No.130:手作りチョコ


「あーもう、超疲れたぁー」

「いやー凄かったな。オレどんだけドリンク作ったか」

「料理運びすぎて、腕がパンパンだ」


 バイトを終えた俺たち3人は、吉祥寺駅近くのサンマルコカフェにいる。

 確かに誠治はずっとドリンクを作っていたし、俺と綾音は料理を運んだり後片付けに駆けずり回っていた。

 まかないも食べたのでお腹は満たされていた。

 綾音がチョコレートを渡したいというので、お茶でもしようということになった。 


「はい、じゃあこれね」


 それは去年と同じく、ベルギーブランドの包装紙。

 誰もが知る、高級チョコブランドのやつだ。


「はあ……今年もオレと瑛太、同じチョコなんだな」


「うん、そうだよ」

 綾音はニコニコ笑っている。


「え? なになに? 誠治は本命チョコとか、欲しかったの?」

 綾音はからかい気味に言ってきた。


「は? お、おま……それはズリーだろ?」

 誠治があからさまにたじろいでいる。


「ふふっ、ごめんごめん。冗談だよ」


「まったく、勘弁してくれ……」


「?」

 

 いつも通りのやり取りのようだったが、俺は少し違和感を覚えた。


「綾音は春休み、北海道に帰るのか?」

 誠治が話を変える。


「うん、3月に帰ろうと思ってる」


「じゃあバリのお土産も、その前に渡せるな?」


「そうだね。あ、じゃあさ、ホワイトデーのお返しも兼ねて、何かお土産買ってきてよ」


「そんなんでいいのか? わかった。ちょっと奮発して買ってくるわ」


 二人のやり取りを聞いたあと、俺はカバンの中から小箱を取り出した。


「ほい、これ。美桜から誠治君にどーぞって」


「お、そうなの? やりぃ、チョコ1個ゲット!」


「へぇ、それ明らかに手作りだねぇ」


「ん? まあそんな感じだな」


「瑛太も貰ったんだよね?」


「ああ。俺のは少し大きい箱だったけど、中身はまあ変わらないだろ」


「そっか」


「どれどれ……美桜ちゃんからのチョコ、どんなんだろう」

 誠治はおもむろに、包み紙を剥がし始めた。


「ちょ、ちょっと。こういうのは家に帰ってから、ありがたく頂くもんじゃないの?」


「瑛太のチョコはそうだろうけど、オレのはいいんじゃねーか? それに綾音も食べてみたいだろ? ちょっと試食してみろよ」


 誠治はあっという間に包装をはがして、箱を開ける。

 そこにはトリュフと思われるチョコレートが、6個鎮座していた。


「うわー、美味しそー。こんなの手作りでできるんだね」


「どれどれ、味の方は、と……綾音も1個どーぞ」


「……いいの?」


「もちろん。うわっ、うめーなこれ」


「どれどれ……本当だ! あー洋酒が効いてるわね。ラム酒かな?」


「いや、ブランデーだろ?」


「あ、そっか。さすが酒屋の息子」


「これぐらいなら、酒屋じゃなくったってわかるわ」


 俺の目の前で、二人が美桜からのチョコで盛り上がっていた。


「なあ。なんか今日二人とも、やけに仲良くない?」

 

「は?」「へ?」


 俺は思ったことを口にしただけだったが、二人共なんだか面食らっている。


「なっ、そ、そんなわけねーだろ? いつもどーりだ」

「そ、そうよ! なに言ってるのよ」


 あからさまに焦った様子の二人だった。


「そ、そうだ、美桜ちゃんにLimeしとこ……えーっと……誠治のチョコ1個貰いました。めっちゃ美味しかった! と、それから……これなら瑛太も、きっと喜ぶよね……っと」

 

「……そういうのこそ、家に帰ってからやってほしいんだが」

「ああもう……なんかいろいろと、どーでもよくなってきた……」


 俺と誠治のため息をよそに、綾音は美桜へ送るLimeの文面を考えていた。

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