No.147:また日本で会おう


 夕食の時間となり、俺たちは香織さんの車で外に出る。

 デンパサール市内の大通りに、そのミーの店はあった。

 ミーとはインドネシア語で『麺』のことで、日本で言えばラーメン屋のような感じなのだろう。


 お店の看板には、『Bekmi GM』と大きく書かれている。

 店の名前のようだ。


「GMってなんですか? ジェネラル・マネージャー?」


「ガジャ・マダっていう人名の頭文字よ。14世紀のジャワ島のマジャパイト王朝の宰相らしいわ。私も詳しくは知らないけどね」


 店の中に入ると、日本でいうところの大きめの食堂という雰囲気だ。

 こちらではファミレスのような位置づけなんだろう。


 メニューを開くと、麺類やご飯物、サイドメニューもある。

 俺たちは麺類を3種類にナシゴレンをひとつ、チャプチャイという野菜炒めと鶏の唐揚げであるアヤムゴレン、揚げワンタンのパンジットゴレンを注文した。


「やっぱり安いですね。ミーアヤムが日本円で250円ぐらいです」


「その値段だと一般庶民からすると安くはないわ。屋台で同じものを食べたら、ここの半額ぐらいだからね」


 誠治の疑問に、香織さんが答えてくれた。

 吉祥寺のカマール・マカンのミーアヤムが850円だから随分安いと思ったが、現地物価を考えると安くないのは当然だろう。


 しばらくすると料理が運ばれてきた。

 俺は注文したナシゴレンをスプーンで口に入れる。


「あ、美味い」


 今まで食べたこともないようなスパイスの感じ。

 それにあまり辛くない。


「あまり辛くないですね」


「ああ、辛さが足りなかったら自分で足すのよ」


 そう言って香織さんは、テーブルの横に置いてあったサンバルソースを取ってくれた。

 なるほど、自分で『追いトウガラシ』を調整するわけだ。


「瑛太、ちょっと味見させてくれ」


 横から誠治がスプーンで俺のナシゴレンを一口取る。

 俺も誠治のミーアヤムを一口もらう。

 これも美味い。


 サイドメニューも含めて、どれも本当に美味しい。

 というより、そもそも日本人の口にあう料理なんじゃないか?


「ここ、いいですね。安いし美味いし。日本にあったら、オレ毎日通うレベルですよ」

 誠治が興奮気味にそう言った。


「そう? よかった。もともとジャカルタに本店があって店舗数も多いんだけど、バリにはここしかないのよね。もっと増えればいいのにって思うんだけど」


「これ、日本でやったら絶対あたりますよ」


「うん、いいね。誠治君、是非やってよ。私も会社帰りに通うから」

 詩織さんも気に入ったらしい。


 最後の晩餐は、豪華ではないが大満足だった。

 会計も全部で日本円で2千円ちょっと。

 さすがにここは、俺たちで支払わさせてもらった。

 お礼にしては全然足りないかもしれないが、せめてもの気持ちだ。


 それから俺たち4人はホテルに戻った。

 俺と誠治はパッキングを始める。

 昨日買ったアタ製品がかさばって苦労したが、なんとかスーツケースに収めた。

 

 夜の9時頃、チェックアウトを済ます。

 遅い時間なのに、ヤニーさんが日本語デスクに座っていた。

 俺たち4人は心からお礼を言った。

 ヤニーさんのおかげで、とても快適で楽しい旅行になった。


「また是非お越しください。スラマッ ジャラン」


 ヤニーさんは温かい笑顔で、俺たちを送り出してくれた。

 香織さんは遅い時間にも関わらず、俺たちを空港へ送ってくれた。


「それじゃあ誠治君、瑛太君、またね。気をつけて帰るのよ」

「二人とも、また日本で会おう」


「本当にありがとうございました。いろいろ助かりました。とても楽しかったです」

「香織さんも日本に来られる時は、連絡下さいね!」


 スーツケースを車から降ろしながら、俺たちは別れを惜しんだ。

 俺たちはチェックインカウンターで手続きを済まして、出国ゲートに向かう。

 そして俺たちが乗り込んだ成田行きの深夜便は、定刻通り出発した。

 シートベルトサインが消える頃には、二人とも深い夢の中だった。

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