No.133:そしてもう一つの手作りチョコ
今日は日曜日。
久しぶりに明日菜ちゃんと、お好み焼きの日だ。
昼過ぎに準備をしていると、チャイムが鳴った。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ」
いつものように、明日菜ちゃんが部屋へ入ってくる。
コートを脱いだ明日菜ちゃんは、白いタイトのミニに、淡いパープルブルーのブラウス。
薄手の黒いタイツは、その綺麗な足をよけいに引き締めて見せていた。
「はい、今日の差し入れです」
「いつもありがとう。今日は何かな?」
袋の中を見ると、マフィンが10個ぐらい入っていた。
「今日のはブルーベリーマフィンです。私も食べましたけど、結構美味しいです。自画自賛ですけど」
「美味しそうだね。ありがたくいただくよ。それからこれは桜えびと……貝柱かな?」
「はい。お母さんがご近所さんから、ホタテをたくさん頂いたみたいで」
「そうなんだ」
ホタテをたくさん頂くシチュエーションって……ちょっと想像がつかないんたけど。
とりあえず、桜えびにホタテ。
豪勢なお好み焼きになるのは、間違いなかった。
俺はキッチンに回って、お好み焼きのタネを作り始める。
すると明日菜ちゃんもキッチンの方へ近づいてきた。
手にはリボンのかかった箱を持っている。
「それから瑛太さん。これ、チョコです」
「ああ、ありがとう」
「瑛太さん」
明日菜ちゃんの顔が、真剣になった。
頬が少し紅潮していて、こっちまで緊張が伝わってくる。
「こ、これは、本命チョコでしゅきゃらっ!」
「……」
盛大に噛んだ明日菜ちゃんだった。
「……ぷっ」
「なっ……」
明日菜ちゃんの顔が、みるみるうちに真っ赤に染まった。
「な、なんですか! 笑うなんてひどいです!」
明日菜ちゃんが、俺の腕をペシペシと叩いてくる。
「あははは、ごめんごめん。なんだか可愛くって」
「ううっ……噛んでしまいました。大事なとこだったのに……」
下を向きながら、まだ俺の腕をペシペシしてくる。
「ありがとう。でも、急にどうしたの?」
「……そうですね。私も勇気を出さないとって、思っただけです」
「?……そうなんだね」
「ああでも……その……いますぐ答えが欲しいわけじゃないんですよ。逆にその……答えは遅いほうがいいというか……」
「?」
「まずその……いろいろとフェアじゃないこともありますし……」
多分美桜のことを言ってるのかな……?
「それに……もし変なふうになっちゃったらですね……その……私も居づらいと言うか……」
「ああ……でもそれは大丈夫だよ」
俺は笑って答える。
「もし俺が明日菜ちゃんと恋人関係にならなくても……俺は明日菜ちゃんとこうしてお好み焼きを食べたいと思うな」
「……本当にそう思ってくれてますか?」
「もちろんだよ。ああでも……俺が他に彼女ができたら、そうもいかないのか」
「そうですよ。そうもいかないんですよ」
「でも……そんな未来、全然想像つかないや」
「想像つかなくても、なるときはなるんだと思います」
明日菜ちゃんは少し寂しそうに笑った。
「だから瑛太さん」
それでもまた、まっすぐに俺の顔を見た。
「これは本命チョコなんでしゅっ!」
……どうしても大事なところで、噛んでしまう明日菜ちゃんだった。
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