No.148:エッチな展開とかなかったの?


 オレと瑛太の二人旅は終わった。

 成田についてから疲労度Maxだったが、総武快速と中央線を乗り継いでなんとか家路に着く。

 一日死んだように寝てから、翌日の夜ヴィチーノのシフトに入る。

 金曜の夜だから、かなり忙しい。

 オレも瑛太も綾音もバイトが終わる頃にはクタクタだったが、綾音にお土産を渡したかったので3人で吉祥寺駅前のサンマルコカフェに立ち寄る。


「うわー、ありがと! めっちゃ素敵。デザインがブランド物みたい」


 アタのバッグを渡すと、綾音はめちゃめちゃ喜んでくれた。

 値段ではブランド物に遠く及ばないが、これだけ喜んでもらえたら買ってきた甲斐があった。

 オレも瑛太も一安心だ。


 瑛太がトイレに行ったすきに、オレは綾音に話し始めた。


「綾音、ワリぃな……瑛太に訊かれて、結局オレの事を話しちまって。でも言わないと、いろいろと辻褄つじつまが合わなくなるからな」


「うん……まあ、それは仕方ないんじゃない?」

 

 綾音の頬が少しだけ紅潮した。

 ヤバい……めっちゃ可愛い……。


「そうなんだけどな……でも、できれば伏せておきたかったんだよ」


「なんで?」


「なんでって……瑛太だってそれを知ったらやりにくいだろうし、変に気を使うかもしれないだろ?」


「あー……そうかもね」


「綾音……まるで他人事だな」

 オレは思わず突っ込む。


「そんなこと言ったって、仕方ないじゃない。それに瑛太だったら、変なふうには絶対ならないでしょ?」


「そりゃそうだけどな。だから綾音……タイミングを見て気持ちをちゃんと伝えろよ」


「えっ? ああ、うん……そうだね……」


「なんだよ。テンション低いな」


「テンション高くして言うことでもないでしょ?」

 綾音は少し口を尖らす。


「それよりさ、詩織さんと香織さん、だっけ? 同じホテルの部屋とかでさ、何もなかったの?」


「は? ないない。あるわけないだろ?」


「だって南の島のリゾートホテルだよ? 美女二人と同じ部屋でさ……その、瑛太と一緒に4人でエッチな展開とかなかったの?」 


「やめてくれ綾音。誠治はともかく、俺にはそんな上級プレイはハードルが高すぎる」


「なんでいつもオレ、『スケベ大魔神』みたいなポジションなの? ていうか瑛太、黙って戻ってくんなよ!」


 横で綾音が爆笑している。

 ちなみに……オレは最近、他の女とヤリたいとは思わないんだよ。

 誰かさんのせいだからな……。


「まあ冗談は置いといて……俺は今回の旅行で、自分の知らない世界がまだまだあるんだなって実感したぞ」

 瑛太が急にマジモードで話しだした。


「香織さんの話を聞いて、現地コーディネーターの仕事って面白いなって思ったんだよ。それと逆に、海外の商品やイベントを日本で紹介していけるような仕事とかできれば、めちゃめちゃ楽しいだろうなあって思うんだ。」


「ああ、瑛太ずっと言ってたよな。オレは海外の食べ物を紹介したいよ。ほら、学園祭の時のミーゴレンみたいにさ、東南アジアの『ヌードルハウス』みたいな店を出すんだ。絶対流行ると思わね?」


「あー、それいいかも。ラーメン屋とかは乱立してるけど、それなら目新しいし良さげだよね」


「だろだろ? 戦略次第で、絶対リピーターがつくと思うんだ」


 しばらくの間、オレたちの話は尽きなかった。

 4月からはオレたちも3年生になって、秋からは就職も考えないといけなくなってくる。

 こんな夢物語を熱く語り合えるのも、今のうちだけなのかもしれない。

 そんな一抹の寂しさを、オレは胸の中で押し殺した。

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