No.149:瑛太さんはどうするんですか?
「うわー、素敵なバッグですね! ありがとうございます! 早速使いたいです!」
目の前の明日菜ちゃんは俺が渡したアタのバッグを手に取って、わかりやすく大喜びしてくれた。
週末の日曜日、恒例のお好み焼きの日だ。
ピンクのセーターに赤いチェックのミニスカート、黒のストッキングに包まれた綺麗な足にどうしても目を奪われる。
薄くメイクを施した美少女は、俺にキラキラとした笑顔を惜しげもなく向けてくる。
2週間ぶりに美少女に相対する俺は、どうしたって胸の高鳴りを自覚せざるをえない。
「旅行、どうでしたか?」
「本当に楽しかったよ。まだまだ俺の知らないことが、世の中に溢れているんだなと思った」
「そうだったんですね。誠治さんに感謝しないといけないですね」
「ああ、本当にその通りだよ」
そもそも誠治が懸賞を当てなければ、何も話が始まらなかった。
俺はホットプレートの上の野菜・肉・ごはんを炒めながら、そう思った。
今日はせっかくなので、ナシゴレンを作ってみることにした。
最終日に連れて行ってくれたスーパーで買った「ナシゴレンの素」みたいなものを使って作ってみる。
幸い作り方の欄に英語表記があるので、俺でもなんとか理解できる。
とはいっても、具材を炒めて最後にこの素をふりかけて混ぜるだけだ。
出来上がったナシゴレンを、プレートに取り分けて二人で食べ始める。
「あ、美味しいです。でもちょっと辛いかも」
「本当だね。粉を入れすぎたかな……」
「でも味は美味しいですよ。東南アジア! っていう味がします」
「確かにそうだね」
喉が渇いてしまったので、二人とも水を多めに飲みながらナシゴレンを食べ続ける。
「そう言えば……誠治から聞いたよ」
「? 何を、ですか?」
「誠治とエリちゃんと……綾音のこと」
「ああ、そうでしたか……」
明日菜ちゃんは姿勢を正した。
「俺、誠治のこともエリちゃんのことも、全然気がつかなかったよ」
「私も誠治さんのことは気がつきませんでした。聞いてびっくりでしたよ。エリはひょっとしたらそうかな、ぐらいには思ってましたけど。でもこれまで本人からはあまり深くは話してくれなかったんです」
「そうだったんだね」
「はい。やっぱり変なふうになっちゃうと嫌だったから、ってエリは言ってましたけど」
「そっか……でも綾音はどうするんだろう」
「……どうする、っていうのは?」
「えっ? いや……誠治に対してさ。誠治は『今まで通りだよ』って言ってたんだけどね」
「そうなんですね……それで……瑛太さんはどうするんですか?」
何故か明日菜ちゃんの顔が真剣になる。
少し泣きそうな表情にも見えた。
「俺? ……なんで俺?」
「えっ? だ、だって……」
「ああ、誠治には『何もしないでくれ』って言われたよ。今まで通り、冷やかすことも茶化すことも止めてほしいって」
明日菜ちゃんが、きょとんとした表情になる。
頭の上に大きなクエスチョンマークが出現した。
「えっと……瑛太さん。確認なんですけど……その……喫茶店でエリが話をしたときに、誠治さんの気持ちがたまたま居合わせた綾音さんにわかってしまった、ということですよね」
「ああ、そうだね」
「他に誠治さんは、何か言われてませんでしたか?」
「? 他に? いや、他には何も聞いてないよ」
「……」
明日菜ちゃんは一瞬固まったあと、視線をテーブルの上に落とした。
そして水の入ったグラスを手にとって、ゴクゴクと水を飲む。
「そうなんですね」
明日菜ちゃんはちょっと複雑な表情で、そう呟いた。
「なにか気になることでもあるのかな?」
「い、いえ、大丈夫です」
明日菜ちゃんはそう言って、ぎこちなく笑った。
俺は少し気になったが、話題はすぐにバリ島旅行のお土産話に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます