No.126:やっぱり皆と一緒にいたいです


 その翌々日、日曜日の夕方。

 エリちゃんから、Limeのメッセージが送られてきた。

 オレと綾音への、同時送信だった。


 エリちゃん:本当にいろいろとすいませんでした。とても反省してます。許されることじゃないかもしれませんが、やっぱり皆と一緒にいたいです。


 簡潔で正直な、エリちゃんらしい文章だ。

 綾音がすぐに反応した。


 綾音:気にしなくていいよ! ウチの方こそエリちゃんのことも誠治のことも、全然気づけなくてゴメンね。ウチだってエリちゃんと一緒にいたいよ!


 誠治:全然気にしないでくれ。オレの方こそ、気づいてやれなくてゴメンな。


 こんなやり取りが少し続いていたのだが、すぐに別のメッセージが入ってきた。


 海斗:明日のお昼、4人で第二学食でランチとかどうスか?


 海斗から、オレ・綾音・エリちゃんへの同時送信だ。

 第二学食とはオレ達がいつも集合している第一学食とは反対側の、学校の裏門近くにある学食のことで、通称二食。

 小洒落た洋風のメニューが多く女性に人気だが、ボリュームが少なくて値段も少し高い。

 なにより法学部の棟から遠いので、オレ自身あまり利用したことがなかった。


 それにしても、海斗がこのタイミングで……。

 

 綾音:行く行く! 久しぶりに二食の日替わりランチ食べたい!

 誠治:おーいいなー。12時集合でいいか?

 海斗:はい。じゃあ席取っておきますね。


 この間、エリちゃんはメッセージには登場しなかった。

 つまり……海斗と一緒にいるということだろう。

 多分海斗が主導でメッセージを考えてあげて、そのあとすぐにランチをアレンジした。

 そんなとこだろうな……。


 オレは海斗に感謝した。

 それと同時に……海斗の気持ちが痛いほど理解できた。

 好きな子の居場所を確保するためだったら、どんな苦労だっていとわない。

 その気持が、痛いほど。


 翌日、オレたち4人は二食に集合した。


「誠治先輩、こっちッス」


 4人用のテーブルに、海斗とエリちゃんは先に座っていた。


「おまたせ」

 オレはエリちゃんの正面、海斗の横の席に座る。


「誠治さん、本当にいろいろとすいませんでした。ごめんなさい」


「全然だよ。こっちこそだ」


 するとすぐに学食の入り口から、綾音がオレたちを見つけて小走りにやってきた。


「エリちゃん!」


「綾音さんも、いろいろとすいませんでした。ごめんなさい」


「いいんだよ! こっちこそゴメンね。ウチ、全然気がつかなくって……」


 そこまで言い終わると、綾音が急に泣き始めた。


「綾音……」


「もう……心配だったんだよ! エリちゃん、もう戻って来ないかもって! もう一緒に遊びにも行けないかもって! そんなのウチ、絶対に嫌だったんだよ!」


「綾音さん……」


 綾音の目からポロポロと涙がこぼれる。

 少しの間、綾音の嗚咽が続いた。

 エリちゃんも、目元を真っ赤にしている。


「綾音、大丈夫だ。それに……綾音が泣くことないだろ?」


「そうだけど……」


 オレは綾音の背中をゆっくりとさすってやった。

 その泣き顔を見て、ふと思いだした。

 ああ、そうだった。

 オレは綾音の、こういう情が深い所も好きだったんだなって。


 しばらくすると、綾音の嗚咽はおさまった。


「エリも……怖かったんです。もう元には戻れないかもって……」


「だから心配ないって言ったろ? 誠治先輩も綾音先輩も、そんな人じゃないって」


「そうだけど……」


「そうだよ。オレも綾音も、それに他の連中だって、そんな薄情なヤツは一人もいないぞ」


「そうよ。だからエリちゃん、気にしないでね」


 なんとか丸くおさまりそうだな。

 本当に……海斗には感謝だ。

 できればこの二人も、丸く収まってほしいのだが……。

 まあそれは当人同士の問題だ。


「俺、腹へったッス」


「オレもだ」「ウチも」


 オレたちは4人で、食券を買いに行く。

 今日の日替わりランチはミックスフライだ。

 オレと海斗は、ライス大盛りの食券を買った。


        ◆◆◆


「あれ? 今日は俺と明日菜ちゃんだけ?」


「は、はい……そうみたいですね」


 いつもの学食。

 いつもの席。

 でも……いつもの7人は揃ってなかった。


「皆、どこいったんだろう?」


「えっと……いろいろあったみたいです。実は昨日の夜、エリから電話があって……ちょっと長話になっちゃいました」


「そうなんだ……」


「瑛太さん」


 明日菜ちゃんが真剣な表情で、俺を見据える。


「その……皆いろいろあったっていうか……でもエリには言わないでほしいって言われてて……でも皆すぐにまた元に戻ると思うんです」


「……そうなの?」


「はい。瑛太さんはちょっと気持ち悪いかもしれないですけど……少しの間だけ、何も気がつかないフリをしていただけませんか?」


「フリも何も……俺は実際何が起こってるかわかんないし」


「すいません。いずれわかることだと思うんですけど……私もお話しできるようになったら、絶対にお教えしますから。」


「そっか……わかった」


「本当にすいません……」


 おそらくエリちゃん、誠治、綾音が関係していることなんだろうな。

 でも……詮索するのはやめよう。

 誰だって知ってほしくないことの一つや二つあるだろう。

 俺たちは二人でランチを食べながら、来週から始まる試験について話し始めた。


 そして翌日の昼休み。

 俺たち7人は、全員がいつもの学食に集まった。

 いつもとかわりなく、バカ話をしながら騒いでいた。

 誠治もエリちゃんも綾音も、皆いつも通りだ。

 

 明日菜ちゃんの言ったとおりになった。

 俺は何があったのか、訊くことはしなかった。

 多分明日菜ちゃんの言う通り、今は訊いちゃいけない。

 わかるときが来たら自然にわかるだろう。

 そんな風に思った。

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