No.167:誠治の言った通りに……
11月に入るとあんなに暑かった東京も、秋の気配が感じられるようになりました。
初カレの瑛太さんとお付き合いするようになって3ヶ月。
毎日がキラキラと輝いているような気がします。
大学へ行くときも帰るときも、大体一緒に行動するようになりました。
授業の時間が同じであれば、電車の時間と車両も示し合わせて一緒に通学しています。
ひょっとしたら周りからは、完全なバカップル扱いされているかもしれません。
それにしても驚いたのは……綾音さんが誠治さんと仲良くなっていることでした。
綾音さんが瑛太さんのことをずっと好きでいられたらどうしよう……私はそんなことをずっと考えていました。
でも……あのエリの事件から、何かが変わったようでした。
きっと誠治さんの気持ちが通じたんでしょう。
最近ではお二人とも、本当に楽しそうです。
私は時間があれば、瑛太さんのアパートに行くようになりました。
二人でどこかへ出かけることも多かったのですが、瑛太さんのアパートで一緒にお茶をしたり身を寄せ合ったりしている時間が、私は大好きです。
最近の二人のお家イベントは、映画を見ることです。
始めのうちは瑛太さんがDVDをレンタルしてきたものを見ていたのですが、最近瑛太さんは動画配信サービスを契約したそうです。
映画は海外の映画で、英語の字幕を表示させています。
以前から瑛太さんが英語の勉強を始めたことは知っていました。
そして最近英語のヒヤリング力が少し上がったと思う、と瑛太さんは言ってました。
リビングで映画を見るために、瑛太さんは大きめのクッションを2つ買ってくれました。
その上に二人並んで座って、いつもくっついて映画を見ています。
手をつないだり肩を抱き寄せられたり。
そうして瑛太さんを隣で感じられる時間が、とても幸せに感じます。
いつも映画を見終わると、お互いの感想を言ったりします。
そして最後に、瑛太さんは必ず私を抱き寄せてキスをしてくれます。
最初は緊張しましたけど、最近は私のほうがキスを待ってる感じがします。
べ、べつに私がエッチっていう訳じゃないですよ。
でも……最近は瑛太さんが……キスでは終わらなくなってきました。
キスをしながら……瑛太さんの手が私の体の上でいろいろと動きます。
背中、腕、胸、体の下の方まで……。
その……決して嫌じゃないんですけど。
でも自分の口から今まで出したことのないような声が出てくることに……自分でも驚いています。
それに……もの凄く恥ずかしい……。
そんなことが何日か続きました。
でも瑛太さんは、それ以上のことを私に求めませんでした。
その理由を……私はなんとなく察していました。
◆◆◆
12月に入ると、エアコンも暖房を入れるようになった。
服装もさすがに薄手のシャツだけじゃあ寒い。
俺は厚手のパーカーを着て、キッチンに立つ。
今日は日曜日、もうすぐ明日菜ちゃんがお好み焼きを食べにくる。
俺はホットプレートを用意しながら、ロフトを見上げる。
そしてロフトへ上がるためのハシゴを見ながら、小さくため息を吐いた。
「まったく……誠治の言った通りになるとはな……」
俺は独りごちる。
明日菜ちゃんとの付き合いは、順調そのものだ。
ただちょっと順調過ぎて、そこから先が進めない。
俺たちは時間があると、クッションにもたれながら映画を見ることが多くなった。
そして映画を見ながら、いい雰囲気になっていく。
俺は明日菜ちゃんの全身に触れるようになった。
背中、腕、胸、体の下の方まで……。
明日菜ちゃんは華奢で色白で……そして胸のボリュームが凄い。
明日菜ちゃんは拒否しなかった。
全てを俺に任せてくれている気がする。
明日菜ちゃんが必死に我慢しても口から漏れてしまう可愛い嬌声がさらに扇情的で……
俺はもう、発情したサル同然だった。
ただ……お互い初めてだ。
さすがにフロアの上に置いたクッションの上で、初めての経験をするわけにもいかないだろう。
明日菜ちゃんには一生トラウマになってしまうかもしれない。
本当はこのまま自然にベッドに移動したい。
でも……ロフトがそれを邪魔をする。
二人でロフトのハシゴを登るのは……初めての二人にはかなりハードルが高いのだ。
「これからそういう事をヤリます」という意思表示になってしまって、お互い興ざめになってしまうような気がする。
そもそも……こんなアパートで、明日菜ちゃんに初めての経験をさせていいんだろうか。
俺は思考を巡らす。
旅行でも企画した方がいいのか?
でも……明日菜ちゃんのご両親は、俺と付き合っていることを知っている。
外泊となると、やっぱりいろいろとマズい。
それに……初めてでラブホというわけにもいかないだろう。
俺だって行ったことないし。
そんなことを考えていると、インターホンが鳴った。
玄関を開けると、明日菜ちゃんが立っている。
今日の明日菜ちゃんはスウェットパーカーにプリーツのミニスカート。
12月なのに……俺の思いとは裏腹に、無防備な事この上なかった。
「お邪魔しまーす」
明日菜ちゃんは元気よくそう言って、部屋に入ってきた。
いつものように他愛もない話をしながら、お好み焼きを一緒に食べる。
今日の差し入れは、ナッツ入りの食パンだった。
お好み焼きを食べ終えると、またいつものように映画鑑賞会だ。
前回からの続きを、二人でクッションにもたれながら楽しむ。
1時間もしないうちに、映画は終わった。
気がつくと俺たちは長いキスをしていた。
俺の欲情に満ちた手は、明日菜ちゃんの全身を弄っていた。
「瑛太さん」
明日菜ちゃんは、上ずった声で俺の手を止めた。
「ごめん、嫌だった?」
「そうじゃないんです。あの……お願いがあるんです」
上目遣いにそういった。
「うん。なに?」
「あの……やっぱ、いいです」
なぜか明日菜ちゃんは顔を真赤にして、下を向いてしまった。
「え? なになに? 言いにくいこと?」
俺は心配になった。
「言いにくいというか……恥ずかしいです」
「どうしたの? 大丈夫だから、何でも言ってよ」
「……じゃあ言いますね。えっとですね……い、一緒に添い寝してほしいです」
そう言って明日菜ちゃんは、俺の背後の上の方を見上げる。
その視線の先は……ロフトだ。
「えっと……ロフトの上で、ってことだよね?」
明日菜ちゃんは恥ずかしいのか、俺の胸に頭をつけてコクンと頷いた。
俺はしばし逡巡する。
「えーっと……もしかしたら添い寝で済まなくなるかもしれないけど……」
「そ、それは言っちゃダメですっ」
彼女はそう言って、俺に抱きついてきた。
俺はやっとそこで理解した。
いろいろと見かねた明日菜ちゃんが、助け舟を出してくれている。
そういうことだった。
「うん、わかった。じゃあ明日菜ちゃん、先にロフトに上がって待っててくれる? 俺もすぐに上がるから」
「わ、わかりました」
俺は明日菜ちゃんのスカートが下から見えない位置に移動すると、彼女はロフトを登っていった。
それから俺はカーテンを閉めて……こっそりクローゼットから必要なものを取り出してポケットに入れ、明日菜ちゃんの後を追った。
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