No.109:ボランティアタイム
翌日の午前中は、俺たち8人の「ボランティアタイム」となった。
朝食をとり終えて、軽作業ができる格好で全員庭に集合する。
「いやあ、悪いねえ。でもこれだけの人数がいるんだったら、あっという間に終わるから」
兄はそう言いながら、俺達にレクチャーを始めた。
俺たちのボランティアは「芋掘り」だ。
ちょうどジャガイモが収穫の時期を迎えている。
平地だと7月には収穫が終わるが、この辺りだと8月収穫が多い。
うちの庭のジャガイモスペースは結構広い。
いつもは両親と兄との3人で収穫するのだが、これが結構な重労働だ。
高校までは俺まで駆り出されていたから、その大変さはわかる。
兄のレクチャー通り、男性陣が
そして女性陣が芋引きをする、という流れだ。
これが結構重労働だが、さすがにこれだけの人数がいれば捗る。
土を掘り返した男性陣も、芋引きの方に参戦する。
2時間弱で、芋掘りは完了した。
汗をかいた俺達は、一人ずつシャワーを浴びる。
キッチンへ戻ってきた俺達を待っていたのは、母親が作ってくれた芋料理だ。
といっても、じゃがバターとフライドポテトの二品だが。
「うわっ、じゃがいもホクホクですね」
「フライドポテト、美味しい!」
弥生ちゃんとエリちゃんが、声を上げる。
お腹が空いているのか、麦茶を飲みながらどんどん食している。
一方で、明日菜ちゃんと綾音が疲れ気味だ。
「明日菜ちゃん、大丈夫?」
「はい。でもシャワーを浴びたら、急に眠たくなってきました」
「ウチも一緒。寝不足で芋掘りはキツイかも」
明日菜ちゃんだけでなく、綾音もお疲れだ。
「え? 綾音さん、昨日寝られなかったんですか?」
弥生ちゃんが訊いた。
「まったく、誰のせいよ……もう、喰らえ! フライドポテト!」
「ちょ、ちょっと、綾音さん」
綾音がフライドポテトを二切れ手にとって、弥生ちゃんの口の中にねじ込もうとしている。
「瑛太、結局美桜ちゃんは来るのか?」
「ああ、昨日の夜連絡があった。星野っていう友達と一緒に来るそうだ」
そうだ、誠治に訊かなければいけないことがあった。
「その二人は親の車でここへ来てもらうんだけど、帰りは誠治の車で送ってやってくれないか。俺も一緒に乗るから」
「おー、まっかせなさい」
「悪いな」
これで美桜たちの、帰りの足は確保できた。
綾音と弥生ちゃんの二人は、まだわちゃわちゃと騒いでいた。
◆◆◆
夕方になり、陽も傾いてきた。
実家の倉庫から、バーベキューグリルを2台出してきて準備を始める。
中心になってくれるのが、我らが『バーベキューマスター海斗』である。
炭の準備ができた頃、全員庭に集合した。
そろそろ始めようかという時に、車が1台入ってきた。
少し離れたところに停まり、女性が二人降りてきた。
美桜と星野だ。
俺は二人に近づいていく。
「こんばんは。道、わかったか?」
「こんばんは、瑛太君」
「仲代くん、こんばんは。うん、ナビで来たから大丈夫だったよ」
俺は運転してきてくれた星野のお母さんに、車の窓越しに挨拶した。
車はすぐにバックして、帰っていった。
「紹介するよ。こちら徳永美桜さんと、星野恵子さん。同じ高校の同級生だ」
全員が新たな来客と挨拶をかわす。
美桜は紺色の半袖Aラインワンピースで、見た目も涼し気だ。
そして……首元にはシルバーの四葉のクローバー。
星野の方は、Tシャツ&パンツというカジュアルなスタイルだ。
「これで全員そろったな。じゃあ始めようぜ」
誠治の一言で、海斗が肉を焼き始める。
そして全員、飲み物の準備を始めた。
「じゃあ瑛太、乾杯してくれ」
「何で俺?」
誠治が変なパスを送ってきた。
まあ仕方ないか……。
「えーと、皆お疲れさまでした。明日東京へ戻るわけだけど、今夜はもう少し楽しもう。美桜も星野も楽しんでいってくれ。じゃあ、乾杯」
全員紙コップをかざして、乾杯する。
そして肉も焼き上がった。
空腹な大学生と高校生の宴が始まる。
俺は美桜と星野のところへ近づいた。
「わたし達、迷惑じゃなかったかな?」
美桜が心配そうに訊いてくる。
「全然。むしろ是非連れてきてほしいって言われたよ」
「それにしてもさ……なにこの、女の子たちのレベルの高さ。『芸能人バーベキュー大会』か何かなの? 皆可愛い子ばっかりじゃない。お金でも払って集めたの?」
星野は驚いている。
「まあ確かにレベルは高いな」
俺は否定しない。
「それに……イケメンと可愛い男の子もいるし」
「星野、かなりストライクゾーン広いんだな。まあ誠治は見た目はいいよな」
話が聞こえたのか、誠治がこっちへやってきた。
「徳永さん、久しぶり。合コン以来だね」
「えーと……誠治君、でいいかな?」
「もちろん。じゃあオレも美桜ちゃんで」
なんだこのリア充間のトーク。
「こんばんは」
「ねえねえ、瑛太の高校の時の話とか聞かせてよ」
今度は明日菜ちゃんと綾音までやってきた。
「えーと……瑛太君、しゃべっちゃっていい?」
「……良識の範囲内で頼むぞ」
まあそんなに話されて恥ずかしい話はないはずだ。
ないはずだよな?
俺たちは食べては騒ぎ、騒いでは食べた。
誠治も綾音もアルコールは飲まなかった。
それでも全員、やけにテンションが高かった。
そのテンションは、最後に全員で焼きマシュマロを作る時まで続いた。
俺は本当に楽しかった。
こんなにいい仲間たちと巡り会えて、本当に幸せだと思った。
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