No.111:二人の誕生日


「それはそうとだ。ちょっと先になるんだけど……10月末の明青祭めいせいさい、今年は俺たちで何かやらないか?」


 明青祭とは、うちの大学の学園祭である。

 去年は3人だけだったし、特になにもやらなかった。

 1日キャンパス内をふらついて終わっただけだったのだが……。


「何かっていうのは、お店を出したりするってこと?」


「ああそうだ。模擬店をやろうぜ。これだけ綺麗どころがそろってるんだ。集客はバッチリだぞ。それに儲かった分でまたバーベキューとかクリスマスパーティーとかをすればいいだろ?」


 なるほど、それは金銭的に助かるな。


「具体的には何をやるんだ?」


「まあ粉モノがいいだろうけど……その辺は俺に任せてくれ」


「ウチらは、客引きかな?」


「おお、そうだな。いつものメンバーで客引きしたら、男性客ほとんど全員に売ることができるんじゃないか? オプションのサービスをつけたら」


「模擬店のオプションて何よ!」


 この辺のアイディアを出させたら、誠治の右に出るものはいないだろう。

 学園祭に出店とか……まるでリア充の巣窟だ。

 俺は少しだけ、学園祭が楽しみになった。


        ◆◆◆


 翌週の日曜日は8月25日。

 お昼過ぎに明日菜ちゃんがやってきた。


「こんにちは」


 今日は真夏スタイルの明日菜ちゃん。

 ショート丈のブランドTシャツに薄手のパーカー、それとベージュのプリーツミニスカート。

 生足は眩しいわ、動くとおヘソが見えるわで……俺はちょっとたじろいだ。


「はい、お誕生日おめでとうございます」


 明日菜ちゃんは手に抱えた箱を、俺に差し出した。


「ありがとう。明日菜ちゃんもお誕生日おめでとうね」


「はい。ありがとうございます」


 今日は俺の誕生日。

 そして明日菜ちゃんの誕生日は昨日だ。


 俺たちは連絡をし合って、お互いプレゼントは用意しないことにした。

 そのかわり明日菜ちゃんからのリクエストがあった。


「なにか瑛太さんの手料理を食べさせてもらえませんか? 私はお誕生日ケーキを作って持っていきます」


 そんなことでいいんだったら……ということで、俺は今日お好み焼きではなく普通の昼食を用意した。


 ところで……明日菜ちゃんが持ってきてくれた箱が、結構デカイな。


「もしかしてケーキって、ホールで作ってくれたの?」


「はい、そうなんです。といってもスポンジは市販の5号のを買ってきましたけどね。あとは生クリームでデコレーションして作りました」


「凄いな。楽しみだよ。あとでいただこう」


「はいっ」


 俺はキッチンに回って、食事の準備をする。

 今日のメニューは野菜の冷製スープに鶏ときのこのクリーム煮、サラダにご飯というシンプルなものだ。


「じゃあ料理を運ぶね」


「お手伝いします」


「今日はいいよ。お誕生日だからね」


「瑛太さんだって、そうじゃないですか」


 とりあえず明日菜ちゃんに座ってもらって、ウーロン茶と冷製スープをテーブルに運ぶ。


「とりあえずスープからね。今日は暑いから、冷たいスープにしたよ」


「はい、ここまですっごく暑かったです」


 多分外の気温は30度を余裕で超えている。

 いただきますをして、二人でスープをいただく。


「あ、おいしい」


「そう?」


「これ、何でしたっけ……あっ、ガスパチョですか?」


「おーさすが。よくわかったね」


 俺がネットで調べて、適当に作った冷製スープだ。

 トマト、きゅうり、パプリカ、にんにく、玉ねぎ、その他調味料を入れてミキサーにかけるだけだ。


「それこそ余った野菜でできますね」


「そうそう。それが発想の原点だったけどね」


 冬のスープならミネストローネだが、夏ならこれもいいな。

 強いて言えば、作ったあとミキサーを洗うのが面倒くさいぐらい。


 飲み終わったスープのお皿をさげて、鶏ときのこのクリーム煮とサラダ、ご飯をトレイの上に乗せて運ぶ。

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