No.142:どこから話せばよいのやら


 オレはそのまま、寝たふりをしようかどうか迷っていた。

 5秒ほど逡巡する。

 結局オレは迷いながら、言葉を探した。


「ああ……さて、どこから話せばよいのやら、だ」


「悪い。もちろんまだ話せないということだったら、言わないでくれ。ただ俺が気になってるだけだ。いわゆる下衆の勘繰りというヤツだ」


「いや、そりゃ気になるだろ」

 オレは苦笑する。


「まずな……オレは綾音のことが好きなんだよ」


「……やっぱりそうだったのか?」


「やっぱり、って?」


「いや、なんか最近やけに仲良かっただろ?」


「あー……それはあんま関係ないな」


「そうなのか? それじゃあ……いつからだ?」


「いつからって……いつから好きになったか、ってことか?」

 

「ああ」


 瑛太も綾音と同じことを訊いてくるんだな。


「最初からだよ。一目惚れだ」


「えっ? そうなのか?」


「そうなんだよ」


「それは全然気がつかなかったぞ」


「そうだろうな」

 瑛太に気づかれるようだったら、きっと今ごろ世界中に知れ渡っている。


「で……その事を綾音に言った、と?」


「ああ……それがな」


 オレはこの間の昭和純喫茶での出来事を、一部を除いて全て話すことにした。

 その一部とは……綾音の瑛太に対する気持ちだ。

 それは絶対にオレから言ってはいけない。

 綾音が直接、瑛太に伝えなきゃいけないんだ。


 オレの話を一通り聞いた後、瑛太は呆れ気味に口を開いた。

 

「……そんなことがあったんだな。全く驚きだ」


「ああ。オレもビックリだった。まさかエリちゃんにバレていたとはな。それにオレもエリちゃんのことは全く気づけなかった」


「そうか……でも海斗はナイスフォローだったな」


「ああ、本当に海斗には感謝してるよ。海斗がいなかったら、こんな風に話は落ち着かなかったと思う。変な話だけど、オレはこれで少しでも海斗の思いが届いてくれるといいなって、勝手に思ってる。」


「そうだな……て言っても、最後は当人同士の問題だけどな」


「ああ、その通りだ」


「それで……誠治は結局のところ、綾音とはどうなんだ?」


「ど、どうなんだって……」

 お前がそれを聞くか?


「今まで通りだよ。オレがそうしてくれって頼んだんだ。てか『今オレが綾音に告ったって振られるだけだろ?』って聞いたら、『そうだけど……』って即答されたわ」


「そうなのか?」


「そうなんだよ」

 オレは少しヤケになってそう言った。


「……でも最近、いい感じじゃないのか?」


「だからそれはいろいろあったからだろ? オレは逆にちょっとやりにくいわ」


「……俺にできることはないか?」


「やめてくれよ!」

 オレは声が大きくなってしまった。

 冗談じゃねぇ。


「そ、そうか」


「あ、ある。あるぞ。瑛太にできること」


「おお、なんだ?」


「何もしないでくれ」


「……ん?」


「オレと綾音のことは、できるだけ触れないでくれ。今まで通り、冷やかすことも茶化すことも止めてほしい。そっとしといてくれ」


「……そうか。わかった」


「頼むぞ」


 オレはふぅっとため息を吐いた。

 それから瑛太とポツリポツリと話したが、いつの間にかオレたちは意識を手放していた。

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