No.107:ニーズあるんですかね?


 2回戦は誠治とエリちゃん。

 3回あいこが続いて、誠治が負けた。

 男性の場合は、バケツ2杯。

 ひとつはボディー、もう一つは顔面だ。

 顔面にモロ水を食らった誠治が、のたうち回る。


「瑛太、お前ちょっとは加減しろ。鼻に入ったぞ」

 

 誠治はかなり苦しそうだが、全員爆笑だ。


 3回戦は俺と綾音。

 すぐに決着、綾音の負け。

 誠治が思いっきり水を掛ける。

 綾音の胸に目掛けて。


「ちょ、ちょっと! なんで私だけ正面からなの?」


 綾音の胸に、水をかけられたラッシュガードが張り付く。

 たわわな胸の形からしなやかなウエストまで、体の前部のラインがくっきり浮き出た。

 誠治、完全に狙ったな。


「悪く思うな。グラビア担当の宿命だ」


「もう……なんなのよ、本当に……」

 諦めた口調で、綾音はボヤく。


 次戦が小春ちゃんと弥生ちゃん。


「おおっ、合法ロリと非合法ロリの対決だ!」

「こ、これは見逃せないわ!」


 誠治と、美少女好きの綾音が前のめりだ。


「弥生ちゃん、もし負けたら正面からいっちゃっていい?」

 海斗がバケツを片手に訊いた。


「え?……ニーズあるんですかね?」


「あるある! ある意味、綾音先輩と同じぐらいのレベルである!」


「わかりました! 胸かおヘソのあたりに、いっぱいかけちゃって下さい!」


「言い方が、既にエロい!」

 なんだか、やる前から盛り上がっている。

 

 対戦結果は、あっさり弥生ちゃんの負け。

 海斗の水が、容赦なく弥生ちゃんの胸にかけられる。

 小柄な弥生ちゃんのアンバランスな豊かな胸が、くっきりと浮き出る。

 綾音が「や、やるわね」と呟いているが……。

 

 結局決勝戦まで、この戦いを続けた。

 優勝して最後まで水を回避できたのは、小春ちゃんだった。

 たぶん一番皆が納得できる結果だったと思う。

 綾音が「お姉ちゃんが、後でなにか賞品買ってあげるからね」と言っていた。


 河原のベンチに腰掛けて、俺達はおにぎりを頬張る。

 朝食の後に、母親と女性陣全員で握ってくれた。

 付け合せの野沢菜と一緒に食べると、遊び疲れた体が回復していく。


「本当に気持ちいいです」


「川とかで、泳いだことなかった?」

 俺は明日菜ちゃんに問いかける。


「はい、記憶にないです。いいですね、海と違って体がベトつきません。水も綺麗ですし」


「エリは小さい時に、どこかの川で泳いだ覚えがあるなぁ……。カニとか採って、遊んでました」


「それ、うちの家族と一緒に行ったときだろ? 八ヶ岳の方だ」

 海斗が話に入ってきた。


「そうそう、そうだった。海斗、カニを捕まえるの怖がってたよね」


「逆にエリは全然平気だったよな。俺は今だに虫とか苦手だ」


 まあ誰しも苦手なものが一つや二つはある。


「あーでも、長野最高だな。東京よりずっと涼しいし、自然豊かだし。毎年避暑に来たいわ」


「本当にそう。お蕎麦も美味しいし、川遊びもできるし」


 誠治も綾音も、気に入ってくれたようだ。

 来年も、このメンバーでまた来れたらいい。

 俺はそんなことを思った。


 川遊びを終えて、俺達は着替えた。

 そして川の水で冷えた体を温めるべく、近くの温泉施設へ移動する。


 車で20分も走ると、村営の温泉施設があった。

 受付で入場料を払い、男湯と女湯に分かれる。

 内湯も露天風呂もある、立派な温泉施設だ。


 緑に囲まれた露天風呂で、男3人が湯船に浸かる。


「いやー、川遊び盛り上がったな。綾音の巨乳はわかってたけど、弥生ちゃんが思わぬ伏兵だったぞ」


「誠治先輩、本当におっぱい星人ッスね。俺はやっぱ南野がバランスが取れていて、綺麗だなって思ったッス」


「海斗、お前巨乳派か貧乳派か、どっちなんだ?」


「……ノーコメントでおなしゃす」


「なんでだよ!」


 ……まあ男3人集まったら、こんな話になるんだろうな。

 下世話なこと、極まりない。


「瑛太は貧乳もいける口だもんな」


「だから……胸が全てじゃないだろ?」


「誠治先輩、なんでそんなこと知ってるんスか?」


「瑛太の元カノが貧乳だったそうだ」


「マジすか?」


「俺も見たことないけど……まあ本人はコンプレックスだって言ってた、ってだけの話だ」

 俺はもう、面倒くさくなってきた。


「でも、あんだけ美女がいて先輩方二人がいて……カップルにならないもんなんスかね?」


「まあ今のところは、な」


 誠治が意味ありげに、俺に視線をよこす。


「なんだ?」


「まあキーマンは、瑛太だろ?」


「やっぱそうなんスかね?」


「何で俺なんだよ」

 俺はいいかげんのぼせてきたので、湯船から出て岩の上に腰掛ける。


「でも……このままずっと友達って可能性だってあるわけだろ?」


 俺はそう口にした。

 でも口にしてから気づいた。

 多分その可能性は薄いかもしれない。

 なんとなくだが、自分だってそう思っていた。


「可能性は薄いな。でも……変わることが、悪いことでもないだろ?」


「そうっスね」


 俺は考えたくなかった。

 のぼせ始めた頭は、回転しなくなっていた。


「ところでその貧乳の美桜ちゃんは、結局来るのか?」


「お前、マジ失礼だな!」

 人の元カノを貧乳呼ばわりするんじゃない。


「え? なんスか、それ?」


「瑛太の元カノさんも、長野の実家に戻ってるんだよ。それで明日のバーベキューに呼ぼうかどうしようか、迷ってるって話」


「昨日聞いたときは、行くんだったらもう一人の友達と一緒に行きたいっていうニュアンスだったな」


「いいんじゃね? とりあえず後で女性陣にも相談してみたらどうだ?」


「ああ、そうしてみるよ」


 俺たち3人共、そろって脱衣所に向かった。

 喉が渇いて仕方がなかった。

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