No.117:祭りが終わって……


 翌日も、俺たちの屋台は大盛況だった。

 誠治はSNSで情報拡散しようかと考えていたようだったが、それは取りやめた。

 これ以上客数が増えても、焼きそばの生産能力が限界だからだ。

 鉄板をもう一つ増やせばいいのだが、人数的にも運搬キャパからも不可能だ。

 俺たちは昨日と同じ戦略で臨むことにした。


 やはり女性陣の集客力が絶大だ。

 人通りも、昨日より多い気がする。

 俺たちはとにかく焼き続け、売り続けた。

 完売になったのは、昨日よりも早い午後4時。

 売上330食は、昨日よりも1割以上多かった。


 俺たちはその夜、綾音のマンションで盛大な打ち上げを開催した。

 誠治の運転もあるので全員ソフトドリンクだったが、皆そのテンションは普通じゃなかった。

 声を張り上げて、呼び込みをしたこと。

 一日中鉄板の前で焼き続けて、当面は焼きそばを食べたくなくなったこと。

 二日間の思い出を、ずっと語り合っていた。

 美桜もすっかり、俺達の仲間になっていた。

 俺はそのことが、すごく嬉しかった。


 売上から全ての経費を引いた残りは、およそ11万円。

 これが俺たちの当面の軍資金となった。

 お金の管理は、この中で一番信用出来るであろう明日菜ちゃんにお願いした。


        ◆◆◆


 美桜も含めた俺たち8人は、学園祭が終わってからも充実したキャンパスライフを送った。

 紅葉を見にドライブしたり、キャンプ場へ日帰りバーベキューに行ったり、年末はクリスマスパーティーも盛大に開催した。

 全て俺たちが稼いだ11万円で賄うことができた。


 一方で俺と明日菜ちゃんとの日曜日の会食は続いている。

 最近はお好み焼きだけでなく、焼きそばやパスタだったり、パンケーキやフレンチトーストだったり。

 そして明日菜ちゃんも俺のアパートに来るときは、必ずなにか差し入れを持ってきてくれる。

 パン、スコーン、マフィン、唐揚げ、生姜焼き、筑前煮など、毎回工夫を凝らした一品だ。

 

 そして……その天真爛漫な笑顔と綺麗な生足に、俺は毎回悩殺されている。

 一生懸命俺に話をしてくれる明日菜ちゃんの表情を見るのが、俺はいつも楽しみだった。


 美桜とは会う回数が格段に増えた。

 といっても、いつもの7人と一緒に会うことが大半だ。

 美桜はもう既に、すっかり仲間の一員だ。

 一度だけ星野を入れて、国分寺のお好み焼き屋で3人で食事した。

 星野は吉川と、ケンカの最中のようだった。

 正直俺は、あまり関心がなかったが……。


 年が明け、1月2日に俺たちは初詣に行った。

 美桜は長野に帰省したので、大学のいつもの7人だ。

 去年は5人だったが、今年は海斗と弥生ちゃんも一緒だ。


 新井薬師へ初詣したあと、昨年同様綾音のマンションで鍋パーティーを開催した。

 鍋を7人で囲んで、乾杯する。

 因みに俺と誠治と綾音は、缶ビールだ。

 俺も綾音もめったに酒を飲まないが、今日は正月だから特別だ。

 誠治はさすがに酒屋の息子だけあって、結構自宅でも飲んでいるらしい。


「いつか訊いてみたいなと思ってたんだけど」

 俺はずっと訊いてみたかったことを口にした。


「弥生ちゃんて、彼氏とかいるの?」


「え? そんなっ……瑛太さん、ごめんなさい! 瑛太さんは素敵な先輩ですけど、これ以上問題を複雑にしないで下さい!」


「なんで俺、振られてるの?」

 もちろん弥生ちゃんの冗談だとわかっている。


「いるわけないじゃないですか。いたらこんな風に、グループで行動してませんよ」


「そういうもんなのかな?」

 俺は弥生ちゃんだったら、彼氏がいても不思議じゃないと思ったけど。


「どんなタイプが好みなの?」


 綾音がツッコむと、意外な返事が帰ってきた。


「えーっとですね……ぶっちゃけ、孝太郎さんみたいな人がタイプなんです!」


「俺の兄貴?」

 俺の口から、変な声が漏れた。


「あんなのどこがいいの?」


「あの胸筋と上腕二頭筋が最高です! 今度行ったら、触らせてくれますかね?」


 話を聞けば弥生ちゃんはかなりの筋肉オタクで、格闘技を見るのが大好きらしい。

 人の好みは、わからないものだ。


 また今年もこのメンバーで、長野遠征に行くんだろうか。

 それはそれで楽しい。

 できればこんなキャンパスライフが、いつまでも続いてほしい。

 新年早々、俺はそんな呑気なことを考えていた。

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