No.158:末期的かもしれない
「あーあ、もう……わかりやすくイチャついちゃってさぁ……」
ウチは少し離れたテーブル席に座って、焦げたマシュマロをお互いに押し返している瑛太と明日菜ちゃんを眺めていた。
昔は瑛太と明日菜ちゃんが近づくと、ウチはあまり気分が良くなかった。
明日菜ちゃんが大雨の日に、瑛太のアパートでシャワーを浴びたって聞いた時。
瑛太が明日菜ちゃんの家で、パエリアを一緒に食べたと聞いた時。
ウチは自分でもわかりやすく嫉妬した。
「それじゃあウチも!」と張り合ったりした。
でも……最近のウチは、変わってしまった。
明日菜ちゃんはそのストレートな気持ちを、わかりやすく惜しげもなく瑛太にぶつけている。
その瑛太はいろいろ戸惑いながら、自分の気持を持て余している。
見ていて……なんだか、とても微笑ましいんだ。
そして……ウチはそんな自分に少しだけ嫌気がさしている。
そんな風に変わってしまった自分に。
瑛太への気持ちはそんなに軽いものだったのか?
ウチは自問自答する。
どうしてウチは変わってしまったのか。
その理由は?
いつから?
何が原因?
誰が原因?
それらも全て自分でわかっている。
「だから嫌なんだよねぇ」
ウチはそう呟いて、ため息をひとつ。
「綾音、ノンアルビール余ってるけど飲むか?」
その声に振り返る。
ウチの悩みの元凶が、爽やかな笑顔でノンアルビールを片手にウチに問いかける。
「ううん、いらない。もうお腹いっぱいだよ」
「そうか」
誠治は自分が飲む分のプルトップを開けた。
「相変わらず……仲いいな、あの二人」
誠治は、仲良くマシュマロを食べている瑛太と明日菜ちゃんに目を向ける。
二人とも両手に串刺しのマシュマロを4-5本持って、楽しそうに話している。
「綾音、キツくないか?」
「ん? ああ……それがねぇ……キツくないんだよね」
「無理するなよ」
「無理してないよ」
全く……誰のせいよ、って言ってやりたい。
いや……誰かのおかげ、って言わないといけないのかな?
「ありがとね、誠治」
「ん? ああ」
ウチは笑顔でそう言うと、誠治はちょっと怪訝な顔をした。
「お、エリちゃんと弥生ちゃんがバドミントンやってるな。ちょっと見に行こうぜ」
「あ、ウチもやりたい」
ウチと誠治はバーベキューグリルを抜けて、隣の広場へ向かう。
「誠治、1本どうだ?」
「綾音さん、ひとつどうですか?」
二人ともウチと誠治に、マシュマロを勧めてくれた。
「おう、もらうわ」
「ありがと、一本もらうね」
マシュマロを1本受け取って、そのまま4人で広場へ歩いていく。
すると弥生ちゃんとエリちゃんが、凄い勢いでシャトルを打ち合っている。
特に弥生ちゃんの方が、スイングもステップワークもウチらとは全然違う。
「弥生ちゃん、昔やってたの?」
瑛太が問いかける。
「はい、中学の時バドミントン部でした。高校では幽霊部員でしたけど……やっぱりしばらくやってないと、ダメですね」
「いやいや、十分凄いから」
誠治の言う通り、弥生ちゃんの打ち方は明らかに経験者だ。
しばらくウチたちは、弥生ちゃんとエリちゃんが打ち合うのを眺めていたんだけど……。
「うーん、綾音も凄いけど……弥生ちゃんもなかなか……」
誠治がおもむろに呟く。
「はい、なかなかだと思います」
「あ、明日菜ちゃんまで?」
明日菜ちゃんに瑛太が突っ込む。
ウチはすぐに理解した。
弥生ちゃんの……胸だ。
弥生ちゃんは小柄だが、立派な巨乳の持ち主だ。
それが弥生ちゃんのスイングに合わせて、上下左右に揺れる。
そもそも弥生ちゃんのTシャツは胸のあたりがパツパツなので、余計にわかりやすい。
「も、もう! 誠治は巨乳だったら、誰でもいいわけ⁉」
「へっ? あ、いや、そういうわけじゃないぞ! そういうんじゃなくて……これはあれだ。な、瑛太?」
「俺に振るな!」
「あー、今のは誠治先輩が悪いッスねぇ」
鉄板の処理から戻ってきた海斗も、呆れている。
ウチはちょっと後悔した。
あんなくだらないこと、言わなきゃよかった……。
でも、あのとき感じた感情。
それは昔、瑛太と明日菜ちゃんが近づいた時に感じた感情とよく似ていた。
ウチはもう……末期的かもしれない。
そんな風に思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます