No.116:大盛況
「ヤバい! 弥生ちゃん、すげー戦力ッス」
「本当だな。一番頼りになるかも」
海斗も俺も、感心している場合ではない。
その声を聞いて、屋台の前に客が並び始めた。
俺と海斗は、プラスチックの容器に焼きそばを詰め始める。
「焼きそばが350円でーす! 是非食べてみて下さーい」
美桜の声が聞こえる。
弥生ちゃんより遠慮がちな声だが、美桜にしては頑張っている方だろう。
既に屋台前には、10人以上の列ができていた。
9時半のチャイムがなった。
そこからはもう、戦争状態だ。
明日菜ちゃんと誠治が注文を聞いて、焼きそばをどんどん売りさばいている。
俺と海斗は、どんどん容器に詰めていく。
スタートダッシュが肝心だ。
予想以上に、もの凄い勢いで売れていく。
ソース焼きそばも、ミーゴレンも同じぐらいの勢いだ。
ミニ浴衣の客引き二人は、やはり目立っていた。
特に弥生ちゃんは明るく大きな声で、満面の笑みでやってくれている。
なんというか、人を引き寄せる勢いがあるのだ。
俺と海斗は、とにかく焼きまくった。
作ったそばから、どんどん売れていく。
朝のスタートダッシュはかなり続いた。
屋台の前の客引き影響かと思ったが、次第にチラシを手にした客が目立つようになった。
綾音とエリちゃんのおかげだろう。
11時前ぐらいだろうか。
ようやく行列が、一旦なくなった。
「ようやく行列がなくなりましたね」
明日菜ちゃんも、疲れた様子だ。
「また昼前にピークがくる。それまでに交代で休憩しよう」
誠治が海斗と交代する。
海斗は裏でコンビニのおにぎりとミーゴレンを食べながら、つかの間の休憩だ。
綾音とエリちゃんを屋台に呼び寄せて、今度は明日菜ちゃんと弥生ちゃんにビラ配りを頼んだ。
そうやってローテーションを組んで休憩を交互に取りながら、今日一日を乗り切る。
昼前から、またラッシュが始まる。
とにかく鉄板はフル稼働。
エリちゃんと海斗が販売補助と会計だ。
やはりミーゴレンは正解だったようだ。
ソース焼きそばと、ほぼ同数が売れている。
このラッシュは、1時半ぐらいまで続いた。
ようやく俺が鉄板から離れることができた。
急いで昼食を詰め込んで水分を補給し、すぐさま誠治と交代する。
「どれぐらい売れたんだ?」
俺は売上をチェックしている誠治に聞いた。
「すげーぞ。すでに235食売れた。おそらくあと残り70食ぐらいだが、ここからはどうしても落ちるだろうな」
3時過ぎの中食の時間が狙い目かもしれないが、他のおやつと競合するだろう。
女性陣の呼び込みに期待したい。
「ねえ誠治、残り少なくなってきたらさ、『あとXX個です』って呼びかけて
「カウントダウンか。綾音、それナイスアイディアだ! よし、50切ったらカウントダウンを始めよう」
それから3時ぐらいまでは、客はポツポツだった。
それでも20個売れたところで、カウントダウンに入る。
「こちらの焼きそばとミーゴレン、残り49個となりました! お早めにお求め下さい!」
存在感抜群の綾音が、大きな声でそう呼びかけた。
客が並んで、2個売れた。
「残り47個となりました! 完売次第終了となりまーす! お急ぎ下さーい!」
美桜も頑張って、声を張る。
また1個売れた。
カウントダウンはどんどん進んでいく。
途中停滞した時間帯もあったが、確実に売れていった。
この調子なら、完売確実だろう。
誠治はチラシ配り部隊を呼び寄せて、屋台の前で呼び込みに参加してもらう。
これだけミニ浴衣の美女が揃っている。
集客力は強力だ。
カウントダウンはどんどん進む。
4時過ぎには、残り15個になった。
そして最後の2個になったところで、女性客が2個買ってくれた。
完売だ。
俺たち全員で、その女性客に拍手でお礼を伝える。
時間はまだ4時半前だった。
「凄いぞ! 298食完売だ! 皆本当によく頑張ってくれた。もうあと1日、頑張ろう。多分今日より、売れると思う」
誠治が全員を労った。
俺たちは片付けを始めた。
自己責任になるが、屋台は明日までこのままでもかまわないらしい。
俺たちはブルーシートを被せてロープを張り、一応南京錠でロックする。
着替えた女性陣が戻ってきた。
誠治はエリちゃんを助手席に乗せて、軽トラで帰っていった。
軽トラは定員2名だから、俺よりはエリちゃんが助手席のほうが誠治もいいだろう。
残った俺たち6人は、駅へ向かって歩き出した。
「皆、どうだった?」
俺は声をかけた。
「ちょっと恥ずかしかったですけど、楽しかったです。今までこんなこと、やったことなかったですから」
「明日菜ちゃんは、注目されてたもんね。勝手に写真を撮ろうとしてた男の子がいたから、何人か注意したけど……ワタシなんか、写真の対象に全くなりませんでしたよ」
「でも一番呼び込み効果が高かったのって、弥生ちゃんだったと思うよ。通る声で、全力でやってたもんな」
海斗が弥生ちゃんの活躍を称える。
「わたしも最初、圧倒されちゃった。お客さん皆、弥生ちゃんに注目してたと思うよ」
「そうそう。呼び込みMVPは、弥生ちゃんだよ。ウチも頑張ったけどね」
美桜と綾音にもそう言われ、弥生ちゃんは少しはにかんでいる。
「いずれにしても、もう一日だ。頑張って、盛大な打ち上げをやろう!」
俺がそう言うと、全員口々に気合を入れた。
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