No.150:美桜にお土産


 3月に入ると、東京は幾分暖かくなってきた。

 綾音はもう北海道の実家へ帰ってしまったが、俺と誠治はバリ島から帰ってきてからはずっとヴィチーノでバイト三昧の毎日だ。

 旅行関係でいろいろと出費が続いたし、誠治に立替えてもらったカードの決済分もある。

 俺たちはオーナーに頼んで、できるだけシフトに入れてもらうようにしていた。


 俺は春休みの間に実家に帰ろうか迷っていたが、年末は帰省しなかったので3泊4日の予定で帰ることにした。

 新宿から長距離バスで4時間半。

 長野の空気は、まだまだ冬を感じさせた。


 やはり実家は快適そのものだ。

 黙って座っているだけで、いろいろと食べ物を出してきてくれる。

 親にはちゃんと感謝しないといけないな。


 長野にいる間に、済まさなければいけない用事がひとつ。

 同じく実家に帰ってきている美桜に、バリ島のお土産を渡すことだ。


 綾音には二人で渡したが、明日菜ちゃんと美桜には俺から、エリちゃんと海斗と弥生ちゃんには誠治から渡してもらうことにした。


 実家の部屋から美桜にLimeを送る。

 明日の午後に、長野市内のカフェで会うことにした。


 待ち合わせのカフェは、長野市内の中心部にほど近い。

 俺は先にテーブルに案内されて、座って待つことにする。

「いま着いた」と美桜にLimeを送ろうとしたところ……


「おまたせ」


「おう。俺も今来たとこ」


 淡いブルーのワンピースにスエードのパンプスで現れた美桜は、ちょっと大人っぽく見えた。

 綺麗なナチュラルメイクを施し、胸元にはシルバーの四つ葉のクローバー。


「すぐわかった?」


「ああ、スマホの地図で来た」


「ここ、ちょっとわかりにくいよね」

 確かに大通りから一本入ったところなので、初めてだとわかりにくいかもしれない。


 この店は星野から聞いたそうだ。

 オススメのメニューは、ナポリタンとグラタンだそうだ。


 俺はナポリタンのセット、美桜はグラタンのセットを注文する。

 そして俺は鞄からお土産を出して手渡した。


「うわー、可愛い! ありがとう。このトートバッグは夏に使うのにいいよね」


「ああ、まあ常夏の島で買ったやつだからな」


 それから俺はバリ島の土産話を話し始めた。

 食べ物とかケチャックダンス、豪華なホテル、それに詩織さんと香織さんとの出会いにも美桜は興味津々だ。


「そんな偶然があるんだね。でもそれ、すっごいラッキーだったんじゃない?」


「ああ。誠治と二人だけだったら、あんなにいろんなところに行けなかっただろうしな」


「そうだよね。車もなかったんだし」


「そうなんだ。それで……いろいろ考えさせられたよ。まだまだ知らないことが世の中にたくさんあるんだなって。これからもっと世界のいろんなものを見たいと思ったんだよ」


「へぇー、瑛太君なんだか成長したんじゃない?」


「茶化すなよ。まあだから今回は誠治に本当に感謝だ」


「そうだよね。ああ、いーなー……私も海外旅行当たらないかなー」


「相当の運が必要だな」


 俺たちは運ばれてきた食事を食べながら、旅行の話以外にもいろんな話をした。

 星野と吉川はたまに喧嘩をしながら、それでもうまくやっているらしい。

 俺たちも3年になれば、就職活動が始まる。

 美桜は東京で就職を考えているが、親はできたら長野に戻ってきてほしいと言っているらしい。

 ついこの間まで高校の同級生だった俺たちが、いつのまにかそんな事を話題にしている。

 俺はちょっと不思議な気分になった。

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