No.110:遠征を終えて
「楽しかったー」
「そうだね。お腹もいっぱいだよ」
後部座席で星野と美桜も満足そうだ。
バーベキューが終わってお開きとなり、俺は誠治の運転で美桜と星野の二人を自宅まで送っていく。
俺の心配をよそに、二人共最初から俺たちのグループに馴染んでいた。
「ねえ、誠治君」
星野が運転している誠治に声をかける。
「ん?」
「あの女の子たちの中でさ、仲代くんてモテちゃったりしてるの?」
「あー……瑛太、どうなんだ?」
「俺に振るなよ」
振られても困るし、モテてはいないだろ?
「わたしも皆に瑛太君の高校の時のこととか、すっごく聞かれたよ」
美桜までこんな調子だった。
「そりゃ仲間としちゃあ当然だろ? 友達だよ、友達」
「友達ねぇ……」
誠治が混ぜっ返す。
「そっかー。やっぱ美桜、頑張んないとダメじゃん!」
「ちょ、ちょっと恵子」
美桜が慌てている。
「星野、俺は美桜と友達に戻ったばっかりなんだよ。あんまり騒がれると、こっちはやりづらい」
一応俺は、助け舟を出してやる。
「そ、そうだよ」
「なーんだ、つまんないの」
「そういう星野は、吉川とうまくいってるのか?」
「うーん……まあまあ、かな?」
「まあまあ、って……」
もうこっちまで巻き込まれるのは、勘弁してほしい。
先に星野の家へ行って降りてもらい、それから美桜の家に向かった。
「じゃあ瑛太君、また東京でね」
「ああ、またな」
「誠治君もありがとう。おやすみなさい」
「ああ。美桜ちゃん、またね」
誠治は車を走らせる。
美桜が小さく手を振っているのが見えた。
「いやー、瑛太君、モテモテじゃん」
「やめてくれ」
誠治に君付けされて、背筋が寒くなる。
「これでまた、盛り上がってくるぞ! あー、メシが旨い!」
「お前、マジ性格悪いな!」
誠治はケラケラと笑っている。
俺はどっと疲れて、助手席の背もたれに身体を預けた。
◆◆◆
翌朝の朝食後、俺達は帰り支度を始めた。
今日は8月16日、予想では渋滞のピークは15日らしい。
とはいっても、今日も関越道は混むに決まっている。
どうせ混むならと、俺達は途中軽井沢に寄って遊んで帰ることにした。
おそらく東京へ到着するのは、かなり夜も遅い時間。
それでも女性陣は「軽井沢のアウトレットのお店に寄りたい」という意見で一致したようだ。
荷造りを終えて、すべて車の中に積み込んだ。
全員で忘れ物が無いかチェックする。
「またいつでも来てくださいね」
お袋たちも見送りに、出てきてくれた。
全員が口々のお礼の言葉を述べる。
お袋も忙しかっただろうな。
俺たちは車に乗り込み、実家を後にした。
後部座席のメンバーを、来たときと入れ替えた。
今誠治の車に乗っているのは、俺と明日菜ちゃんと小春ちゃんだ。
「本当に楽しかったです」
後部座席の明日菜ちゃんが、そう口にした。
「そっか。気に入ってもらえてよかったよ」
「また来年、お邪魔してもいいですか?」
「小春も行きたい!」
小春ちゃんは一人だけ高校生だったが、それなりに楽しんでいたようだ。
綾音にも、もうすっかり懐いていた。
見ていて微笑ましかった。
結局俺たちは軽井沢のショッピングプラザで買い物をして、近くのマクドで食事をして、断続的な渋滞に巻き込まれながら東京へ戻ってきた。
明日菜ちゃんと小春ちゃんを送ってから、俺がアパートへ戻ってきたのは夜の11時半だった。
◆◆◆
長野ツアーから戻ってきてから数日後。
バイトを終えた俺達3人は、吉祥寺のマレーシア料理店『カマール・マカン』の中にいた。
「そいじゃあ誠治、お疲れ」
「お疲れ様」
「おう、ありがと」
俺たちは乾杯した。
誠治は今日、ビールを飲んでいる。
俺と綾音はソフトドリンクだ。
先日の長野ツアー中、ずっと運転してた誠治を
結局全ての行程を誠治一人で運転してくれた。
もちろん海斗もそうだから、海斗にもあらためてお疲れ会を開催する予定だ。
「でも本当楽しかったよね。食べ物は美味しいし、自然は豊かだし。川も綺麗だった」
「ああ、そうだな。また来年も行きてーな」
綾音も誠治も、大満足の様子だ。
俺たちのグループLimeでも、ほぼ全員から楽しかったというコメントをもらっている。
「バーベキューも美味しかったし。あ、そうそう。美桜ちゃんも可愛かったよね」
「そうか? 綾音が言うと、ちょっと嫌味かもしれんぞ」
「へ? そ、そうかな。そんなことないよ……」
少しモジモジする綾音の横で、誠治がため息をついている。
「美桜からも連絡があったんだ。バーベキュー、めちゃくちゃ楽しかったって。ああ、そう言えば……」
俺は昨日、美桜から送られてきたLimeメッセージを思い出した。
美桜:瑛太君たちのサークルってさ、他大学からの入会もOKだったりする?
「って、訊かれたんだよ」
「あーー」「あーー」
綾音と誠治の声がハモる。
「いや別にサークルじゃないぞ、って言っといたんだけどな」
「……まあ美桜ちゃんとしては、一緒に遊びたいって思うわよね」
綾音が視線を少し上にあげて、思考している。
「まあ……イベントがあったら、誘ってあげたら? ああ、明日菜ちゃんにも訊かないといけないわね」
「綾音はいいのか?」
誠治の目が細くなる。
「いいわよ、別に。この際一人増えたって、変わんないでしょ?」
「そうか。もちろん他のメンバーにも訊かないといけないよな」
「ああ……まあねぇ」「ああ……まあなぁ」
俺の問いかけに、また二人の声がハモる。
「まあサークルじゃないけど、イベントがあれば声をかけるからって言っとくよ。他のメンバーにはその都度訊いてみる感じだな」
まあそんなところが現実的だろう。
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