No.145:もっといろんな国へ行きたくなった
「そうそう、それから明日なんだけどね」
注文した中華料理はどれも美味しかった。
焼き餃子の味だけは『餃子の飛車角』の方が圧倒的に上だったが。
食後にくつろいでいたところに、香織さんが切り出してきた。
「誠治君と瑛太君、帰りの飛行機って深夜便だったよね?」
「はい、そうなんです。深夜12時過ぎのフライトなんで……明日一日どうしようかって、瑛太と話していたとこなんですよ」
俺たちのフライトは夜中の12時過ぎ。
成田着が朝になる。
「そっか。それでね、ヤニーちゃんに連絡したら誠治君たちベルーガ・インドネシア航空から直接予約が入っていて、VIP扱いになってるらしいの」
「え? そうだったんですか?」
「うん。もっとも今泊まってるデラックスルームは、一番グレードが低い部屋らしいんだけどね」
「あれでですか⁉」
俺は思わず声がでてしまった。
俺たちにしてみれば十分広いし、十分豪勢だ。
「うん。高いグレードの部屋だと、専用のラウンジとかがついてるわよ」
「そうなんですね……いや俺たちには十分過ぎるぐらい豪勢ですよ」
「そうかもしれないわね。まあそれはそれとして……それでもVIP扱いらしいから、わたしからヤニーちゃんにちょっと頼んでみたら、レイトチェックアウトをOKしてくれたのよ」
「本当ですか?」
聞けば通常あのホテルのチェックアウト時間は、お昼の12時。
フライトの時間まで、12時間以上ある。
でも俺たちは、フライト直前まで部屋にいてもいい、ということらしい。
しかも無料サービスで。
「うわー、それめっちゃ助かりますよ」
誠治も声を上げる。
「そうでしょ? まあこれも閑散期だからできたらしいんだけどね……それでね、その代わりって言ったらアレなんだけど……誠治君たち、明日ってなにか予定とかある?」
「今のところないですね。チェックアウトしてから時間があるし、どうしようかと思ってました」
「それじゃあさ、私と詩織をホテルのプールに入れてくれない?」
「え? それはオレ達はかまいませんけど……」
もちろん構わないが、ホテルのルールとしてどうなんだろうか。
「もちろんヤニーちゃんには話を通してるわ。本当はプール利用は宿泊客だけなんだけど、わからないようにこっそりやってもらえればいいよって。だから二人の部屋に入れてもらって、そこから一緒にプールへ行ってもらえると嬉しいんだけど……」
「ああ、そういうことですね。ヤニーさんに話が通っているのであれば、問題ないですよ。是非一緒にプールへ行きましょう」
「本当? 嬉しいー! あそこのプール素敵でしょ? ロビーからも見えるんだけど、プールの延長上に海があるような感じなのよね」
「ええ、めっちゃ素敵ですよね、あのプール。オレ達も大好きですよ」
誠治もノリノリである。
もちろん俺も大歓迎だ。
部屋に来ると入っても、1対1じゃないし何も
ちなみに詩織さんには、大学時代から付き合っている彼氏がいる。
詩織さんとは別の大手商社に勤めていて、なかなか休みが合わないと嘆いていた。
今回も詩織さんの休みが突然決まったので、一緒に来られなかったらしい。
明日の予定を決めたあと、食事の会計をしてもらう。
さすがにここは、割り勘にしてもらった。
観光案内してもらったことを考えるとご馳走しないといけないぐらいだが、まあここは学生ということで甘えさせてもらうことにした。
香織さんにホテルまで送ってもらい、部屋に向かう途中日本語デスクのヤニーさんがいたので俺は声をかける。
「こんばんは、ヤニーさん。レイトチェックアウトのこと、香織さんから聞きました。お気遣いありがとうございます」
「いえいえ、できることをしただけですよ。気にしないで下さい」
「明日は香織さんたちも、来るみたいですよ」
「そうなんですね。よかったです。私も会えるのが楽しみです」
ヤニーさんは屈託のない笑顔を浮かべた。
俺たちは部屋に戻った。
冷蔵庫の中にコンビニで買ったビールが余っていたので、誠治と二人で飲む。
誠治はソファーに座り、俺はデスクから椅子を持ってきて誠治の向かい側に座る。
テレビのチャンネルはNHKになっていた。
「もう明日の夜、帰るんだな」
「ああ、そうだな。早いなぁ」
俺のつぶやきを誠治が拾う。
「中身の濃い二日間だったなぁ。まだ明日もあるけど……ケチャックダンスも、迫力あったよな」
俺はビールを飲みながら続ける。
「ああ。ロケーションがよかったし、踊りも幻想的だった。それにその前に連れていってくれた屋台村もよかったぞ」
「そうだったな。それに今日もギャラリーやお店も何件か回って、今まで見たことのない商品とかたくさんあって……なんだか俺たちって、まだまだ知らないことが沢山あるんだな。当たり前だけど」
「ん? そりゃそうだろ。まだ大学生なんだし」
「そうなんだけどな……でもたった1回の旅行でこんな事を思うぐらいだから、世界中にはまだまだこういうことがゴロゴロと転がっているってことだよな。俺はもっといろんな国へ行きたくなったぞ」
「そうか。それだったら金ためないとな」
「誠治、また懸賞で当ててくれ」
「無茶言うな」
誠治は呆れたように笑って、瓶ビールに口をつける。
しばらく俺たちはいろんな話をしていたが、やがて睡魔が襲ってきた。
交代でシャワーを浴びて、そのまま眠ってしまった。
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