No.134:思ってた展開って?


「ううっ……なんだか思ってたのと展開が違います!」


 目の前のホットプレートからは、ジュウジュウと美味しそうな音が聞こえる。

 かつお節と青のりとソースを用意する俺の向かいで、明日菜ちゃんは涙目でいろいろと納得がいかない様子だった。


「思ってた展開って?」

 俺は茶化して訊いてみた。


「もっとこう……甘い雰囲気になる予定でした」


「甘い雰囲気になった方がよかった?」


「……もう……やっぱり瑛太さんは意地悪です」

 恥ずかしそうに俯いた明日菜ちゃんは、耳の先まで赤い。


「ごめんごめん。とりあえず食べよっか」


 お好み焼きをひっくり返し、ソース、青のり、かつお節をかける。

 お皿に取り分けて、二人でいただきますをした。

 お好み焼きを頬張ると、桜えびの香ばしさが口いっぱいに広がる。


「そういえばさ……いろいろあった件って、もう全部解決したんだよね?」

 俺は気になっていたことを、ちょっと明日菜ちゃんに訊いてみた。


「えっ? は、はい。全部解決したみたいですよ」

 明日菜ちゃんは、少し目を泳がせながらそう言った。


「そっか……それならいいんだ」


「な、何か、気になること、ありましたか?」


「いや、なんていうか……誠治と綾音の二人が、なんとなく……」


「?……雰囲気が良くないんですか?」

 明日菜ちゃんが心配そうに訊いてきた。


「いやいや、その逆。なんか仲が良くなったというか、近いというか……」


「へっ?」

 俺の返答が予想外だったのか……明日菜ちゃんが少し固まった。


「そ、そんなこと……あるんですかね」


「いや、ひょっとしたら俺の勘違いかもしれないけど……」


「そ、そうですよ。きっと瑛太さんの勘違いです」


「でも俺、そういうの分かる方だと思うんだけどな」


「どの口が言ってるんですかっ!」

 明日菜ちゃんが一瞬にして、マジモードで怒ってきた。


「え? ご、ごめん……」


「はっ……ご、ごめんなさい。ちょっと……興奮してしまいました……」

 明日菜ちゃんがコップの水を、ゴクゴクと飲む。


「あの……瑛太さんと誠治さん、週末バリ島に行くじゃないですか」


「ん? ああ、そうだね。早いなあ……20日出発だからね」


「そのときに、誠治さんとそういう話になるんじゃないでしょうか」


「あ、そうか……そうだね」


 男二人で3泊もするわけだ。

 時間はたっぷりある。

 もちろん無理して訊くこともないだろうけど……。


「お土産、あまり気を使わないでくださいね」


「……それ、フリだよね?」


「フリじゃないですよ」

 明日菜ちゃんはいつもの笑顔に戻っていた。


「スーツケースの重量制限もあるじゃないですか。だから小さくて軽いものでお願いしますね。本当はお土産なしでもいいぐらいです」


「そういう訳にもいかないでしょ?」


「いいえ、本当に……無事に帰ってきてもらえれば、それがお土産ですから」


「……それって、死亡フラグ?」


「そうじゃないですよ」

 明日菜ちゃんは、ケラケラと笑った。


「でも……本当にラッキーですよね。ホテルも5つ星ですし……羨ましいです」


「本当にそうだよね。男二人で行くには、もったいないと思ったよ」


 それから俺と明日菜ちゃんは、週末からのバリ島旅行の話で盛り上がった。

 お好み焼きを食べた後、コーヒーを淹れてチョコレートの箱を開けた。

 明日菜ちゃんお手製のトリュフとチョコブラウニーは、予想通り絶品だった。

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