No.131:もう一つの手作りチョコ
「はい、海斗」
「おおっ、サンキュー、エリ」
エリの部屋のベッドの横に座り込んでいた海斗に、チョコを渡した。
「って、おい! これ手作りか?」
「そうだよ」
「そうだよって……エリの手作りのチョコなんて、中学以来じゃないか?」
「うーん、そうかもね」
「そうかもねって……どういう風の吹き回しだ?」
「どういうって……なに、いらないの?」
「いや、いるいる。いるけどさ……ひょっとして、誠治先輩に作ったチョコの練習用とか?」
「……マジで返して!」
「ちょ! 悪い、ごめん! ごめんて!」
エリが海斗の手元からチョコを奪い返そうとすると、海斗は必死にチョコを隠した。
「……誠治さんには、もう渡したよ。ダンキで買ってきたやつ」
「……そうなのか?」
いちいちそんな反応をされても、困るんだけど……。
それに……自分では誠治さんのことは、随分心の整理がついたと思ってる。
誰かさんのおかげでね。
完全に消化するには、もう少し時間がかかるかもしれないけど……。
あの日、昭和純喫茶に行った帰り道。
心の中がグチャグチャだったエリを、海斗は迎えに来てくれた。
海斗はエリが誠治さんと遊びに行ったことを、なんとなく察した。
「誠治先輩に、何かされたのか?」
怒りを込めた低い声で訊いてきた海斗に、エリは全面的に否定した。
そして、エリが誠治さんに言ってはいけないことを言ってしまった、とだけ答えた。
詳しくは今は言えないと。
翌日エリは大学を休んだ。
とてもじゃないけど、行けるような状態じゃなかった。
でも海斗は誠治さんを問い詰めて、結局全てを聞いたようだった。
そしてその日の夜から、連日海斗は家に押しかけてきた。
エリのことを心配していたお母さんにも、海斗は「エリ、ちょっと大学でいろいろあったみたいッスけど、大丈夫ですから」と話をしてくれた。
海斗はほとんど家族のようなものだから、お母さんも安心したと思う。
エリは誠治さんにも綾音さんにも、合わせる顔がなかった。
自分の居場所を無くしたのは、エリ自身のせいだ。
これからどうやって大学に行こうか……そればっかり考えていた。
でも海斗に説得された。
誠治さんも綾音さんも、待ってくれていると。
大丈夫だ、心配するなと。
俺も一緒にいるからと。
それでもエリは、ウジウジと考えていた。
なかなか行動に移せなかった。
どうすればいいか……分からなかった。
海斗はエリの部屋に押しかけてきては、いろいろアドバイスをしてくれた。
「とりあえずシンプルにメッセ送ればいいんじゃね?」
日曜日までなかなか行動できなかったエリにしびれを切らして、一緒にLimeの文面まで考えてくれた。
シンプルに今の気持ちを書いた。
その方が伝わるぞと、海斗も言ってくれた。
エリ:本当にいろいろとすいませんでした。とても反省してます。許されることじゃないかもしれませんが、やっぱり皆と一緒にいたいです。
エリはとにかく謝りたかった。
それに……やっぱりあの場所を失いたくなかったんだ。
すぐに綾音さんが反応してくれた。
そして誠治さんも。
隣でエリのスマホを覗き見していた海斗は、すぐに自分のスマホから翌日のランチを一括送信で提案してくれた。
その日のランチでどうなるかわからない。
だけど……一つ前進できた。
そしてそれは、海斗がいてくれたから。
海斗がエリの横に、いてくれたからだ。
結局エリの謝罪は受け入れられた。
誠治さんも綾音さんも、一緒にいることを許してくれた。
綾音さんはとても心配してくれてたみたいで、第二学食で会ったときには泣かれてしまった。
結局またいつものメンバーで、集まれるようになった。
もちろんそれぞれの関係性は変化した。
「それは自然なことだろ?」と、海斗は笑っていたけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます