No.153:二人の部屋
「お邪魔します」
「どうぞ、入って下さい」
俺はわざわざ玄関の外で待ってくれていた明日菜ちゃんに案内され、2回目の訪問となる明日菜ちゃん宅の中へお邪魔する。
玄関に入ると、階段の上からトテトテと降りてくる足音が聞こえた。
「瑛太さん、こんにちは。お待ちしてました。主にお姉ちゃんが」
「もう小春、そういうのいいから」
「はは、小春ちゃん相変わらず元気そうだね」
俺は苦笑交じりにそう言った。
日曜日の今日は、本来ならいつも通り俺のアパートでお好み焼きの予定だった。
ところが金曜日の夜、ヴィチーノのバイトから帰ってきた俺に明日菜ちゃんから連絡があった。
日曜日のお昼に、明日菜ちゃん宅で食事をしませんかというお誘いだ。
「両親が知り合いから、
大間のマグロといえばクロマグロ、高級品である。
俺は恐縮しつつも是非お邪魔したいと返事をした。
ちなみに今日も明日菜ちゃんのお父さんは海外出張らしい。
玄関から階段を上がると、リビングに出る。
その奥のダイニングキッチンでは、晴香さんがまだお料理中だった。
「こんにちは。お言葉に甘えてお邪魔させていただきました」
「こんにちは、瑛太君。ちょうどよかった。主人もいないから、どうやって消費しようかと思ってたのよ。それでも多分余るから、少し持って帰ってね」
「え? いいんですか? 嬉しいです」
貧乏学生には、嬉しいおすそ分けである。
俺は手土産に持ってきたヴィチーノのケーキと、実家から送ってきた野菜を晴香さんに手渡した。
「気を使わなくていいのに」と言いながら、晴香さんは受け取ってくれた。
「まだ料理ができるまで時間がかかるから、二人の部屋でも見てもらったら?」
晴香さんから、思わぬ提案をされた。
「瑛太さん、見ますか? 私の部屋」
「あ、小春の部屋もどうぞどうぞ」
俺は二人に引っ張られるように、さらに階段を上にあがった。
二人の部屋も両親の部屋も、3階にあるらしい。
先に3人で小春ちゃんの部屋に入れてもらった。
壁紙が淡いピンクで、カーテンは白を貴重としたガーリーな感じ。
ベッドの上にぬいぐるみがあったりして、まさにJKの部屋という感じだ。
「そうそう……これ、ちょっと早いけど、小春ちゃんの誕生日プレゼントということで」
俺は紙袋ごと、小春ちゃんに手渡した。
小春ちゃんの誕生日は3月26日だが、ちょっと早めのプレゼントだ。
「えー! 本当ですか? ありがとうございます。ブラにしては……ちょっと大きいですね」
「だからそういうんじゃないって」
中身はアタ製のトートバッグ。
明日菜ちゃんのバッグの一回り小さいやつで、バリで皆のお土産を買った時に俺が自腹で買ったやつだ。
ちょうど小春ちゃんの誕生日も近かったので、ちょうどいいと思って買ってきた。
「うわー、可愛い! ありがとうございます! 夏らしくていいですね。プールとか行く時に、使わせてもらいます」
パァーッとひまわりが咲いたような明るい笑顔で、小春ちゃんはそう言ってくれた。
明日菜ちゃんと少し雰囲気は違うが、小春ちゃんもかなりハイレベルの美少女だ。
俺にこんな妹がいたら、心配で仕方ないかもしれないな……。
俺はまた部屋の中に視線を戻す。
ふと見ると勉強机の上に、スケッチブックが置いてある。
少し部屋を見渡すと……ベッドの横にもスケッチブックが立て掛けてあった。
「小春ちゃん、絵を書くのが好きなの?」
「えっ? う、うん……絵を書いてるときとスマホを触ってるときが、一番落ち着くかな」
落ち着くときがその二つのときというのは、どうなんだろう。
「小春の絵は、とても上手ですよ。私なんかよりずっと」
「え、そうなの? 小春ちゃん、ちょっと見せてもらっていい?」
「え? うん、いいですよ」
俺は机の上のスケッチブックを開いた。
「うわぁ……」
俺の口から、思わず声が漏れた。
クマのぬいぐるみのスケッチだったのだが、もの凄く上手だ。
写実的できちんと陰影がついていて、今にも動きそうなリアル感だ。
その他にもリンゴやバナナのスケッチ、それに車やバイク、家具のデザイン画のようなものも書かれている。
「俺、美術の才能はゼロだけど、小春ちゃんもの凄く上手なんじゃないの?」
「小春は昔から絵の才能はあるんですよね。小学校の時から都の絵画コンテストとかで賞を取ったりしてましたから」
「そうなんだね」
明日菜ちゃんの説明に、俺は感心する。
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