No.105:つまりそういうことッス


 女性は1階の大広間に、男性は2階に上がっていく。

 海斗が部屋に入ったところで、俺は誠治を呼び止めた。


「誠治、ちょっといいか?」


「ん?」


「ちょっと相談なんだか……」


 俺は誠治に相談することにした。

 美桜のことだ。


 美桜も俺達と同じ時期に、実家に帰ってきている。

 ただこの分だと、俺が抜ける時間がない。

 もちろんそれならそれで仕方ないのだが……。


「明後日、うちの庭でバーベキューやるだろ?」


「ああ」


「そこに美桜を呼んだら、まずいと思うか?」


「うーん……どうだろうな」


 誠治も首をかしげた。


「明日、皆に訊いてみたらどうだ?」


「やっぱ呼ぶんだったら、先に言ったほうがいいよな」


「そりゃそうだろ。いきなり来られてもな。でも……多分訊いたら、絶対『瑛太の元カノ、見たい!』って話になると思うぞ」


「……そういうもんなのか?」


「そういうもんだろ」


 誠治はニカッと意味ありげに笑った。

 それじゃあまあ、明日にでも皆に訊いてみることにしよう。


 俺たちも一人ずつシャワーを浴びる。

 俺は一番最後だ。

 2階の廊下で、シャワーを浴びたばかりの兄と出くわした。


「瑛太、シャワーは?」


「ああ、これから」


「それにしても……女の子、全員皆可愛いってどういうことだ? 東京の子って、皆あんなに可愛いのか?」


「んなわけないだろ。大学の中でも目立ってるよ」


「そうだろうな。それに誠治君もイケメンだしな」


「まあ背も高いし、見た目はいいからな」


「で、どの子が瑛太のお気に入りなんだ? まだ彼女はいなかったよな?」


 兄がニヤニヤしながら、訊いてくる。


「そんなんじゃないよ。皆友達だ。友達」


「ふーん……今のところは、ってとこか? 彼女っていえば、美桜ちゃんも可愛かったよな。なんで瑛太の周りにだけ可愛い子が集まってくるんだ? それはそれで不公平だぞ」


「なに訳わかんないこと言ってんだよ」


 別に俺の周りに集まってくるわけじゃないぞ。


「まあ楽しそうでなによりだ。俺も東京の大学へ行けばよかったわ」


 あーあ、とボヤきながら、自分の部屋に入っていった。

 まったく……一人暮らしだって、楽じゃないのに。


 俺はシャワーを浴びて、自分の部屋でくつろいでいた。

 すると机の上のスマホが振動する。


美桜:こんばんは。瑛太君、今実家かな? 実はわたしも恵子も戻ってきてます。吉川くんは単発のバイトが入ったらしくて、まだ東京らしいけど。


 美桜からのLimeだった。

 星野も戻って来てるんだな。


瑛太:俺も今実家だけど、7人の友達と一緒だ。めちゃめちゃ賑やかだ。明後日うちの庭でバーベキューをするんだけど、皆に訊いてみてOKだったら美桜も来るか?


 一応、先に打診をしてみよう。


美桜:えー、そんなに大人数なんだね。うーん、ちょっと恵子とも相談してみるね。


瑛太:了解、こっちも皆に相談してみるよ。


 たしかにこれだけの大人数で、美桜一人だったら来にくいのかもしれないしな。


 俺はスマホを机の上に置いて、部屋を出る。

 喉が渇いた。

 

 1階に降りて、冷蔵庫を開ける。

 中から麦茶を取り出して、コップに注いだ。

 そこへ階段の方から足音が聞こえた。

 海斗が降りてきた。


「あ、瑛太先輩」


「おう、海斗も喉が渇いたのか?」


「はい」


「麦茶でいいか?」


「はい、頂きたいッス」


 俺はコップを出して、麦茶を注いだ。


「はい」


「ありがとうございます」


 海斗はコップを受け取って、ゴクゴクと飲み始めた。

 そういれば、海斗とこうやってサシで話すことってほとんどなかったよな……。

 俺は前からちょっと気になっていたことを、それとなく訊いてみることした。


「海斗ってさ……その、彼女とかいたっけ?」


「え?」

 海斗の目が大きく見開いた。


「あー、瑛太さん、それ訊いちゃいますか」


「い、いや悪い……訊いちゃいけなかったか?」


「いや、別にいいんスけど……彼女はいないッスよ」


「そうなのか?」


「いたらこんな風に、他の女子と旅行に来られるわけないじゃないですか」


「うん……まあそうだな」

 いやたしかにそうなんだが……。


 海斗はにこにこと笑っている。

 海斗は見た目はイケメンと言うより、かわいい系の美男子だ。

 きっと女子からも人気が高いだろうな。


 海斗はもう一口、麦茶を飲む。

 何かを少し考えているのがわかる。


「瑛太先輩、テトリスって知ってます?」


「テトリス? あのブロックが上から落ちてくるゲームか?」

 唐突にどうした?


「そうッス」


「もちろん知ってるけど」


「今、縦4つの穴が空いているとしますね」


「ん? ああ」


「そこには本来、縦4つの長いバーを入れないといけないッス」


「うん、まあそうだな」


「でもタイミングを逸したり迷ったりしていると、別のブロックをハメてしまうこともあるッス。正方形のブロックとかL字のブロックとか」


「? うん……」


「そうすると後から落ちてくるブロックが、全てハマらなくなることがあるッス。本来であればぴったりハマって上手くいったはずなのに。そして全てが上手くいかなくなって、あっという間にゲームオーバーになることがあるッス」


「……」


「つまりそういうことッス」


「つまりどういうこと?」


「これ以上は有料っす。18歳以上で課金が必要っす」


「なんのゲームなの?」


 海斗は大笑いした後、麦茶を飲み干してコップを流し台へ置いた。

 そしてごちそうさまでした、と言って2階へ上がっていった。

 ひとり取り残された俺の頭の上には、クエスチョンマークが出現したままだった。

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