No.160:川遊び


 お茶を飲みながらリビングで寛いでいると……


「いらっしゃい」


 兄が帰ってきた。

 皆で挨拶をする。

 気をつけて見ていると、弥生ちゃんが嬉しそうに笑っていた。

 確か弥生ちゃん、兄貴の筋肉に興味があるって言ってたよな。

 筋肉だけ、だろうけど。


 兄貴との挨拶もすまして、俺たちはそれぞれの部屋へ向かう。

 去年と同じ部屋割で女性陣は大広間へ、男性陣は2階の部屋だ。

 とりあえず玄関に置いてあった、自分たちの荷物を運んだ。


 それぞれの部屋で少しの間くつろいだ後、夕方から俺たちは出かける。

 とりあえず去年も行った市街地の定食屋で腹ごしらえだ。

 手頃な値段でボリュームのある食事を済まして、花火の展望スポットへ向かう。


 俺たちはもちろん美桜にも声をかけたが、あいにく美桜は今日と明日の日中は親戚が集まるということで、参加するのは難しいということだった。

 そのかわり明日の夜のバーベキューには行きたいという返事があった。


 駐車場に車を停め、展望スペースに向かって俺たちはぞろぞろと歩く。

 少し奥の展望スペースに、レジャーシートを敷いて7人分のスペースを確保した。


 しばらくすると花火が上がり始めた。

 うわー、キャー、という女性陣の声。

 今年もまた、このメンバーで、この花火を見ることができた。

 そのことに俺はちょっと感慨に浸っていた。


 そして俺の隣には、明日菜ちゃんが座っている。

 彼女は時折大きく花を開く花火に、歓声をあげる。

 そして時折、「今の大きかったですよね」「え? 今の形ハートですか?」と俺に話しかけてくる。

 その度に明日菜ちゃんの顔が視界に入るのだが、とにかく距離が近い。

 その整った顔立ちが花火の明かりで照らされるたびに、俺の心臓が少しはねるのを自覚していた。

 

 最後の連発花火が盛り上がりを見せて、花火大会は終了した。

 そしてそれからは、天体観測だ。

 今年もそこには、満天の星が待ち受けていた。

 皆口々に歓声を上げる。

 全員が上を見上げながら、しばらく流れ星が落ちてくるのを待っていた。


        ◆◆◆  


 翌朝俺たちは、きゅうりやトマトなど沢山の夏野菜が彩る食卓で朝食を取っていた。

 俺たちは昨日の花火の話で盛り上がった。

 

 朝食を終えて少し休憩したあと、全員服の下に水着を着込む。

 川遊びへ出発だ。

 全員車に乗り込み、去年と同じオートキャンプ場へ向かう。

 チェックインを終えて中に入ると、さすがにお盆のこの時期なので家族連れが多かった。

 

 それでも俺たちは、川の横のテーブルを陣取った。

 面白いのは女性陣が全員、俺と誠治がバリのお土産に買ってきたアタのトートバッグを持参していたことだ。

 綾音によると、全員示し合わせて持ってきたらしい。


 俺たちは早速、川へ向かう。

 エリちゃんと海斗がライフジャケットを手に、深みの方へ入っていく。

 残った4人は浅瀬で涼を取っていた。


 ところが今回、海斗が東京からちょっとした兵器を持参していた。

 機関銃のような形をした、大型の水鉄砲だ。

 誠治がこの水鉄砲を手にして、暴れだした。


 ポンプ式に空気圧を高めて使うこのタイプの水鉄砲は、水圧がかなり高い。

 誠治は容赦なく、女性陣のボディーに、俺の顔面に水をぶっぱなす。


「キャーッ」

「せ、誠治さん、大人げないですよ」

「なんでウチは胸ばっかり狙うのよ!」

「誠治、鼻に入ったぞ」


「ウワーッハッハッ! どうだ! 正義は必ず勝利するんだよ!」

 どう見ても悪の権化が、謎の雄叫びをあげている。


 阿鼻叫喚の様相に、俺たちは周りの家族連れの視線を浴びる。

 とくにお父さんたちから美少女たちへの視線が熱い。


 俺は手にしたバケツの水を、誠治の振り向きざまに顔面へお見舞いする。

 悶絶する誠治から水鉄砲を取り上げると、今度はそれを綾音に取り上げられた。

 誠治は綾音からの水鉄砲攻撃と、俺からのバケツ攻撃でようやく撃沈した。

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