No.156:バーベキュー、やりたいっスね
3月の終わりに、俺たちは皆で井の頭公園へ花見に行った。
声をかけたら、美桜も来てくれた。
俺の心配をよそに、美桜は笑顔で話しかけてくれた。
よかった、俺は心から安堵した。
売店で買ったアイスを食べながら、俺たち8人は散りゆく桜の花びらを眺めていた。
4月に入ると、俺たちはまた新しい学年になった。
俺たち3年生は、今年からゼミが始まる。
履修するゼミは2年の終わりに既に決定していた。
俺も誠治も綾音も、同じゼミを選択した。
レポートとかを仕上げる時、協力体制が組めるからだ。
4月16日は綾音の誕生日。
バイト明けに3人でカマール・マカンへ向かう。
綾音は21歳になって、俺たち3人もビールで乾杯するようになった。
まかないを食べていたのでビールとフライドポテトでお祝いして、ヴィチーノのケーキを綾音に手渡した。
ちょっと前まではコーヒーを飲んでいた俺たちは、今では当たり前のようにアルコールを飲むようになった。
ちょっと不思議な感覚だ。
大学の学食では、相変わらず俺たち7人はいつものエリアに集まっている。
新一年生が入ってきたせいだと思うが、また多くの視線を感じるようになった。
綾音、明日菜ちゃん、エリちゃんたちを間近で見れば、そりゃあ新入生の目も奪われるだろう。
いや、決して弥生ちゃんが劣るというわけではない。
俺たちにはあのキャラが、もはや不可欠な存在になっている。
そんないつものメンバーで、俺たちは変わらないキャンパスライフを送っていた。
一方で俺と明日菜ちゃんの『お好み焼きタイム』は続いていた。
明日菜ちゃんは相変わらず毎回差し入れを持ってきてくれる。
時には小春ちゃんも一緒にやってきて、賑やかな時間を過ごす。
俺の気のせいかもしれないが、少しだけ明日菜ちゃんの雰囲気が変わってきた気がする。
初めてコンビニであったときの明日菜ちゃんは『美少女』というイメージがぴったりだったが、最近は美少女に『綺麗なお姉さん』要素がプラスされている。
さらさらの黒髪に軽くメイクを施しただけの明日菜ちゃんは、もうそれだけでテレビCMに出てくる若手女優のようだ。
さらに薄手のセーターの上からでもわかる豊かな双丘、ほっそりしたウエストからミニスカートの下に伸びる形の良い足。
そのスタイルも抜群だ。
そんな彼女が俺の正面でお好み焼きを食べながら。
時には笑顔で。
時には上目遣いで。
また時には頬を紅潮させて、俺のことを見つめてくる。
それが反則級に可愛いのだ。
俺は明らかに、以前より心拍数が上がることが多くなった。
ゴールデンウィークが過ぎ、梅雨のシーズンに差し掛かると蒸し暑い日が続いた。
すると……
「そろそろバーベキュー、やりたいっスね」
我らがバーベキューマスターの声がかかった。
6月の梅雨の合間の週末に、俺たちはバーベキューを敢行することにした。
場所は俺たちが去年も行った、吉祥寺から車で30分ぐらい離れたキャンプ場だ。
今回は弥生ちゃんも参加、美桜は先約があり参加できなかった。
俺たち7人は誠治の車と海斗の車に分乗して、キャンプ場を目指す。
6月18日が誠治の誕生日なので、去年同様誠治の費用負担は免除だ。
キャンプ場についた俺たちは、早速荷物を運び込む。
受付で案内されたバーベキューサイトに着くと、海斗が早速火起こしを始めた。
肉を焼き始めると、香ばしい匂いがあたりに立ち込める。
3年生の3人はノンアルコールビールで、2年生の4人はジュースを片手に乾杯した。
「誠治、お誕生日おめでと」
「おう、ありがとな」
綾音の言葉に、誠治が頷く。
「今日は海斗が気を使って、最後にパッタイを作ってくれるらしいぞ」
俺自身も楽しみだったので、誠治に言ってやった。
パッタイとは、米の麺で作るタイの焼きそばだ。
「え、そうなのか? それは楽しみだな!」
「はい、て言ってもレシピをネットで調べただけッスからね。あまり本格的じゃないかもしれないッス」
我らがバーベキューマスターは、謙遜しながらそう言った。
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