No.114:試食会


 俺は早速、美桜にLimeの音声通話で連絡を取った。

 美桜はちょっと驚いていた。


「学園祭に参加させてもらうのは嬉しいけど……こんなミニ浴衣なんてあるんだね」


 俺は誠治から例のミニ浴衣の画像リンクを送ってもらって、それを美桜にも転送した。


「まあ客寄せのコスチュームだな。もちろん美桜の予定もあるだろうし、こんなの着せられるんだったら、イヤかもしれないしな」 


「もちろん着たことないけど……コスプレみたいで、可愛いよね。ちょっとやってみたいかも」


「じゃあ参加ということで、いいか?」


「うん。他の皆がOKだったら。迷惑じゃないかな?」


「一応皆の賛同も得ている。その辺は心配ないよ」


「ありがとう。じゃあ参加させてもらうね」


 美桜が参加してくれたら、集客力も確実にアップするだろうな。


「なんか楽しそうだね。学園祭」


「美桜のところは、なにもやらないのか?」


「わたしはやらないよ。特にサークルとか入ってるわけじゃないし。やっぱり共学だと、皆でわいわいできて楽しそうだね。この間のバーベキューの時、本当にそう思ったよ」


「まあ、わいわい楽しいのは間違いないな」


「大学の友達にも、宣伝しておくよ。多分行きたいっていう子、たくさんいると思う。あと恵子と吉川くんにも、話しとくね」


「ああ、そうしてくれ。そういえば、あの二人最近どうなの?」


「今のところは、うまくやってるみたいよ。たまにケンカしてるようだけど」


「まあたまにケンカするのは、仲のいい証拠かもしれないな」


「そうだね」


 美桜のクスッという笑い声が聞こえた。

 

        ◆◆◆


 俺は学園祭用のチラシ作りの担当になった。

 女子は美桜も含めると5人。

 そのうち一人は屋台の中で販売補助、二人は店の前で集客、そしてもう二人を人通りの多いところでチラシを配って集客する体制にした。


 フリー素材の焼きそばの写真を探し、屋台の場所や値段を入れ込んでデザインを考える。

 サイズはA6だから、あまり情報を詰め込みすぎると見にくくなる。

 イラスト用のソフトはあまり使ったことがないので、俺は悪戦苦闘した。


「焼きそばの単価は、350円にした。本当はもっと高くしたいんだが、学園祭に来る連中はいろんなものを食べたいと思うはずだ。だから量も少なくして『他にもなにか食べられる値段』にして、そのかわり数を売りたい」


 誠治は気合が入っていた。


「売上目標は、一日10万円、二日で20万円だ。そのためには一日286食以上売らないといけない。とにかく時間との勝負だから、各自いろいろと考えてほしい」


 確かに焼き方の工夫が必要だな。

 その辺も考えないといけない。


「オレの計算が正しければ、20万円の売上があれば半分は手元に残る。打ち上げもクリスマスパーティーも、豪勢にできるぞ。気合い入れて行こう!」


 そしてこの学園祭のため、ヴィチーノのバイトは3人共オフにしてもらった。

 9月に誠治から交渉してもらったが、オーナーからかなり文句を言われたらしい。

 結局他のバイト仲間からの了解を取り付けて、なんとか休める状態になった。

 当日はオーナーも出勤して、店を手伝うらしい。

 ちょっと申し訳ないけど、まあ目をつぶってもらおう。


 学園祭の前週、美桜を除く俺たち7人は綾音のマンションに集合した。

 皆で意見を出し合いながら固めたレシピで、試食会をするためだ。


 ソース焼きそばもミーゴレンも、中に入れる具材は同じものを使用することにした。

 豚肉、キャベツ、もやし、玉ねぎの4種類だ。


 本来ミーゴレンは、マレーシアやインドネシア等のイスラム教の国の食べ物だから、豚肉は決して使われない。

 しかし具材は共通にしないと、効率が悪い。

 あくまでも『ミーゴレン風』ということで、豚肉を使うことにする。

 もしお客さんから訊かれたら、ハラルフードではない旨を伝えるように徹底した。

 俺が作成したチラシにも、小さく『豚肉を使用』と書いてある。


 綾音の家のホットプレートで、代表して俺が焼きそばを作る。

 まずはソース焼きそばだ。

 俺は明日菜ちゃんが来た時とかたまに作っているので、普段どおりの手順で焼きそばを作っていく。


 ソースの香ばしい匂いが漂う仲、全員で試食。

 まあこれは全員納得の味だった。


 次は問題のミーゴレンだ。

 途中までは手順は同じ。

 最後の仕上げで、サンバルソース、オイスターソース、ナンプラー等を混ぜ合わせた特製ミーゴレンソースで仕上げる。

 このソースは誠治がカマール・マカンのオーナーから聞いたものをベースにして作ったものだ。

 最後に紅ショウガの代わりにパクチーを乗せて完成だ。

 本当は目玉焼きを乗せたいところだが、コストと手間の関係で省略する。


 ミーゴレンを小皿に取り分け、全員で試食だ。


「あ、美味しい」

「美味しいです。スパイシーで、クセになりますね」

「エリ、この味好きかも」

「ワタシもいいと思います!」


 女性陣全員のお墨付きを得られて、誠治も小さくガッツポーズだ。

 これで味は決まった。

 あとは当日売るだけだ。

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