No.140:バリ島の料理
俺と誠治は、香織さんともLimeの交換をした。
詩織さんのLimeは変わっていない。
これで4人とも、連絡が取り合える。
せっかくなので店員さんに写真を撮ってもらって、4人でシェアした。
旅のいい記念だ。
俺たち4人は、カフェで一旦別れた。
俺は誠治と二人で、引き続きホテル近辺を歩いて散策する。
するとコンビニらしきお店を発見した。
俺たちはビールやジュース、それと菓子類を買い込む。
日本のメーカーのカップ麺もあったので、一応それも買っておいた。
ホテルに戻ると、まだ夕方まで時間がある。
俺たちは冷えたビールを持って、ホテルのプライベートビーチへ向かった。
海を眺めながらビールを飲み、ビーチサイドベッドで横たわる。
幸せな気分だ。
ところが……30分ぐらいすると、空が急に厚い雲に覆われ始めた。
すると海の方から、サーッという音と共に雨足がこちらへ向かってくるのがわかった。
あっという間に俺たちは、激しい雨に包まれる。
他のお客さんたちと同様、俺たちも急いで部屋に戻った。
「さっきまで、あんなに天気が良かったのにな」
誠治が部屋の窓から外を眺めながらそう言った。
「そうだな。これがスコールってやつなのかな」
熱帯特有の天気だろう。
俺たちは部屋に備え付けのインスタントコーヒーを淹れて、小休止することにした。
デザート代わりに、ウェルカムフルーツの残りも少しつまんだ。
少しの間ベッドの上でウトウトしていたら、あっという間に夕方の時間になった。
俺たちは急いで着替えると、詩織さんから「20分ぐらいで迎えに行くから」とLimeが送られてきた。
ラッキーなことに、あの激しい雨はもうすっかり止んでいた。
俺たちはロビーに出て待っていると、四駆の日本車がエントランスへ入ってきた。
詩織さんと香織さんだ。
「ちょっと狭いけど我慢してね」
俺たちは後部座席に乗り込むと、運転手の香織さんはそう声をかけてくれた。
「地元の人達が行くような、屋台村に行くからね。安くて美味しいんだけど……お腹壊さないように、ちゃんと火が通ったものを食べるようにしてね」
「うわ、やったー! オレ、そういう所行きたかったんですよ」
「俺もです」
「そう? よかったわ」
香織さんが10分ぐらい運転すると、バイクが沢山停まっているエリアに到着した。
どうやらここが屋台村らしい。
車を止めて、俺たち4人は歩いて移動する。
すると10台ぐらいの屋台が並んでいるエリアがあった。
まだ夕食時間には早いが、それでも結構賑わっていた。
「適当に買って、シェアしようね」
そう言う香織さんの後に、俺も誠治も詩織さんも黙ってついていく。
いきなり最初の屋台では……子豚がまるごとローストされていた。
「バビグリンって言って豚の丸焼きなんだけど、これが美味しいのよ」
香織さんは迷わず購入した。
もちろん子豚まるごとではなく、スライスされたものだ。
香織さんは次の屋台に移動すると、インドネシア語でおじさんに何か注文した。
するとおじさんは大きな葉っぱに白飯をよそって、その上におかずをいくつか乗せた。
それを人数分作ってくれる。
「これはナシジンゴね。バリと言えば、これよ」
誠治が香織さんに「サテアヤムはありますか?」と訊いたので、香織さんはサテアヤムの屋台に移動してくれた。
サテアヤム以外にも、魚の串焼きのサテイカンも購入。
最後に温野菜のガドガドとボトルの水を買って、俺たちはテーブル席に座った。
「ビールのほうがよかった?」
「いえ。昼間から飲んでいたので、もう十分です」
俺は香織さんにそう答えた。
さっそく俺たちは食べ始めた。
葉っぱに包まれたナシジンゴを開いた。
この大きな葉っぱは、バナナの葉らしい。
白米の上にミーゴレンが乗っている。
その他にも……これはピーナッツだろうか。豆腐のようなものも入っていて、唐辛子の調味料で味付けされているようだ。
ローカルの人達は手で食べるらしいが、香織さんは俺たちのためにプラスチックのスプーンを用意してくれていた。
ナシジンゴをスプーンで掬って食べてみる。
「あ、辛いけど美味しい!」
そんな言葉が俺の口からこぼれた。
辛いだけでなく、甘辛い味付けは日本人の好みにも合う。
あ、でも……辛さの方が後からやって来る感じ。
とても刺激的だ。
「あ、サテアヤム旨い! 辛いけど旨いです!」
「確かに。辛いけど、後を引くね」
焼き鳥を口にした誠治も詩織さんも、すっかり気に入ったようだった。
シェアした食べ物は、全て美味しかった。
豚の丸焼きのバビグリンも魚の串焼きも。
温野菜サラダのガドガドは、ピーナッツソースが絶品だった。
俺はこのガドガドを、日本に帰ってから作ってみようと心に決めた。
周りを見渡すと……実はさっきから視線を感じていた。
この屋台村はローカルの人たち向けで、観光客など見当たらない。
ほとんどの人がバイクやバスでやって来るような、現地の労働者階級の人たち向けだ。
その中で日本人4人が混じっている。
それは目を引くだろう。
逆に言えば、ここでの食事は本当の意味でのローカルフードだ。
そして味も美味しい。
俺たちにとってはとても貴重な体験で、こういうところに連れてきてくれた香織さんには感謝しかない。
「あの……お金出して貰っちゃってすいませんでした。自分たちの分は払いますから」
俺は遠慮がちに、そう言った。
「ここの分は大丈夫。私がご馳走するわ。って言っても全部で日本円で2千円もかかってないわよ」
「マジですか……」
俺はかなり満腹になったが、それでも一人五百円もかかっていないらしい。
ホテルのレストランやお昼に行ったカフェレストランが、いかに観光地価格かということがよく分かる。
「すいません……じゃあ別の機会に、ご馳走させて下さい」
「そうね。そうしてもらおっかな」
香織さんは悪戯っぽく笑いながら、そう言った。
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