No.118 第2章最終話:好奇心


「うー……寒い。」


 木曜日の午後。

 ウチはジャケットの襟を立てて、吉祥寺の駅を目指して歩いていく。


 遠縁のおばさんが吉祥寺に住んでいるので、たまに顔を出している。

 北海道の両親から「たまに顔を出してやってほしい」と頼まれていることもある。

 80歳を超え一人暮らしのおばさんは、ウチが遊びに行くとそれはそれは喜んでくれる。

 まるで本当の孫が来たかのように歓迎してくれるのだ。

 今日もこの冬の時期にメロンを出してくれて、もてなしてくれた。

 またそれがとんでもなく甘い。 


「この時期のメロンって、高いんだろうな……そんなに気を使わなくてもいいのに」

 

 ウチは一人で呟きながら、ここ最近の事を考えながら歩く。


 この一年で、ウチの周りの環境は変わった。

 いや、「ウチら」というべきかもしれない。

 誠治と瑛太と3人でツルんでいた生活は一変した。

 二人のJKは明青大生となり、その従兄弟と友達が加わって7人グループになった。

 そして……さらに瑛太の元カノも加わって、8人グループに。

 一気に賑やかになった。


 ウチの想い人は、あいかわらず鈍感だ。

 瑛太はウチの想いに気づいている片鱗すら見受けられない。

 それどころか明日菜ちゃんからの想いでさえ、ゆっくり見守っている感がある。

 それに……美桜ちゃんに対してもそうだ。


 瑛太はウチ達全員に対して、フラットだ。

 多分意識的にそうしているのだろう。

 もしかしたら瑛太自身が「ずっとこのままでいたい」と思っているのかもしれない。

 微妙なパワーバランスの中で、ウチたちの時間が過ぎているのを感じる。


 実は……ウチも似たようなものかもしれない。

 とにかく今の環境が気に入っている。

 皆で学園祭に出店したり、バーベキューに行ったり、クリパしたり……。

 キャンパスライフと余すところなく満喫している。


 もしウチが変に動いて、グループの中の関係が悪くなったら。

 パワーバランスが崩れてしまったら。

 この楽しい毎日は、あっけなく崩壊してしまうかもしれない。

 ウチはそれが何より怖い。


 結局は……ウチに勇気がないだけなのだろう。

 それを恐れず、自分の気持を突き進めていくだけの勇気が。

 それでも……


「結局決めるのは、瑛太だしね」


 ウチがとやかく思っていても仕方ない部分もある。

 恋愛は一人じゃできない。

 相手の気持ちが重要だ。

 このままでいいよね?

 そんな思考ループを、今まで何回繰り返してきたことか……。


 ウチは小さく嘆息する。

 いろいろ考えていたら、お腹が空いてきた。

 なにか食べて帰ろうかな。

 この時間、ヴィチーノはまだディナータイム前だ。


 ふと前を見上げると……


「あれれ?」


 見知った2人組の後ろ姿を発見。

 間違いない。

 誠治とエリちゃんだ。

 ちょっと微妙な距離感だが、仲良さそうに歩いている。


 この二人は付き合ってはいない。

 少なくとも二人からはそう聞いているし、ウソじゃないと思う。

 ただこの二人、家が近いこともあって仲がいい。

 時間があると二人でお茶をしたりすることもあるらしい。

 ウチも瑛太ともう少し家が近かったらなぁ……そんな詮無きことを考える。


 あの二人、どこ行くんだろ?

 まさか……。

 吉祥寺には『ご休憩』できるホテルも点在する。

 ……いや、さすがにそれはないでしょ?


 きっとお茶かご飯か、一緒に行くんだろう。

 新しいお店でもできたのかな?

 

 ウチは好奇心が湧いた。

 よし、ちょっと後をつけちゃおう。

 こっそり同じ店に入って、サプライズなんて面白いよね?


 ウチはなんだかワクワクしていた。

 もうすっかり探偵気分だった。

 二人の後を気付かれないように、間隔をあけてゆっくりとついていく。




 こんな言葉がある。


 好奇心は猫を殺す。


 でも……その辞書の言葉は、訂正した方がいい。

 


『好奇心は自分を殺す』

 


 ウチはこの後すぐに人生最大の後悔がやってくることを、この時はまだ知らなかった。



*明日より第三章へ突入します。

 よろしければ、ここまでの評価やレビューを入れていただけると嬉しいです。

 今後の励みになります。

 

 引き続きお楽しみ下さい。

 よろしくお願いします。


 たかなしポン太

 

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