってたけどね」
「……まあそういうこともあったね」
真一郎さんの目が泳ぐ。
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