No.137:予期せぬ再会
翌朝俺たちは、早い時間に目を覚ました。
部屋のバルコニーから外を眺めると、綺麗に手入れされた中庭の向こうにプールが見えた。
「これ、絶対にカップル向けの部屋じゃね?」
「ああ。カップルか、ファミリーだな。少なくとも男二人で泊まるホテルじゃない」
俺たちは着替えると、さっそく朝食を食べに部屋を出る。
朝食は昨日夕食を食べたところとはまた別の、中央ロビー近くの大きなレストランだった。
受付で朝食のクーポンを手渡して、中に進む。
明るく広いスペースに、食べ物がたくさん並ぶビュッフェスタイルの朝食だ。
「うわっ」「スゲーな」
俺も誠治も、思わず声が出てしまった。
食べものの種類がとにかく豊富で、どれから手をつければいいかわからないくらいだ。
ラッキーなことに、今朝は天気がいい。
せっかくなので、俺たちは外のテラス席に陣取った。
俺たちはプレートを片手に、食べ物を物色する。
洋食、インドネシア料理、中華と用意されていて、さらに和食コーナーまである。
マグロの刺身や巻きずし、味噌汁まで用意されている。
卵料理はシェフに言うと、好みの調理をしてくれる。
もちろんサラダバー、フルーツバーもあり、さらには好みのフルーツで生ジュースを作ってくれるジュースバーまであった。
俺たちは興奮気味に、気に入った食べ物を少しずつ取っていった。
和洋中イと、まったく統一感のないセレクトになってしまったが。
さすが5つ星ホテルだ。
全てが美味しい。
俺はミークアにシュウマイ、海苔巻きにスクランブルエッグという通常では絶対に食べられないような組み合わせになってしまった。
更にサラダとフルーツ、オレンジジュースにグアバジュースといった具合。
誠治のプレートを見ると、同じようなセレクトになっていた。
何度か食べ物を取りに行くと、さすがに満腹になった。
食後のコーヒーを飲みながら、今日の予定を立てる。
「今日の午前中は天気がいいらしい。せっかくだから、プールか海で泳ごうぜ」
「そうだな。腹ごなしに少しは泳いだほうが良さそうだ」
俺たちは部屋に戻り少し休憩した後、Tシャツ・海パン姿でメインプールに向かう。
このプールのすぐ向こう側がプライベートビーチになっていて、手前から見ると海とプールが繋がっているように見える。
とてもお洒落な作りになっているのだ。
プールに入りながら、海を眺める。
外気はそれほど暑くはないが、プールの水もそれほど冷たくはない。
とても贅沢な時間だ。
俺たちは少しプールで泳いだあと、椰子の木が点在する目の前のビーチへ移動する。
綺麗に整備された、ホテルのプライベートビーチだ。
海に入っている白人カップル以外は、ビーチも閑散としていた。
「いやー、贅沢だなー」
「本当だ。初海外で、ここまで贅沢だとこれからが大変だ。とりあえず誠治には感謝だな」
「ああ、
「誰だよ」
「いやでも、本当に男二人はもったいねーな」
「だから俺もずっとそう言ってるだろ?」
「これ、ハネムーンの時に当たってほしかったわ」
「違いないな」
ビーチに座りながら、俺たちは他愛もない話をする。
こんな素敵なリゾートホテルに、彼女と一緒に来るような未来がやってくるんだろうか。
そして……その相手は誰なんだろう……。
しばらくプールとビーチを楽しんだら、身体も少し冷えてきた。
俺たちは部屋に戻ることにした。
着替えてホテルの外に出る準備をする。
熱帯の国なので、さすがに外は暑い。
2月の東京から来た俺たちの身体には、ちょっと慣れない。
ホテルのロビーに出て、日本語デスクへ向かった。
今日もヤニーさんが、素敵な笑顔で出迎えてくれた。
ヤニーさんにホテルの近くでオススメのレストランを訊いてみた。
できれば予算的にも手頃なところで。
「ジンバランビーチ沿いにはカフェやレストランがあって、どこも景色が素敵なのですが……やはり観光地価格で高いところが多いですね」
確かにビーチからの景色は最高だ。
ただ景色だけだったら、ホテルのプライベートビーチだって十分素敵だ。
「ビーチから離れるのですが、オススメのお店があります。ラオス人とフランス人の夫婦でやってるカフェレストランなのですが、カレーとかもありますよ。日本人にも人気のお店です」
「え、なにそれ。絶対美味そうなヤツじゃん」
誠治が食いつく。
ヤニーさんに場所を教えてもらった。
ホテルから歩いて5分もかからないくらいで、目と鼻の先だ。
ホテルのゲートを抜けるとすぐに、2-3人の客引きに会う。
「タクシー? オミヤゲ?」という片言の日本語を聞き流しながら、俺たちは通り過ぎていく。
目的地のカフェレストランは、すぐに見つかった。
レストラン内は白を貴重とした、とてもお洒落な雰囲気だ。
席に案内され、メニューを見る。
確かにホテルのレストランよりは安い。
俺はチキンステーキを、誠治はポークカレーを注文した。
それとジンジャエールを二つ。
あらためて店内を見渡した。
お昼時なので、それなりに混雑している。
見る限り西洋人のお客さんがほとんどだ。
あと綺麗な黒髪の、中国人らしい女性客もいる。
「こういうメニューで日本でもやったら、流行りそうだな。アジアと西欧料理の融合みたいな?」
「ああ。こういう感じの店、日本になさそうだし」
誠治の考えに、俺も同意する。
それに誠治は行動力もあるので、本当に将来やりかねない。
俺は店の奥にあるトイレに向かった。
中国人らしいと思っていた、2人組の女性の横を通る。
「うん、なかなか美味しいね。学生の時にバイトしてたところがイタリアンだったから、こういうアジア系の料理は珍しいよ」
「でしょ? ここの料理はハズレがないわよ」
思いっきり日本語の会話が聞こえてきた。
しかも、この声……。
「あっ!」
「えー⁉」
俺はテーブルに座っていた綺麗な黒髪を後ろで纏めた女性と、顔を見合わせた。
びっくりし過ぎて、すぐには次の言葉がでてこなかった。
「詩織さん……」
「瑛太君じゃないか」
その女性は去年までヴィチーノのバイトで散々お世話になった、詩織さんだった。
「詩織? お友達なの?」
「そうなんだよ、姉さん。今話してた学生の時にバイトしてたイタリアンのお店の後輩なんだ」
「し、詩織さんじゃないですか!」
後ろから誠治が、驚きの表情でやって来た。
「うわっ! 誠治君まで! これはいったいどういうことだい?」
「それはこっちが聞きたいですよ!」
全く予期せぬ再会に、俺たちは盛り上がっていた。
店の中で、明らかに目立っていた。
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